幕間①「白銀の美少年?」
レジスタンスの砦を脱出したアレンたちは、追手を撒くためにあえて目立つ場所――烈火の竜王国「ドラグニル」の首都マグマリアの城下町へと身を潜めるべく、険しい夜道を突き進んでいた。
火山地帯特有の熱気がじわりと肌を焼く道中、カイルは並んで歩くアレンを横目でじっと見つめ、いつもの意地の悪い笑みを浮かべた。
「いやぁ、それにしても。こうしてじっくり見ると、アレン君は目の保養になるほどの美少年だねぇ。砦でレイラに仕立ててもらった白の魔導衣も、恐ろしいくらいによく似合っている。」
「……からかうな。俺はフードを深く被って顔を隠してるんだ、見えないだろ。」
アレンは顔の赤さを隠すように、新調された魔導衣のフードをさらに深く引き下げた。
しかし、カイルは眼鏡の位置を直しながら、なおもニヤニヤと楽しげに言葉を続ける。
「隠しきれていないんだよ、その整った顔立ちが。いっそその可愛い顔に合わせて、やっぱり僕の幻影魔法で少し髪の長さを弄って、さらに女の子っぽく変装してみるかい?その方が城下町の検問を抜けるのにも好都合かもしれないよ?」
「カイル、真面目に歩け。」
前方を警戒していたレイラが、振り返ることなく大真面目な声で釘を刺した。
「からかいの対象にするのは感心しない。だがカイル、お前の言う通りアレンの容姿は目立ちすぎる。私が砦で選んだあの魔導衣は、アレンの持つ白銀の魔力特性を考慮し、魔力回路の循環を阻害しない最高の機能性を持たせたものだが……その髪色と相まって、彼の美貌をいささか引き立てすぎてしまったのは私の戦術的ミスかもしれないな。」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、レイラまで真面目な顔で何を言ってるんだ……!」
綺麗な女騎士にまで至って真面目なトーンで「美貌」などと評価され、アレンは夜道の暗がりに紛れるように顔を真っ赤にして慌てた。
「ほら見なよ、真っ赤になっちゃって。本当に可愛いねぇ。」
「カイル……っ!」
「まぁまぁ」
カイルは悪戯っぽい笑みを僅かに和らげ、どこか優しい、だが冷徹な平和主義者としての本音をその瞳の奥に覗かせた。
「こうして僕たちがふざけられるのも、君が『人間』として、ちゃんと自我を持ってここにいてくれるからこそだよ。」
白竜の強大な力を宿しながらも、からかわれれば年相応に顔を赤くして狼狽える少年。
神の器として心を失うことなく、一人の「人間」がその力を制御しているという事実が、過酷な二重スパイの世界に身を置くカイルたちにとっては、暗闇の中の確かな希望だった。
「……フン。行くぞ」
アレンは照れ隠しに小さく呟き、右腕に結晶化した白銀の聖鱗をそっと魔導衣の袖で隠した。
こうして束の間の軽口で距離を縮めた三人は、熱気渦巻く首都の城下町へと静かに滑り込み、カイルの用意した秘密のセーフハウスへと辿り着くのだった――。




