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貞操逆転世界で、僕は希少な男子らしい  作者: きなこもち
第1章 男として、生まれ変わった

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3/12

「善意という名の地雷」


昼休み。

購買部は、完全に戦場だった。


女子が一斉に押し寄せている。

でも、叫び声も押し合いもない。


不思議なほど、秩序がある。


僕が列に並んだ瞬間、その理由が分かった。


周囲の女子たちが、一歩ずつ下がった。


まるで、僕を列の真ん中に置くみたいに。


(……え?)


戸惑っていると、声が飛んでくる。


「東條くん、これ取るよ!」


「え、ありがとう……」


「飲み物も! 重いでしょ!」


重くない。

全然、重くない。


でも断るとどうなるかは、朝の電車で学んだ。


だから僕は、小さく礼を言って受け取る。


——それが、地雷だった。


購買から戻る途中、廊下の角で、小柄な女子が紙袋を落とした。


中身が床に散らばる。


プリント。

ペン。

化粧ポーチ。


「大丈夫?」


反射でしゃがみ、拾い始める。


彼女も慌てて手を伸ばして、そのとき、指が触れた。


「ひっ……」


小さく息を呑む音。


「ごめん」


すぐに手を引く。


「す、すみません……っ」


彼女の頬が赤い。


拾ったものをまとめて、紙袋に戻す。


「気をつけてね」


それだけのつもりだった。


でも。


背後で、いくつもの足音が止まった。


振り返らなくても分かる。

空気が、重くなった。


「……今の、見た?」


「東條くん、手……触って……」


「え、ずる……」


ひそひそ声が、あちこちから聞こえる。


(違う)


(違う、違う)


僕は何もしていない。

困っている人を助けただけだ。


でも、この世界では——

その行為に、**別の意味**が乗ってしまう。


購買の袋を握る手に、汗が滲んだ。


午後の授業も、まったく集中できなかった。


背中がむずむずする。

誰かの視線が、ずっと張りついている。


放課後。

帰ろうとしたときだった。


昼に助けた、

あの小柄な女子が立っていた。


「あの……東條先輩」


「えっと……」


「さっきは、ありがとうございました」


両手を胸の前で握りしめ、勇気を出すように顔を上げる。


「……お礼、したいです。よかったら……」


その言葉を遮るように、別の声が割って入った。


「ちょっと」


冷たい声。


「凪くんに、近すぎない?」


見ると、クラスメイトの女子が数人、壁際に立っている。


腕を組み、誰も笑っていない。


(……あ、これ、まずい)


僕は空気を読めない方じゃない。

むしろ、敏感な方だ。


でも、この世界の空気は前の世界と違いすぎる。


「え、いや……」


「彼女が困ってたから、助けただけで……」


「助けただけ、ね」


女子の一人が、小さく笑った。


笑顔なのに、目は冷たい。


「そういうの、勘違いする子がいるんですよ?」


勘違い。


言い返したかった。

勘違いさせているのは、僕じゃない。


社会だ。


でも、言い返した瞬間何が起きるか分からない。


その恐怖が、言葉を止めた。


そのとき。


「——そこまで」


短く、はっきりした声が、廊下に響いた。


人垣が割れる。


スーツ姿の女性が立っていた。

髪はきっちりまとめられ、表情は冷たく整っている。


胸元のバッジに、見慣れない紋章。


【男性保護局】


女子たちが、一斉に姿勢を正した。


怯えているわけじゃない。

“目上の人”が来たときの反応だ。


女性は、僕を見る。


まるで、物を確認するみたいな目。


「東條凪くんですね」


名前を呼ばれた瞬間、心臓が強く跳ねた。


なぜ、知っている。


逃げたいのに、足が動かない。


「私は鷹宮ひとえ」


「男性保護局の監察官です」


その名乗りが、宣告みたいに聞こえた。


「あなたは、希少な男性として危険性が高い」


「よって、今後あなたの行動には一定の制限がかかります」


危険性。


その言葉に、廊下の空気が重く沈む。


震える息で、僕は聞いた。


「……僕が、危険?」


「誰にとって?」


鷹宮ひとえは、一度もまばたきせずに答えた。


「あなた自身にとってです」


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