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第26話 取り違えられた「狼」と「獅子」

「……あの日、すべては産院の『受付カウンター』での、事務的な不手際から始まった」

レオン様は、まるで国家機密を漏洩するスパイのような重々しい顔で、衝撃の告白を始めた。


隣では獅子王ウルフ様が「ふん、俺の人生の半分は『在庫管理ミス』だったわけだ」と、ふてぶてしく鼻を鳴らしている。



二十数年前。銀狼族と獅子族の両王妃は、運命の悪戯か、はたまた【お産ラッシュでんてこ舞いだった看護師のうっかり】か。

同じ産院で生まれた赤子の「ネームバンド」を、あろうことか、ガムテープを貼り替えるような軽さで入れ替えてしまったのだ。


「……つまり、銀狼族のレオン様が、獅子の国へ『出荷』され──」


私の冷静な要約に、レオン様の端正な顔が激しく引きつった。

「ナオミ、 私は検品済みの畜産物ではないッ!!」


「え、違うの?」

ナオミは本気で驚く。


「違がっ──う!」


「でも陛下、行き先ラベルを貼り間違えられた事実に変わりはありませんよね?」


「それは……否定できんが……ッ!」

レオン様はガックリと肩を落とし、震える声でその後の「バグだらけの人生」を語り始めた。

「ああ。本来、狼は群れの中で仲間とじゃれ合い、絆を重視して生きる種族。それなのに私は、獅子の国で『常に孤独であれ!』『誰にも頼るな!』『お前は太陽、他はゴミだ!』と、孤高のスパルタ教育を叩き込まれた……」


ミキミキミキッ……!!

レオン様の指先が、高級な執務机の端を無慈悲に握りつぶしていく。

本来備わっている「群れへの愛」が、出口を失って異常に圧縮された結果、たった一人の仲間ナオミに【核爆弾級の独占欲】として降り注ぐ、愛の重すぎるモンスターが完成してしまったのだ。



「俺なんて、獅子の血を引いてんのに狼の群れだぞ?」

ウルフ様が、自嘲気味に黄金のたてがみをかき上げる……。

「俺なんて、獅子の血を引いてんのに狼の群れだぞ?」

ウルフ様が、自嘲気味に黄金のたてがみをかき上げる。

「『狼の掟(和をもって尊しとなせ)』を毎晩耳元で唱えられ、獅子の誇りなんて欠片も育たなかった。おかげで、部下の顔色を窺わねぇと飯も喉を通らねぇし、独りで何か決めるなんて無理ゲーだ。

……おいナオミさん。俺、今のふてぶてしい態度の裏で、実は『嫌われたらどうしよう』って心臓バクバクなんだが、どう思う?」


……。

沈黙が流れる。

本来のスペックと搭載されたOSが致命的に不一致な、二頭の猛獣(迷子)。


「……なるほど。完全なる【発注ミス】による、互換性ゼロの無理やりなシステム統合ですね」

私は、手に持っていたミスリル製鉄パイプをコンコンと床に叩きつけ、チベスナ顔でぶった斬った。


「あの、お二人とも。過去の在庫管理ミスを今さら嘆いても、減価償却は進みませんよ。レオン様は【個人主義で気分屋で猫科っぽい、狼らしくない狼】だし、ウルフ様は【無駄に周りを気にして自分一人で何も決められない犬科っぽい、ライオンらしくないライオン】。……要するに、二人とも【中身が迷子の、無駄に図体だけデカい、しつけのなってないワンコ】ってことでファイナルアンサーでよろしいですか?」


「「……ワンコ!?」」

ウルフ様がショックで膝をついた瞬間、扉が【ドギャァァァン!】と爆発したかのような音を立てて開いた。


「……ッ!! あぁ……ッ! 尊死たふし……ッ!! まさに禁断の『スワップ・ロイヤル』……ッ!!」

鼻血を噴水のように出しながら、筆頭侍女のダリアさんがスライディング気味に乱入してきた。その手には、音速で書き殴ったであろう「タイトル案」のメモ。

「『孤高を強いられた狼の粘着監禁愛と、群れに怯える獅子の依存型おねだり……~産院のミスは恋の始まり~』。ナオミ様、天才!? 宇宙の真理!? 今すぐ全二十四巻の特装版(薄い本)を、私の血肉を削って執筆いたしますわッ!!」


「…………(キモいわーーーッ!!)」


ナオミ、十八度目の大ピンチ。

国家の悲劇(笑)が、一瞬にして「変態侍女の飯の種」へと昇華された。

私は、ショックで「ワンコ」のように耳を垂らしている二頭の猛獣を放置し、とりあえず部屋中に飛び散ったダリアさんの鼻血を清掃することにした。


(つづく)


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