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第43話 ナオミ、激怒の鉄拳

「……っ、ふざけないでよッ!!」

廊下の奥へ消えようとする、あの忌々しいほど分厚い背中に向かって、私は喉が裂けんばかりの声を叩きつけた。

レオン様の足が止まる。振り返ろうとしたその大きな肩に、私は全力で駆け寄り――。


――パァァァンッ!!



乾いた音が、静まり返った廊下に響き渡った。

私の手の平が、レオン様の硬い頬に深々と沈み込む。

王の顔を張るなんて、平民なら死罪だろう。だが、今の私にそんな恐怖は微塵もなかった。


「……ナオミ……?」

信じられないものを見るような目で私を見下ろすレオン様の胸ぐらを、私は両手で掴みあげた。パツパツに張り詰めた軍服の襟が、私の怒りでミシミシと鳴る。


「何が『最後の手向け』よ! 何が『相応しいものをなでろ』よ! 勝手に、私の幸せを決めつけるんじゃないわよ、この筋肉だるまッ!!」


「……だが、あいつの方がお前を……」

「アルフレッド様が素敵? ええ、そうね! 事務も完璧だし、気遣いもスマートだし、同じ人間だし、非の打ち所なんて一つもないわよ! でもね、レオン。私がいつ、『欠点の無い器用な男』が好きだって言ったのよ!?」

私はレオン様の胸板に額を押し付け、震える声で吠えた。

「確かに、あんたは不器用よ。言葉も足りないし、筋肉ばっかりだし、私のことを怖がらせて貪ることしかできない化け物かもしれないわ。……でもね、その『化け物』の熱にあてられて、ボロボロに調教されたのは、私の方なのよ!」


レオン様の体が、びくりと跳ねた。

「妹さんを救えなかった? その太い指は壊すことしかできない? ……笑わせないで。その指で一晩中、私の手を握り締めて、死の淵から引き戻してくれたのは誰だと思ってるのよ。あんたのその不器用な手が、私を救ったの!」

私は顔を上げ、涙で滲んだ視界のまま、王の瞳を真っ直ぐに射抜いた。


「種族の壁なんて、最初から私がぶち壊してあげたじゃない。私はパートナーから一方的に尽くされるだけの受け身な関係はイヤなの。あんたの過去も、傷も、全部ひっくるめて私もあんたの力になりたいし、二人で支え合って頑張ろうって約束したじゃない。……それを、今更『お似合いの人間がいるから』なんて理由で放り出すなんて……。あんたは、王様である前に、一人の男として最低よ!!」



レオン様の瞳に、光が戻る。

絶望に濁っていたその目に、私という「光」が無理やりねじ込まれていく。


王は、力なく笑った。頬を赤く腫らし、けれど、憑き物が落ちたような顔で。


「……完敗だな。俺の負けだ、ナオミ」


大きな手が、私の腰を抱き寄せる。

今までのような一方的な「捕食」ではない。

まるで、壊れやすい宝物を、二度と手放さないと誓うような、切実で重い抱擁。


「すまなかった。……俺は、お前が思っている以上に、お前に嫌われるのが怖かったんだ。……あいつの横で笑うお前を想像して、気が狂いそうだった」


「当たり前でしょ。……あんたを一人にしたら、また崖の下で立ち尽くす子供に戻っちゃうんだから」

私は、彼のパツパツの胸板に顔を埋め、鼻をすすった。

「いい? 二度と『行け』なんて言わないで。……私は、一生あんたを飼い慣らすって決めたんだから」


(つづく)

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