幕間②「レイラの趣味」
城下町の喧騒を抜け、カイルが用意した秘密のセーフハウスへ滑り込んだ一行は、ようやく古びた机の前に集まり、地図を広げて安堵の息を漏らしていた。
アレンは新調された白の魔導衣の袖をまくり、結晶化した白銀の聖鱗を見つめながら、ふと先ほどからの疑問を口にした。
「……なぁ、レイラ。さっきから気になってたんだけど、この俺の魔導衣だがお前は一体どこから出したんだ? 砦を出るとき、そんな大荷物を背負っていた風には見えなかったけど。」
アレンの素朴な問いに、レイラはピクリと眉を動かし、フッと不敵な笑みを浮かべた。
「ふん、私はこれでも第一師団の遊撃隊長だからな。独自の『空間隔離魔法』により、常に私専用の衣装格納庫を展開し、あらゆる状況に対応できるよう備えているのだ。戦術的備蓄、というやつだな。」
「いやぁ、アレンくん。そんな格好良い名前で誤魔化されちゃダメだよ。」
横からカイルが、ずり落ちた眼鏡を指で押し上げながら、待ってましたと言わんばかりにニヤニヤと割り込んできた。
「レイラはね、実は重度のオシャレさんなんだよ。趣味は衣装収集で、可愛い子や格好良い子を見つけると、自分のコレクションを着せ替え人形にして遊びたくて堪らなくなる悪癖があるんだ。その異空間魔法、中身の九割九分は彼女の私的なお洋服コレクションさ。軍の機密物資を運ぶための魔法を、私欲のために私物化してるんだから困ったもんだよねぇ。」
「なっ……! カイル、余計な暴露をするな! これはあくまで、あらゆる環境下での隠密性と戦闘能力を担保するための、正当な騎士の嗜みだ!」
薄暗い部屋の中で、大真面目な顔のまま、どこか焦ったように早口で弁明するレイラ。
カイルはクスクスと笑いながらアレンに耳打ちする。
「ほらね、図星。第一師団の優等生殿も、お洋服のことになると形無しさ。君たちが砦に運ばれた時に僕が送った通信映像を見て『素晴らしい素材が来た!』って、目を爛々と輝かせてたんだから。」
「カイル、貴様……っ! 次の一言を口にしたら、我が防空近衛大隊の権限で処刑するぞ!」
さすがのレイラも頬を微かに朱に染め、大真面目な顔で恐ろしい脅しを口にする。
そんな二人のやり取りを前に、アレンは「あ、はは……」と引きつった笑いを浮かべ、隣のエルザは「美男美女の着せ替え人形、か……」と自分の胸元を隠すようにそっぽを向いた。
「……まぁ、お前たちのような素晴らしい素材を、あの泥に汚れた服のままにしておくのは、私の審美眼が許さなかったのは事実だ。結果として戦術的にも正解だっただろう?」
強引に話を戻したレイラの圧倒的な気迫に、一同は苦笑するしかなかった。
レイラは冷たい声を装っていたが、その口元はどこか満足げに緩んでおり、カイルは「はいはい、ごちそうさま」と肩をすくめた。




