幕間④「エルザとガロウの追憶」
エルザはふと、地図の南部に記されたドラグニル「竜の墓場」を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「……私の故郷がバルザックに焼かれた時も、そうだった。」
その言葉に、アレンとカイル、そしてレイラの視線がエルザへと集まる。
エルザは背負った大剣の柄を無意識にきつく握りしめ、頭部の竜の角を微かに震わせた。
「あの地獄のような炎の中で、幼かった私はただ泣くことしかできなかった。親も、友達も、全てを失って……自分もここで灰になるのだと諦めていた。その時、私の前に立ちはだかったのが、ガロウだったんだ。」
エルザの視線の先には、腕を組んだまま黙って地図を見つめているガロウの姿があった。
ガロウは己の顔の左半分にある大きな火傷の痕に触れることもなく、ただフンと鼻を鳴らした。
「昔の話だ、エルザ。わざわざ他人に聞かせるような上等なもんじゃねえよ。」
「いや、話させてくれ。アレンたちにも知っておいてほしいんだ。」
エルザは譲らず、ガロウの横顔を真っ直ぐに見据えた。
「ガロウは、バルザックの第二師団の侵略によって、すでに自分の故郷と左腕を失っていた。それなのに、辺境の集落で生き残っていた私を見つけて、その鋼鉄の義手で、私を炎の中から抱き上げて連れ出してくれた。……この火傷の痕は、その時に私を庇ってついたものだ。」
アレンはガロウの顔の火傷と、鈍い光を放つ鋼鉄の左義手を改めて見つめた。
無骨で、時に容赦のない言葉を吐くこの獣人の隊長が、どれほど重い過去を背負い、どれほど深い優しさを持ってエルザを救ったのか。
その事実が、アレンの胸に重く、温かく響く。
「そこから数年間、ガロウは私をレジスタンスの隠れ家に匿い、生きるための戦い方を教えてくれた。私の剣技の基礎は、全てこの人に叩き込まれたものだ。……私にとって、もう一人の父親であり、恩人なのだ。」
エルザがそこまで一気に語ると、ガロウはばつが悪そうに顔の右半分だけでニヤリと不敵に笑い、鋼鉄の義手でガリガリと頭を掻いた。
「ちっ、父親なんてガラじゃねえよ。あの時のテメェは、飯を食うか泣くかしかできねえ、ただの小さくて手のかかるトカゲのガキだったからな。俺が死なせた仲間どもの面影が、どうにも重なっちまって、見捨てきれなかっただけだ。」
ガロウは隻眼の鋭い光をアレンへと向け、ドスの利いた声で言葉を続ける。
「だがな、こいつの復讐に燃える目を見てたら、このまま泥臭いレジスタンスの戦い方だけを教えて死なせるのは惜しいと思った。だから、ドラグニルの辺境の騎士団のところに、こいつを預けたんだよ。それが、まさか巡り巡って、アレン、お前さんという白竜の後継者を連れて戻ってくるとは、因果なもんだねぇ。」
「ガロウ……」
アレンはガロウとエルザの間に流れる、血の繋がりを超えた強固な絆を確かに感じ取っていた。
エルザのその深紅の革鎧が、ただの復讐者としてではなく、大切な人々を守るために立ち上がった気高き戦士の装いとして、アレンの目には一層眩しく映った。




