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第30話 ナオミの逆襲、作戦開始

「……ナオミ。やはり私が軍を動かして、侯爵邸を物理的に更地にするのが一番早いのではないか?」


王宮の執務室。レオン様が今にも狼に変身して窓から飛び出しそうな形相で、私に詰め寄ってくる。その背後では、ウルフ様までもが「俺も加勢するぞ。狼の群れを呼べば、侯爵の領地ごと食い尽くしてやれる」と、物騒な援護射撃を繰り出していた。


「お二人とも、お座りなさい。……暴力は、最後の一押し(エンターキー)に取っておくものです」

私はデスクに広げた膨大な帳簿と、周辺地図に目を通す。

私の指先は、まるで精密機械のように羽ペンを走らせ、ゲオルグ侯爵の「金の流れ」を可視化していく。


「奴らが聖獣を差し押さえたのは、表向きは予算の不備。ですが、過去三年の会計報告を【棚卸し】した結果、不自然な資金の移動が、侯爵家が管理する隠し倉庫の維持費と一致しました」


「……それを、わずか一時間で見抜いたのか?」

レオン様が驚愕に目を見開く。


「当然です。私は受付嬢ですよ? 数字の不整合は、お客様の『嘘』と同じくらい透けて見えます」

私は窓を開け、夜の闇に向かって鋭い口笛を吹いた。

すると、どこからともなく、王宮の庭に住まう「情報通」の小鳥たちや、屋根裏を根城にする聖獣の幼体たちが集まってくる。


「……みんな、お願い。クロたちが連れて行かれた場所を特定して。特徴は【ゲオルグ侯爵の腐った香水の匂い】。……見つけた子には、後で特上のナッツと毛並みのマッサージ(検品)を約束するわ」


聖獣たちは「任せろ!」と言わんばかりに鳴き声を上げ、四方八方へと飛び散っていった。

これが、ナオミ独自の【聖獣ネットワーク(SNS)】だ。



それから数時間後──


「……特定、完了しました。侯爵領の北、旧鉱山跡地の地下牢ですね。あそこは密猟ギルドの隠れ蓑としても使われています。……レオン様、ウルフ様。準備はよろしいですか?」


「ああ。いつでもいける」


「……いいえ。お二人はまだ動きません。……まずは私が『メイド』として潜入し、内部からすべての証拠を回収し、聖獣たちの安全を確保します。お二人は、逃げ道を塞ぐ『壁』になってください」


「潜入だと!? 危険すぎる!」

レオン様が椅子を蹴り上げて立ち上がるが、私は一瞥リジェクトした。


「王様。貴方が行けば、それこそ軍事衝突になります。これはあくまで【不正会計の是正】と【不当な差し押さえの解除】。……事務職の戦いなんです。……それに、うちのクロを傷つけた報いは、私が直接、彼らの『人生の貸借対照表』に刻み込んであげないといけませんから」

私は、鋭く光るミスリル製のペン先を、地図上の侯爵邸に突き刺した。


「……ゲオルグ侯爵。貴方の余罪、一円単位まで逃さず全件抽出セレクトしてあげます。……明日の朝には、貴方の名前は『犯罪者名簿』の筆頭に、確定コミットされていますよ」


ナオミの冷徹な作戦会議。

それは、武力よりも恐ろしい「情報の暴力」による、クズ親子の処刑宣告だった。


(つづく)


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