第17話 帰投
「傭兵にしては動きが良い」
あれは、と、標的書を開く。
シルエットと艦名の一覧だ。
「……ヴァルカのボラタイル……」
空賊狩りは消化試合。
さっさと処理するだけの作業だ。
戦闘らしい戦闘はほぼ終わった。
掃討戦に移行して、組織的な抵抗が完全に失われた空賊を個別に、組織的な攻撃で一方的に撃沈していく。
「まだ残っているようね」
「はッ。ノノノ代将。あと僅かです」
「予想外もあったけど、ドラゴン型が仕留めてことなきをえた。空賊狩りは大成功と報告ができる」
「はッ……まったく予期せぬことでした」
戦艦がいるとは事前情報になかった。
間違いにしても程度というのはある。
許されない間違いだぶっ殺してやる。
……あれはドラコニアのホルス級だった。
旧式とはいえ戦艦を空賊が買えるとは考えていない。おそらくはドラコニアの介入、ドラコニアの資金提供で育てられた武装勢力として、空賊どもがいたってとこね。ドラコニアの工作を排除できたのはめでたい。
「……エスパノーラの傭兵ギルドに、あんな凄腕がいたとはね。ボラタイルのキャプテン・ヴァルカか。彼が入管で捕まっていたときに会ったことがある」
「そうなのですか?ノノノ代将」
「うん、普通の男に見えた」
新人傭兵にしては装備が良いけど、退役軍人て歳でもないし、一族で飛空船を管理しているわけでもない、若いのに中型ドラゴンを持っていて、商人のような金持ちでもない。
異常だ。
「ボラタイルとキャプテン・ヴァルカから目を離さないで。もしかしたらがあるかもしれない」
「ドラコニアの自作自演にしては金をかけて間抜けな男を送っているとは思いますけどね」
「人間は見た目によらない、エルフはもっとわからない。調査せずに見極めることはやめなさい」
最後の空賊船が白旗をあげながら地上で爆発した──空賊討伐の始末はこれでついたようね。
◆
予想外もあったが作戦終了。
空賊は一掃され空は綺麗だ。
生存者の回収、空賊の拠点から有益なものを運び出したり、お目こぼしされている撃沈した空賊船から必要な物資を仲良く集め終わった。
大物である戦艦の配分にもめるかなとは思ったが、傭兵ギルドから、ボラタイル1隻で仕留めたのだから、全て僕に帰属するということでまとめられている。
まあ大物を貰った以上、羨ましがる傭兵仲間にもそれなりにねぎらいもいるかな。良い関係を維持するための経費だ。
「ヴァルカさん、ずっと楽しそうです」
「そりゃあそうよシラル、戦利品は宝探しだし。命を賭けた戦闘で精神をすり減らすよりも、今後を豊かにしてくれるお宝を倉庫からあふれるほど抱えるほど幸せは大きくなる」
「けっこうヴァルカ船長て俗物ですよね」
「食い意地が張ってる暴食シラルに言われたくないかな」
鉛玉に胴体真っ二つにされる命の危機は確かに無いんだが、金銭的には全く二度と再起できない赤字を出して死ぬことはあるしね。
今回は修理費込みでも黒字だけど……。
「エスパノーラへの帰路はボラタイルに任せて、持って帰る宝を倉庫で見ないか。周辺警戒も傭兵船団と市民船団がやってくれている。適当に手当たり次第放り込んだから、戦艦以外の鹵獲品に何があるかわわからないんだ」
僕は言いながら、全て換金されてしまう前に、消耗品だとか使えそうな物資やらは仕分けておきたい。なんでも有料で高いのだ。賄えるときに賄っておく。
で、倉庫を漁っているわけだが……。
ごったがえしている。
さすがに砲弾は弾薬箱なり木箱に入れてはいるが、機関銃弾はゴミ箱に突っこまれているし、取り合えず剥ぎ取れた小口径砲やら燃料に潤滑油に予備部品、酒や新鮮な食糧、ラジオに冷蔵庫までが放り込まれている。
「色々あったものですね」
「分別してないからだいぶゴミも混ざっているとは思うけどね。役得が無いと厳しいから、金になるもの、それこそ金塊とかあったら嬉しいだけどね……」
エスパノーラに帰るまで暇だし、カエデと一緒に戦利品の分別をしているわけだが、彼女は手を休めることなく話しかけてきた。
「ヴァルカ船長は将来の目標とかあるのです?」
「唐突にどうした、シラル」
しかし将来の目標か。
親睦て大切だしなぁ。
「とりあえず、戦利品を売り払って現金にして、税金払うのと、シラルに給料も払って、ボラタイルの修理のために場所代に工員を雇う金もいるな……」
勝利の余韻に浸ろうとしても、現実の問題がいつだって横たわっている。命懸けで稼いでも当たり前のように税金て引かれるしな。
「まッ、しばらくは休日だな。しっかり働いたんだ、次の戦争なんて望むもんじゃない」
現実、本命の悩みはシラルに言わないでおいた。あまりにも夢がなさすぎるし明るくなりようがない。
「…………だがそうだな、一応、夢みたいなものは僕にもあるんだ、そのための貯金と伝手を作るのは休みの間もやらなきゃなとと考えてる」
「夢、ですか?」
「ボラタイルが寝ぼけても安心のでっかい家。ボラタイルから装備を外して、貴族のように下っ端を働かせて悠々自適に暮らせる家を作るのが僕の夢だ」
「壮大な……夢ですね」
シラルは呆れとも驚きとも言えない声だ。
シラルの顔を見るのが怖いので、見ない。
「シラルも人生の目標を1つか2つくらい見つけたほうがいい。人間、目標なく生きるとすぐに迷子になる、僕を見ていたらわかるだろ」
「あはは……」
「おい、否定しろ」
「ヴァルカ船長はふうてんが似合います」
「僕の夢と真逆の感想ありがとねカエデ」
シラルは気にしたのか慌てて話題を変えてきた。
「私は……夢、今決めました。7つの雲を超えて全ての空の下にある美食を食べつくすことです!」
「……イナゴとか害虫みたいだね……」
「違います!違いますよ!?」
「食いしん坊のシラルらしい夢だな。だが良い、僕もその旅に同伴させてくれ。美味いものは大好きなんだよ」
「勿論ですとも。ちゃあんとヴァルカ船長の椅子は私の隣に用意されています」
◆
「ダイネ将軍……」
大虐殺唐生き延びた部下の手を握る。
「ダイネ将軍……」
瞼のない戦友が、唇のない戦友が、包帯の下では見るもおぞましい生皮を剥がれた怪物のままに涙を流す。凄惨な状態であるのに正気を保っているのは、並々ならぬ精鋭、兵士の中の兵士であるからだ。
私は戦友の手を握り続ける。
先ほどより力が抜けている。
「ダイ、ネ……」
ベッドを血の海にしていた戦友が、咳き込み始め、そのまま死んだ──これは第7次サラミ空戦でも生き残った英雄だった。勲章も数多く、まさしく英雄だった。
それが、この死に様はなんだ?
空賊共と同じ扱いを受け、エスパノーラの市民船団と傭兵風情に壊滅させられたのだ。部下の多くを失った。本当に沢山の部下が、クズどもである空賊と同じ扱いのまま空の散った。
断じて──断じて!!許される話ではない。
私達をこんな地獄へ落とした上層部は殺す。
その前にあのドラゴンに復讐しなければならん。
ボラタイルの船長であるヴァルカを、殺すのだ。
「ダイネ将軍、隊長は……」
「死んだ」
私は、目を閉じることのできないままんk旅だった友の目に、覆いを被せてやる。軍人として生涯をまっとうしたのだ。貴様はひと足先に逝っておけ。私は、ヴァルカを殺して、そうだな数十年は現世を楽しんでから会いに行ってやる。
「お前達──」
友が壁の先に導かれたことを祈る。
「──逃げたいものは逃げろ!本国へ帰れ、そして除隊して良い家庭を築け!良い女と結婚しろ、良き息子良き娘の良き父親であれ」
集まったのは怪我の軽い連中だ。
ほとんどは、地上にいた要員だ。
生き残ったのは人間だけではない。
「お前の傷は癒えていない。戦えば死ぬぞ」
ドラゴン──ドラコニアの誇るホルス級翔空戦艦、かつて氏族の者らが天空の神とまで崇めていた末裔が、現代装備を外した状態で静かに見下ろす。
ドラゴンを戦艦にする。
だが、意識はあるのだ。
機嫌が悪ければ──珍しくはない!──空を呼ばないのがドラゴンだ。ドラゴンと共に戦えるのは兄弟ともいえる絆を築いたものだけだ。
ホルスは、今度の戦いで家族のほとんど全てを失った。彼女の顔は、ボラタイルの腐食ガスを浴びてむごいものだ。片目は完全に白濁して視力を失ったが、残った片目には美しさを保つ紫水晶の瞳が健在である。
「そうか」
ホルスは長い首でうなずく。
まったく無粋な質問だった。
「乗れ、死に損ないども!我々は今日死ぬ、だがヴァルカの首をあげて死ね!ドラコニア万歳、ドラコニア万歳!」
「ドラコニア!ドラコニア!ドラコニア!」
止まれはしないのだ。
器用には生きられぬ。
俺も、コヤツらもな。




