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第45話 10年越しの「はち切れそうな愛」、不器用な王のエンゲージ

アルフレッド様を見送った後、私は彼が消えていった植え込みのさらに奥、古びた飼育小屋の影に回った。そこには、今にもはち切れそうなほど緊張した背中があった。


「……ええと、次は『ひざまずく』……違う、『ナオミ、俺の女になれ』……いや、これでは昨日と同じだ……っ!」

レオン様は『人間流・プロポーズの作法』というボロボロの冊子を、上下逆さまに持って必死にリハーサルを繰り返していた。


「(……ぷっ)」

「……っ!? ナ、ナオミ! いつからそこに……!」

「最初からですよ。……もういいわ、あんたらしくしなさいよ」

彼は呆れ顔で私の腕を引き、園の片隅にある、今はもう使われていない古い鉄格子の前まで歩いた。


「……ここになぜ? 何もありませんよ」

「……ナオミ。お前は覚えていないだろうが、俺と出会ったのは、お前がここへ採用された日ではない」

レオン様は鉄格子の錆びた感触を確かめるように触れた。

「十数年前……この檻にいた俺の前に、一人の迷子が紛れ込んだ。泣きじゃくりながら、泥だらけの飴玉を差し出してきた子供だ」


心臓が、ドクンと跳ねた。


「……あの時の、優しい化け物? ずっと夢だと思ってた。……じゃあ、あの日、私を助けてくれたのも……」


「……ああ」

「誰かの大きな背中に乗せられて、すごく温かかったのを覚えてるの。あれも、レオン様だったの?」


レオン様はバツが悪そうに視線を逸らしたが、小さく頷いた。

「……檻の隙間を抜けて、お前の後を追った。お前が落としたハンカチの匂いを辿ってな。……母親の姿が見えるまで、降ろすわけにはいかなかった」


衝撃で視界が滲んだ。彼は、私が知らない間に、十数年もの間、私だけを待ち続けていた。


レオン様は作法を無視して私の前に立ち、節くれ立った手で、私の左手に無骨な牙の指輪をはめた。

「俺はあいつのようにスマートな未来は約束できん。だが、この命が尽きるまで、お前の隣にいると決めている。……俺を一生飼い慣らせ。他の誰にも、この首輪を握らせるな。……結婚してくれ」

その言葉は、どんな宝石よりも熱く、私の胸を貫いた。


レオン様は覚悟を決めたように目を閉じ、小刻みに唇を震わせながら、ゆっくりと顔を近づけてくる。


(……ふふ、どこまで不器用なのよ、あんたは)

私は、はめられたばかりの指輪をぎゅっと握りしめ、背伸びをした。

目を閉じ、ぎこちなく構えるレオン様の唇を、私の方から、静かに塞ぐ。

「……っ!?」

レオン様の体が、びくりと跳ねた。


いつも冗談ばかり言っている私が、生まれて初めて見せるであろう、本気の「乙女」の顔。涙で潤んだ瞳を細め、熱い吐息を漏らす私に、レオン様は毒気を抜かれたように立ち尽くし……やがて、私の腰を強く抱き寄せた。

パツパツの軍服越しに、彼の激しい鼓動が、私の胸にダイレクトに伝わってくる。


「……不意打ちは、卑怯だぞ」

「いいじゃない。主人の特権よ。……大好きよ、レオン」


「……ああ。俺もだ。死ぬまで離さん」


夜の庭園に、深く重厚な誓いの口づけが重なった。


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