第18話 副長の誕生
「楽しそうだね、シラル」
「美味しいものですから」
えへへ、と、シラルは嬉しそうにする。エスパノーラの闇市で買った、謎肉の炒飯が余程気に入ったのだろう。思えば彼女の食い意地はずっとあった。
シラルの抱負が全世界の美味しいものを食べ尽くすことと決まってすぐに、まずはエスパノーラに触手を伸ばすのだから行動力がある。
見習いたいものだ。
シラルはいっそ気持ちの良い食べっぷりで、低温の油で長時間しっとり焼かれた皮付き鶏肉を食べている。皮の下の水分はすっかり蒸発していて、彼女が噛むたびパリリと音をたてるのだが、肉のほうはしっとりとしていて脂の旨味が香ってくる。
ふと、シラルは真っ黒にバーベキューされた牛肉とか、井戸に吊るされて焼く肉、何層も積み重ねて削ぎ落しながら食べる肉とかは知っているのだろうかと、考える。
シラルの主義には反するのだろうが──世界中を巡ってグルメを食べたいて話だしね──ボラタイルにキッチンを用意するのも良いかもしれない。一応、今でもあるのだが新調して。
「しっかしお前は本当に美味しそうに食べるのね。僕が買った水鮮定食の魚もちょっと食べるか?おすすめはマッドホタテの貝柱だ」
僕が注文していたのは海鮮丼だ。
油ものよりは爽やかな海鮮類が好みなんだが……残念なことにハイスカイフリートには〝海がない〟ので水鮮食品ということになる。
美味いものは美味い。
味はちょっと違うが。
「いいんですか!?」
シラルはおおげさに驚きながら身を乗り出す。
リアクションの大きさにちょっとだけ驚いた。
「じゃあマグロもエビもくれますか!?」
「シラルはもっと遠慮を知るべきだねぇ」
シラルはどんどん図々しくなってないか?
いや………これは図々しい、とは別だな。
シラルは、すっかり落ち込んでいるいるのもあるだろうが、調子に乗ったことを自覚して、急に寡黙になってしまう。
考えなくても当たり前なんだ。
僕とシラルは知り合って短い。
シラルはずっと距離を測っている。
どこまでなら大丈夫かと観察して。
僕自身もシラルから見られている。
きちんと自覚しておかないとだな。
それはそれとしてホタテ以外はあげない。
「僕も水鮮丼は初めてだし気になるのもわかる。マグロとエビくらいは移してやろう。その代わり!お前のから揚げを1個渡して貰うぞ、交換だ」
「あれ?」
シラルが首を傾げる。
マグロは、とられる。
「水鮮丼を真っ先に注文しておられたので食べなれていると思っていました。ヴァルカ船長も初めてだったんですね、水鮮丼」
食べた経験があるのは海鮮丼だしね。
「生の魚を食べたい気分になってな」
「店の人が驚いていたんですけ実は不人気なんじゃないですか?あっ、マグロ美味しい。生なんですね。でもお米にのっていたから、ほんのり温かいです」
「料理として出しているんだから食べない人間ばかりてわけじゃないとは思うけどね」
「……ヴァルカ船長も食いしん坊仲間?」
「……シラルの仲間はちょっといやかも」
「…………」
シラルは頬を膨らませた。
「…………」
「……僕の故郷は海……水が多い場所だったんだ。魚が多いた場所で、イカとか、タイ、サケ、カキ、タコにサンマとかいろいろいた場所だったんだ。魚にはなじみがあるんだよ」
「美味しかったですか?」
苦笑してしまったかもしれない。
「勿論!美味かった、ほんとうに」
故郷、瀬戸内海の光景が脳裏をよぎる。
好きでも嫌いでもなかった海だ。
海水浴や釣りで連れ出される分。
海には、面倒臭い思い出だかり。
だというのに、あの小さな島が大小と浮かぶ内海の美しかった光景が、良い思い出として懐かしさとして振り返れていた。
「私もヴァルカ船長の故郷に行ってみたいものです、美味しいものがいっぱいあるんですよね」
「……あ、あぁ、たくさんあるさ。海のものも、山のものも、美味しいものなら、いっぱいな」




