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第35話 ナオミ、今夜はお前を壊したい ※レオン視点

事件は解決した。今夜こそ、俺を散々言葉の暴力でなじり倒してきたナオミを、一人の女として完膚なきまでに愛でてやるつもりだった。……そう、「お前を壊したい」なんて、鏡の前で三回練習した決め台詞まで用意してな。


だが、目の前にいる「これ」は何だ?

「……レオン様ぁ。私、陛下にお申し付けいただかないと、何をしていいかわからないです。……次は、どうしてほしいですかぁ?」

ナオミが、潤んだ瞳で俺の寝衣の裾をたどたどしく掴み、上目遣いでプルプルと震えている。


いつもの「陛下、仕事してください」「そのパツパツは死刑です」という、背筋がゾクゾクするような冷徹な視線はどこへ行った!?


(……ま、待て。これは何の拷問だ!? なぜ俺を叱らない!? なぜ『陛下の頭の悪さは場外ホームランです』と罵ってくれないんだ!?)


俺の脳内に、最大級の警鐘が鳴り響く。

正直に言おう。俺は、彼女に撥ね付けられ、冷たくあしらわれることでしか得られない「心の昂ぶり」に快感を感じていたのだ!


「……ナ、ナオミ。そんな、大人しく俺に従うなんて……。お前、どこか悪いのか? ほら、いつものように俺の無知をボコボコにしてくれ! 」


「……まぁ、レオン様。ボコボコになんて……そんな汚い言葉、使っちゃダメですよぉ。陛下は立派な王様なんですもの、私が優しく、なでなでして差し上げますからねぇ……」


「(ヒィッ!! 優しい!! 怖すぎる!!)」

俺は戦慄した。この女、自分の最強の武器である「罵倒」を捨てやがった。

俺は藁をも掴む思いで、彼女の「輝かしき武勇伝」をぶつけて、あの冷徹な姐さんの再起動を試みる。


「……ナオミ! いいかよく聞け! お前、元婚約者に浮気された時、言い訳を並べるあいつの顔面に【無言で正拳突きを叩き込み、鼻をへし折った】だろ!? あの時の、乾いた骨の音を思い出すんだ!!」


「……まぁっ! なんて恐ろしい、野蛮な女性でしょう。きっとその方、頭の中がかなりおかしくなっていらっしゃるのね。……可哀想に。そんな凶暴でゴリラみたいな女、誰も愛してくれませんわ」


(……俺が! 俺が愛してるんだよ! その一撃に惚れたんだよ!!)

俺は半狂乱になった。このままでは、俺の「理想の夜(ナオミに徹底的に教育された後に甘やかされる)」が、ただの「か弱い女を抱く」という、王としての普通すぎる公務に成り下がってしまう!


「……もう一つだ! お前、聖獣を狙う世紀末のような密猟団が現れた時、【拾った鉄パイプ一本で全員ボコボコに叩きのめした】だろ! あの時の、地獄の姐さんの咆哮を聞かせてくれ!!」


「……うふふ。レオン様ったら、冗談がお上手。そんな知性のかけらもない暴力女が、この世に実在するわけありませんわ。おーっほっほっほ!」


(……ナオミ!! 全部お前だ! 全部、俺が憧れたお前の伝説なんだぞ!!)

俺はついに、膝から崩れ落ちた。

「……ナオミ……すまん、今夜の『お疲れ様』は……おしまいだ。俺の心が、この『清純な毒』に耐えられない……っ」


「……えぇっ!? レオン様、あんなに『壊したい』って仰ったのに! 私、壊される準備、できあがっておりますのに……っ(うるうる)」


「……やめろ! その顔はやめろ! 誰か、誰かこのナオミに冷たい水をぶっかけて、いつもの『鉄パイプ姐さん』を連れてきてくれぇぇぇ!!」

俺の悲痛な叫びが、虚しく王宮の夜に響き渡る。


事件は解決し、名誉は戻った。

だが、俺の愛した「最強の受付嬢」が目を覚ますまで、俺の夜の営みは……永遠に「待て!」されたままになりそうだ。


(つづく)


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