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貞操逆転世界で、僕は希少な男子らしい  作者: きなこもち
第1章 男として、生まれ変わった

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6/10

「距離が…近すぎる」


鷹宮ひとえに「今夜は外に出ないこと」

そう言われた僕は、素直に従った。


……正確には、従うしかなかった。


部屋に戻って制服を脱いでも、胸のざわつきは消えない。


靴箱に入っていた花束。そこに添えられていた、あの一文。


《凪くんは私のもの》


文字が、まだ頭に貼りついている。


夕飯はコンビニの弁当だった。

箸を動かす手が、何度も止まる。


気づくと、カーテンの隙間から外を確認していた。


見えるのは、いつも通りの住宅街。

街灯。家。静かな夜。


——なのに、胸騒ぎがする。


突然、インターホンが鳴った。


心臓が跳ねる。

反射的に息を止める。


深呼吸して、モニターを覗いた。


宅配業者の制服を着た女性。

昼間に見たのと、同じような笑顔。


「お届け物です」


居留守を使えばいい。

そう思ったのに、指が勝手に通話ボタンを押していた。


「……置き配でお願いします」


「承知しました。——東條さま、ですよね?」


名前を呼ばれた瞬間、背筋が凍った。


「……なんで」


「伝票にございます」


当たり前の理由なのに、心臓がうるさい。


玄関の外に置かれた小さな箱。

差出人は、記載なし。


(……まただ)


怖い。

でも、放っておくのも怖い。


カッターでテープを切った。


中に入っていたのは、防犯用品だった。

防犯ブザー。携帯ライト。簡易鍵。


そして、メモ。


《ちゃんと守れるように、準備してね》

《凪くんが無事なら、それでいい》


字は分からない。

でも、今日の靴箱のメモと、どこか似ている。


僕は箱を閉じて、椅子に沈み込んだ。


——守る。


その言葉が、もう優しく聞こえない。


スマホが震えた。


《男性保護局:安全確認アプリ導入案内》

《学校:保護局協力要請について》


導入“案内”。


案内なのに、断れる気がしない。


通知を開く。


《位置情報共有・緊急通報機能付きアプリの導入を推奨します》

《ご本人の安全のため、ご協力ください》


「……安全のため」


スマホを伏せ、天井を見る。


(これ、いつまで続くんだ)


前の世界なら、友達に愚痴って終わりだ。


でも今は、誰に言っても「守られてるんだからいいじゃん」で終わる。


眠れないまま、夜が過ぎた。


---


翌朝。


校門の前に、昨日と同じ保護局の女性が立っていた。


顔は、覚えないようにした。

覚えた瞬間、それが“日常”になってしまいそうで。


「おはようございます。東條さん」

「本日も安全確認を行います」


「……おはようございます」


返した瞬間、周囲の視線が集まる。


興味じゃない。

距離を測る目。


教室に入ると、机の上に封筒が置かれていた。


担任からの配布物かと思った。

でも、表には僕の名前だけ。


「東條くん。職員室へ」


職員室には、鷹宮ひとえがいた。


「保護アプリの導入同意書です」


「……同意、ですか」


「形式上です」


つまり、拒否権はない。


「拒否したら?」


「認められません。あなたは危険性が高い」


最初から、選択肢が潰されている。


「……監視ですよね」


「保護です」


「同じです」


一瞬だけ、鷹宮がまばたきをした。


「あなたがそう感じるのは理解しています」

「ですが、やめません」


職務。

正しさ。


「……慣れろ、ってことですか」


「最低限の生き方に」


生きるための最低限が、監視されること。


笑えなかった。


---


放課後。


「凪くん、送る」

「私も」


昇降口で、女子たちが言い争いを始める。


僕の意思は、最初から含まれていない。


「……今日は、一人で帰りたい」


言った瞬間、空気が凍る。


悲しみ。

苛立ち。

疑念。


そして——敵意。


「なんで?」

「誰かに言われた?」


保護局の女性が前に出る。


「無理強いは——」


「無理強いしてない!」


“凪くんのため”。


その言葉が、何度も胸を刺す。


鷹宮ひとえが現れ、短く言った。


「解散しなさい」


それだけで、女子たちは引いた。


ワゴン車に乗り込むとき、背中に視線が刺さる。


振り返れなかった。


---


部屋に戻り、アプリをインストールする。


《位置情報常時取得》

《データ共有》


同意を押した瞬間、画面に表示される。


《保護状態:有効》


——守られている。


同時に、檻の鍵が閉まる音がした気がした。


スマホが震える。


《今夜、少しだけ外に出て》

《保護局には言わないで》


心臓が跳ねる。


その直後。


インターホンが鳴った。


連打。


モニターに映るのは、学校で見た女子たち。


全員、笑っている。


でもその笑顔は、もう“いつもの笑顔”じゃなかった。


——今夜、何かが起ころうとしていた。


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