第21話 密猟団 vs 姐探偵ナオミ
「……いい、レオン様。ここからは【姐探偵ナオミ】の独壇場よ。事務職の緻密なプロファイリングを、その目に焼き付けなさい」
密猟団のアジトとされる廃倉庫前に着いたはいいものの、なぜか入口がどこにも見つからない。
しかし私はドヤ顔を決めた。
隣でレオン様がなぜか困惑気味に私を見る。
「先ずはアジトへの出入口を突き止めるわよ。
まず、この現場に残された『足跡』を見なさい。これは、体重百キロ超えの巨漢が、【重い漬物石を抱えながら、内股のスキップで移動した】揺るぎない証拠よ!」
「……ナオミ。それは、ただの荷車の車輪がぬかるみにはまった跡だ。……あと、なぜやつらが内股で漬物石を……」
「うるさいわね! 攪乱工作よ!」
私の「探偵ムーブ」は止まらない。
次はこれ、建物近くに落ちていた『ふんどし』! これは、犯人が【よほど暑がりで、全部脱いで移動した】動かぬ証拠……っ」
「……それは、ただの飼い犬散歩用の赤いハーネスだ。……ナオミ、頼む、もういい。全裸で街を出歩く犯人がどこにいる……っ。ぷっ、ははは!」
レオン様は、ついに堪えきれずに肩を震わせ始めた。
そして……。
「…………。ナオミ、そこの壁の下に掘られた横穴にアジト入口って書いてるぞ」
「…………っ!!!」
私の顔は、一瞬で茹で上がったタコのように真っ赤になった。
「……ぶっ、はははは! 腹が、腹が痛い……っ!!」
恥ずかしい。死ぬほど恥ずかしい。
私の自爆!? 推理なんて一ミリも必要無かったじゃない!!
「笑うなーーーッ!!」
ドグシャァッ!!!
「ぐはっ……!?」
私は、爆笑する獣人王の鳩尾に、渾身の正拳突きを叩き込んだ。
悶絶して地面に沈むレオン様を冷たい目で見下ろし、私は目の前の小さな穴を指差す。
「……もういいわよ! 推理なんて飽きたわ! 事務職で解決してやるんだから!! レオン様、あんたは体格的にその穴を通れないから、そこで大人しく待っていなさいッ!!」
「……なっ、ナオミ!? 待て、一人で行くのは……ぐふっ」
追いすがろうとするレオン様の指先を、華麗な匍匐前進でかわし、私は穴の向こうへと進んだ。
*
そして、穴を出るなり、私は鉄パイプを握り直して倉庫の内部・敵陣へと殴り込む。
「――おらぁッ! 邪魔よ!! 帳簿の不備(在庫不足)は、力ずくで黒字に戻すわッ!!」
バキィィィィンッ!!!
鉄パイプの一撃が扉を粉砕し、蝶番が悲鳴を上げて吹き飛ぶ。
だが、そこに広がっていたのは、私の想像を絶する「地獄の光景」だった。
「……あ、あん? なんだぁ、テメェ……」
そこにいたのは、トゲ付き肩パッドにモヒカン頭。どう見ても「ヒャッハー!」と叫びながら略奪に励んでいそうな、ガチの山賊集団。
だが、そんな世紀末な男たちが、あろうことか全員で【聖獣たちに高級フルーツを捧げ、必死にブラッシング】していたのだ。
「……は? ここ、密猟ギルドじゃないの?」
「あぁん!? オレたちは自由な山賊だ! この子らはな、市場で売るタメじゃねぇ……ッ! オレたちが【極上のモフモフを堪能するタメ】に、丁重にお迎え(拉致)したんだよぉ!!」
見れば、幼い聖獣たちは特注のふかふかクッションの上で、人間より豪華な食事を振舞われている。完全なVIP待遇だ。
そして、その中心。
髭もじゃでスキンヘッドの、一際デカいリーダー格の男が――。
「……あ、ひゃんっ! もっと、もっとおしり叩いてぇ……月光鳥ちゃん……ッ!!」
あろうことか、気性の荒い『月光鳥』に鋭い羽でバリバリと往復ビンゴを喰らいながら、頬を赤らめて【あんあん】と悶絶していた。
「………………(ドン引きなんですけど)」
私は持っていた鉄パイプを、思わず地面に落としそうになった。
何これ……。ねえ……私はいったい、いま何を見せられてるの?
私の「名推理」が外れたとか、もうそんな次元の話じゃない。こいつら、ただの【手遅れな変態集団】じゃないの……!
「……あんた達。……趣味は否定しないけど、公務執行妨害と窃盗罪は別問題よ」
私は冷徹な「受付嬢スマイル(蔑み100%)」を浮かべ、ひしゃげた鉄格子をさらに鉄パイプで叩き割った。
「――さっさと、このシマ(国)から出ようか。二度と私の視界に入らないで。次に見かけたら、今度は私があんたたちをこの鉄パイプで【返品不可の粗大ゴミ】に成形してから、おしりをバシバシ「ケツバット」してあげるわ」
「ひ、ひぃぃ……! 姐さんの冷たい目が、鳥のビンタより効っくぅぅ!!」
命からがら逃げ出す変態山賊(モフモフ派)を見届けながら思う。
……今回の事件、真相を知らなかったほうがよかったわ。とほほ。
私はチベスナ顔で大きくため息をついた。
つづく




