盛夏の夜宴にあなたと
──月曜日の休園日は、定例の会議がある。
飼育員たちによる動物や生物園に関する会議であるが、サトシは一番隅で小さくなって座っていた。
本来であれば、アルバイトの身分であるはずのサトシが参加することはないのだが、今日は話題が特別であったため、参加するように求められたのだ。
(何か特別な話があると聞いたが何だろう?)
末席に座ったサトシは、朝来た時にサナエから言われた話を思案していた。グンディが妊娠したこと以外に特に思い当たることがない。そうこうしているうちに、会議開始の時間になった。
「この度、グンディの妊娠を確認しました」
クーラーの効いた大会議室で、サナエが言った。そのめでたい報告に、幾人かの飼育員が拍手した。
テレビ取材の翌週、サトシがサナエに報告したことで妊娠が判明した、ということになっている。
(実際は、王様から直接教わったんだけど、まあいいか)
会議室の末席に座る、サトシは心の中でつぶやく。
『下僕がうかつな言い方をすれば、世迷い言と思われるは火を見るより明らかである。ゆえに一芝居打つとしよう』
そうして、様子のおかしいグンディがいる、とサナエに言って、見かけではわかりにくいグンディの妊娠をいち早く伝えることに成功したのだ。
「よかったじゃねえか!『ドキドキ二匹だけの空間作戦』は失敗だったみたいだが、繁殖には成功したな、サナ!」
不評だった作戦名を園長が口走っても、サナエは軽く微笑むだけで、言葉軽く報告を続ける。
「はい。このため、この後のことについて確認したいと思います」
そう言って、サナエは写したスライドを切り替える。
「まず、以前から園にいるモルモットとは異なり、妊娠したグンディを隔離する、ということはしません」
「それは、どうしてですか?」
白髪が特徴的な立実が、示し合わせたかのようなタイミングで質問した。
「グンディを群れから離してしまうと、その後群れに戻すのが困難になるためです。園にいるグンディが少ない今、このようなことが起きてはいけないと思っております」
「では、このまま妊娠しているグンディも群れで過ごさせるということでしょうか?」
「はい。グンディを飼育する他の施設でもそのようにしております。また、グンディにストレスを与えないように人間との接触は最小限にします」
「それは、どういうふうにするのかしら?」
今度は卯月が手を挙げて質問した。
「まず、正面の一番大きなガラスにカーテンを常時張るようにします。これによって、巣箱の中を見えなくして、グンディが安心して生活できるようにします」
すでに、一度グンディの展示ケースをカーテンで囲ったことがあり、卯月は頷く。
「また、水や餌の交換は一日一回として、ケース内の掃除も最小限とします。さらに、おやつタイムも当面の間中止にしようと思います」
おやつタイムとは、午後に一回、グンディの好物であるトウモロコシやニンジンなど、干し草以外のご飯を上げる時間である。
この時間にサナエは見に来る人への解説もしており、交流と普及のために一役買っていた。
「それだと、グンディを見に来た人ががっかりしないかしら?」
「SNSなどで周知するとともに、妊娠期間中であることを知ってもらいます。それは、丑前くんにやってもらう予定です」
サナエの言葉で、幾人かがサトシのほうを向く。サトシは、軽くうなずく。
「また、不測の事態に備えて土岐坂先生にはすでに連絡して、いつでも来てもらえることを確認しました」
土岐坂とは、生物園が面倒を見てもらっている獣医師である。
今年の春に引退した老獣医から推薦されて、今年から担当することになった先生であった。
「なら、安心だな。ああ、そうだ、ウシ!」
今度は園長から声をかけられ、サトシはそちらを慌てて向いた。
「後で、細かく確認はするが、お前をインターン扱いにすることにした。募集時期はギリギリだけど、そっちのほうが今以上にやりやすくなるからな」
手伏区生物園では、職業体験の一環として学生のインターン実習を受け付けている。当然、動物の飼育業務がメインとなるため、動物専門学校の学生や農学部の生徒を主に採用しており、サトシはあまり興味を示していなかった。そのため、この話は彼には寝耳に水であった。
「あっ、ありがとうございます。でも、僕全く専門的なことは勉強したことがなく──」
「そんなの、今から勉強すりゃあいい。だいいち、グンディのおめでたに一番早く気付いたのは、ウシ、お前じゃねえか」
「いや、そうですけど」
「なら大丈夫だ。安心しろ。待遇は今までと変わらないようにはしてやる。今まで通り、学校優先のスケジュールで構わないが、基本フルタイムで働いてもらうことにはなるぞ」
「承知しました。今も実質変わらないので、大丈夫です」
「はっはっは。言ってくれるじゃねえか。期待しているぜ」
そう言うと、園長がサムズアップした。飼育員たちの雰囲気も明るいままに、サナエが言った。
「というわけで、丑前くんはこれから改めてよろしくね。では次に、リスザルについての報告をします」
***
『ふむ。本筋であれば妃の産屋を用意するべきであろうが、当面の間は致し方あるまい』
ベルトパーテーションを展示ルームのガラスの前に置くサトシへ、王様が言った。
『分かりましたよ。巣箱を追加しますね』
『余の血を継ぐ者の生誕であるぞ。万全を期すに越すことはない。しかし、下僕、貴様今日は何やら機嫌が良いな』
『分かりますか!?実は今日の夜、箱音さんがご飯をご馳走してくれることになったんですよ』
インターンとして晴れて正式に飼育に携わるサトシへ、サナエはお祝いとして食事をしようと言ってくれた。サナエと二人で飲み会をするのは初めてのことであり、サトシはいつになくウキウキしていた。
『貴様、色恋沙汰にうつつを抜かすのもよいが、余の下僕であることをゆめゆめ忘れるでないぞ』
そう言うと、王様グンディは、いつもの定位置となりつつある中央の岩の上にぐったりと横になった。心なしか、毛並みがいつも以上に乱れているようにも見える。
『こういうこと、言うのも変ですが、やつれました?』
『フンッ。わが子の誕生に心砕かぬほど、余は薄情ではない。いつも以上に、妃たちには気を使わなければいけないのでな』
確かに、今グンディの展示ルームはサトシでもわかるほど温かな雰囲気に包まれている。これも、王様の尽力の結果らしい。
『下僕が魔力の雰囲気を感じ取れるようになったことは褒めてしんぜよう。以後も、宝玉探しに励むがよい』
『それは、どうも。でも、なんで急に霊感みたいなのが働くようになったんですか?』
『貴様の呪いが、貴様自身を変質させているのだ。それは呪いでもあるが同時に貴様に利をもたらすものであるということである』
『うげっ。そんなの嬉しくないので、早くこの呪い解いてくださいよ』
『何度も言っているように、ならば宝玉を探せ。探し出したら考えてやってもよいぞ』
サトシの頼みを鼻で笑う王様グンディを見ていると、サトシは先ほどの言葉が引っ掛かった。
『なんか今の言葉、箱音さんが似たようなことを言っていました。意外と考えって似るんですね』
『ほう、あの女がか?』
『はい。たしか、じゅしゅきゅ……いや、呪祝同源って言っていました。』
『なんだ、その聞き慣れぬ言葉は』
『呪いと祝いは同じ源。これで呪祝同源って読む、って箱音さんがそう教えてくれたんです』
忘れようがない、初めてサナエが、サトシを名前で呼んでくれた日のことだ。彼女は、呪いと祝いは同源であり、たとえ呪われたかのように不運が続いても辛抱すればやがて祝福になる、と言ったのだ。
その時のことを脳裏で思い出して胸が暖かくなるサトシの横で、王様グンディは考え込むように丸くなった。
『なるほど。その言葉はおもしろい』
『ですよね。僕も、言われてハッとしちゃって。どんな逆境でもめげずにいればいいことが──』
『違う。そのようなありきたりな教訓譚の話をしているのではない』
『えっ?何もそんなふうに言わなくても……』
感動したことまで否定された気持ちになり白けかけるサトシへ、王様が冷静に言った。
『その話は、もっと単純な話である。単純すぎて、誰もが見落とすほどのな』
『はい?何を言っているんですか?』
『呪祝同源、その言葉の真の意味は、人智を超えた呪いが本当にあることへの警告である。先ほどの辛抱がどうのなど、その真実を覆う皮膜にすぎない』
サトシはなんとか反論しようとするが、他ならない自分がグンディになる呪いを受けている以上、呪いがないなんていうことはできなかった。
『そもそも、多くの呪いと称されるものは、元をたどれば上代の神々と呼ばれる存在を起源とする。強大な神の言葉には、自然の理や人の心すら変えてしまう力があった』
『ああ、聞いたことがあります。言霊とか言われるものですよね』
最近、SNS由来のスピリチュアルに少しはまっている母親がよく言っているのをサトシは思い出した。
『良い言霊を言えば運やツキがめぐってくるってやつですよね』
『愚か者。そのようなものは、戯言にすぎぬ。魔力を持たず魔術の鍛錬をせぬ者が使ったとて、気を奮い立たせる以上の役には立たぬわ』
自分の親を一刀両断されたが、これについてはサトシもほぼ同意見であったため、何も言わず頷いた。
『上代の神々の考えは、地に住まうものには分からぬ。そのような存在の発した言葉が与える影響と結果は、当の神々ですら想像の及ばぬものであったそうな』
『そんなこと……随分と、いい加減ですね』
『下僕が蟻やもっと小さな微生物のことを考えて歩くわけではないように、多くの神々は地を這う生き物のことなど考えていないのだ』
『なかなか、ひどい神様たちですね』
『神とは、そういうものなのだ。そのような存在が発する、気まぐれにも災害に似た言葉を、呪いと呼ぶようになったと聞く』
『それは、災難ですね』
何気ない軽口一つが実体をもって身に降りかかる。そのようなものを、災害と言わず何になるだろうか。
『だが、悪いことばかりではない』
『えっ?悪いことにしか聞こえないんですが?』
『まあ聞け。恐ろしい嵐が日照りの地を癒すことがあるように、神々の呪いが思いもよらぬ祝福をもたらすことも多々あったそうだ。』
『そんなこと、本当なんですか?』
王様グンディによれば、山が崩れたことで新たな道ができたり、川が溢れた結果、田畑が潤うことがあったそうだ。災いが転じて福となった事例は、わずかに残った伝説の中でもよく見られるらしい。
『ゆえに、呪いの裏の言葉として祝いが生まれた。神々の力は、一つの物差しで図ることなど到底不可能であり、人やいきものの価値で決めつけることなどできないのだ』
『だから、呪祝同源なんですね』
『話の呑み込みが早くなったな。その通り、強い力を持つ言葉は災いとも恵みともなりうる。呪祝同源とは、そのことを示した言葉であると思われる』
スケールが大きい話に、半分くらいしか飲み込めないサトシへ、王様グンディが向き直った。
『このことを知るものは今ではほぼおらぬ。神々のいた時代のことは、ほとんど失伝しているのでな』
『……ん?じゃあ、なんで呪祝同源という言葉を箱音さんが知っているんですか?知っている人がほとんどいないんですよね』
『そんなの知らぬわ。余は神ではない。今日の宴で、本人に聞けばよいであろう。余はこれから妃たちを見舞わなければならぬゆえ、はよう去れ』
そう言うと、王様グンディは岩を降りて、アンドレとメウェが休む巣箱の中へと入ってしまった。
(サナエさん、いったいどうして……)
後には、まだ混乱しているサトシだけが残された。
***
「このあたりだと、お店も少ないし、万寿まで出ようか」
仕事がすべて終わると、サトシとサナエは北万寿の駅まで出ることにした。
生物園から、北万寿駅まではバスに乗って、三十分ほどかかる。バスの中でサナエと話をしていたはずだが、サトシはうわの空で相槌を打つばかりであった。
王様グンディからの指摘は、喉に引っかかった小骨のようにサトシの頭から離れることはなかった。もし、王様グンディの話が正しいのであれば、サナエは何かしらの事情を知っているはずだ。だが、それをどう聞けばいいのか、サトシには分からなかった。
やがて、バスが駅前に着くと、二人は雑居ビルの三階にあるチェーンの居酒屋に入った。ここは、駅からも近く値段もお手頃であるため、生物園の職員がよく使う店の一つだ。
「丑前くんの、好きなもの頼みなよ!今日は丑前くんのお祝いなんだから」
「わかりました、箱音さんはビール生中でいいですよね?」
サトシは、飲み物とおつまみやサラダなどタッチパネルで注文した。
「箱音さんとサシで飲むの初めてですね」
「本当だね。林王さんや卯月さんも呼んだんだけど、このあと役所で用事なんだって」
「えっ。そうしたら別の日のほうが良かったですか?」
「まあ、こういうのは早いほうがいいと思うし、それに一度丑前くんと飲んでみたかったんだよね!あっ、もしかして嫌だった?」
サトシは、慌てて首を横に振る。サトシにとっても、サナエと飲むのはやぶさかではないし、何よりいろいろ聞くには都合が良かった。
「よかったー。丑前くんって、結構クールな感じだから、もしかしたらこういう席が苦手なのかーって」
「いや、誘われないだけですよ」
「まあ、最近はあんまり飲み会やらないらしいからね。仕方ないよ」
その時、店員がサトシたちのテーブルに来た。注文した飲み物と、塩昆布がかかったキャベツがお通しとして配膳されると、サナエは飲み物を持って言った。
「それじゃあ、グンディの妊娠と丑前くんのインターン開始を祝って、かんぱーい!」
そういって、二人はグラスをカチンと鳴らすと、飲み始めた。
「はぁー!こんなに暑いと、ビールがすぐに空くね。あっ、丑前くん、もう一杯ビールを頼んでもらっていいかな?」
確かに、サナエの持つジョッキには既に三分の一しか残っていない。サナエは、お酒に関してはかなりザルである。これに関しては、一杯目で充分になるサトシは対照的であった。
「今だからいえるんだけどね、サトシくんがここまでグンディについてやってくれるのは正直想像してなかったんだ」
二杯目の中ジョッキを飲みながら、サナエがふと言った。
「なにしろ、初めてのことだったし、私もあんまりサポートできなかったから、かなり負担になるかなって」
「そんなことないですよ。箱音さんが、大変なことを全てやってくれたからできたんですよ」
これは、サトシの本音である。すでに実績ある動物園に何度も研修に行き、擬岩やレイアウトの作成までしたのは、他ならないサナエであった。サトシのやったことなど、それに比べたらへでもない。
「そう言ってもらえると嬉しいな。これからも一緒にやっていこうね!」
「はい。こちらこそ!」
「ありがとう!私も助かるわー!」
「これも、前に箱音さんが話してくれた、辛抱が大切っていう言葉を意識していたからですよ!」
「えっ、そうだっけ?そんなこと、私が言ったっけ?」
「はい。呪祝同源って、教えてくれたあれです」
サトシは、とうとう聞きたかったことに話題を向けた。サナエは、一瞬ハッとした顔になると、すぐに顔を緩ませビールを口に運んだ。
「あー、それね!ごめんごめん」
グラスを置いたサナエは、そう言って手をサトシに向かって合わせると、運ばれてきたサラダを取り皿へ分けサトシに差し出した。
「はい、お詫びに」
「あっ、ありがとうございます。でも、あの言葉すごく良いですね。箱音さんは、どこであの言葉を知ったんですか?」
王様グンディがいれば、もっと遠回しに言え、と叱責されただろうが、サトシはストレートに聞いた。
「んー。昔、地元で聞いたはず。私の出身地って、北の方でね、根梨村っていう場所だったの」
「ねなし、ですか?失礼ですが、どの県ですか」
「だよねー。齶畑県にある村でさ。今は隣の村と合併して、全く違う地名になったんだよね」
「齶畑ですか。お米やお酒がおいしいですよね!」
サトシの母が昔よく齶畑西施という品種のコメを買っていたことを思い出しながらサトシは言った。
「まあ、私の村はそんなすごいものはなかったんだけどね。だけど、農業はすごくて、それと、大きな神社があることでも有名なんだよ」
「へえ、それはすごいですね」
「でしょ!で、私の家ではその神社によくお供え物をしていたことから、神主さんに良くしてもらっていてね、その人から聞いたんだよ」
それを聞いて、サトシはホッとした。根拠こそないが、大きな神社であれば古代の神についての伝承が残っていても不思議ではない。
「神主さんと仲が良かったんですね!確かにいろいろと詳しそうですよね」
「そうそう!池とか林とかある神社でね!よく、弟と一緒に境内で遊んだんだよ!」
サナエは、わずかに顔を近づけると、懐かし気に言った。
「えっ!?箱音さんって、弟さんがいたんですか!?」
「そうだよ。四歳年下で、とってもヤンチャだけど素直ないい子だったんだ」
「へー。今、弟さんは故郷にいらっしゃるんですか?」
サトシのその言葉に、サナエは少し寂しそうに答えた。
「もう、この世にいないの。私が小学校を卒業する年に事故にあったの」
「えっ……そ、その。無遠慮なことを聞いてしまいすいません」
「あっ!?いいの、もう過ぎたことだし。でも、今気づいたんだけどね……」
そう途中まで言ったサナエがテーブルに乗り出し、サトシに近づく。意外と長いまつ毛やアルコールで紅潮した頬がサトシの眼前にせまり、サトシは思わず息をのんでしまった。
「サトシくんって、ジュンヤ……あっ、弟の名前ね、ジュンヤと似ているなーって。だからなのかな、なんか親近感があるんだよ」
サナエの酒の匂いが混じった甘い吐息が顔にかかり、サトシの顔に熱が増す。明らかにアルコール以外の理由で赤くなったサトシを見て、サナエが微笑んだ。
「ごめんね、こんな事急に言って。でも、サトシくんと一緒に働けて私本当にうれしいんだよ!」
「……僕もです、箱音さん。一緒に働いていると、頼れる姉と一緒にいる気分になります」
思わずつぶやいた言葉に、サナエが再び微笑んだ。
「うれしいなー。でも、サトシくんって、お姉さんがいるよね?仲良いの?」
「います。でも、仲が良いとは言えないと思います」
「そうなの?何かあったの?」
「姉は、僕なんて眼中にないと思います。あの人は、とても優秀なんで」
思いもよらない発言だったのだろう、サナエの目が少し丸くなる。
「あの人と一緒にいると、自分がちっちゃく見えてくるんです。才能も努力も、目標さえ、あの人のものと比べたら風で飛ぶようなものに見えてしまって」
なぜ自分がこんなこと言いだしたのかわからない。しかし、サトシの口からは次々と言葉が漏れ出した。サトシの独り言のような言葉を、サナエは静かに受け止めていた。
「あの人には何一つ欠けているものがなくて、僕は苦しいのに、あの人は全くそんなこと気にしていなくて」
サトシは一息に言い終えた。言葉を聞き終えた、サナエは一つ一つ言葉を選ぶように言った。
「私ね、サトシくんがそこまで頼りにしてくれていたこと、本当に嬉しいよ」
言いたいことを言い切って少し小さくなったサトシへ、サナエが真剣な顔で言った。
「でも、お姉さんのことをそう言い切って良いのかな?」
「それは、どういう……」
「サトシくん、お姉さんと本気で向き合ったことある?」
「でも、あの人は……」
「私は、サトシくんのお姉さんをよく知らないから、ちゃんとしたことは言えないけど。話せるのだから、しっかりと話してみたほうが良いと思うよ」
「……もし、あの人が向き合ってくれなかったら……?」
「それでも、向き合ってみたら、見えてくるものがあると思うよ。少なくとも、今よりは」
頭の中が真っ白になり何を言おうとしても喉の奥でつかえてしまうサトシへ、サナエはもう一度笑いかけた。
「もう少し飲もう。きっと、サトシくんならやれるからさ!」
夏の暑い夜の二人きりの宴は、まだ続きそうであった。




