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第25話 宿命の来訪、獅子王ウルフ

王宮の正門が、地響きのような音を立てて開かれた。

現れたのは、銀狼公レオン様の「静」の威圧感とは真逆の、焼け付くような「動」の熱量。

黄金のたてがみを野性味たっぷりに揺らし、漆黒の毛皮を羽織った大男――隣国の王、獅子王ウルフ。


「……クン、クン……。ほう、この城には『美味そうな獲物』が混じっているようだな」

ウルフ様は周囲の衛兵など目もくれず、真っ直ぐに私の元へと歩み寄ってきた。

そして、あろうことか初対面の私の首筋に鼻先を寄せ、深々と息を吸い込んだのだ。 


「……ッ!? な、何をするんですかッ!!」


「……ふん。いい匂いだ。鉄の冷たさと、微かに混じる事務仕事のインク……。それに、戦う女の血の気が混じっている。……お前、俺の群れ(国)に来ないか?」


「…………は?」

出会って数秒で、まさかのヘッドハンティング(物理)。


だが、その瞬間。私の視界が、銀色の影によって遮られた。

「……ウルフ。その女は、俺の妃であり『専属事務官』だ。貴様の群れに、一文字たりとも貸し出すつもりはない」

レオン様が、氷のような冷徹さでウルフ様の手首を掴み、ギリギリと締め上げる。


黄金のたてがみを揺らす獅子王と、銀髪を逆立てる狼王。二頭の猛獣が火花を散らすその中心で、私はふと、ある「違和感」に気づいてしまった。

……ん?


待って。この二人、何かおかしくない?


「……あの、お二人とも。一つ伺ってもよろしいですか?」


私は、鉄パイプ(新調したミスリル製)をトントンと肩に当て、二人を見比べた。


「……何だ、ナオミ。この男の無礼なら、後でたっぷり教育(物理)してやるから安心しろ」


「いや、そうじゃなくて。……ウルフ様。貴方、名前は『ウルフ(狼)』なのに、種族は『獅子ライオン』ですよね?」


「……ああ、それがどうした?」

ウルフ様が不思議そうに首を傾げる。私はそのまま、隣の我があるじを指差した。

「で、レオン様。貴方は名前が『レオン(獅子)』なのに、種族は『ウルフ』ですよね?」


「…………」


「……よく考えなくても、お二人の名前、【完全に中身とあべこべ】じゃないですか? 事務職として言わせてもらえば、これ『宛先ラベルの貼り間違え』レベルの初歩的なミスだと思うんですけど」


私の指摘に、王宮の空気が一瞬で「あちゃ……言っちゃったよ」という空気になった。


周囲の衛兵たちも、薄々気づきながらも口に出せなかった禁忌タブーを突かれ、私たちから視線をそらし冷や汗を流している。


レオン様は深く、重いため息をつくと、観念したように私の肩に手を置いた。


「……気づいてしまったか、ナオミ。……これは、両国の歴史から抹消された、あまりにもマヌケな……いや、悲劇的な『取り違え』の物語なのだ」


「……取り違え?」


「ああ。二十数年前。……あの『産院』で、すべては始まったのだ……」


ナオミ、十七度目の大ピンチ。

ヤべぇ……私、地雷を踏んでしまったかも…。

二頭の猛獣のアイデンティティが、実は「在庫管理ミス」から始まっていたという衝撃の事実を前に、私は失笑するしかなかった。


(つづく)


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