MEET THE GUNDI!
「あら?サトちゃん、今日もアルバイトかしら?」
朝四時にサトシがリビングへ降りてくると、すでに母親が食事をしていた。
「ああ。ゴールデンウイークは、しばらくこんな感じだよ。母さんも仕事?」
炊飯器からご飯をよそったサトシがテーブルへつくと、反対に質問する。
サトシの母親の職場である、メルヴィル・コーヒーのお店は、彼女の足で歩いてもニ十分かからない場所にある。
そのため、お店のオープンを任されることも多く、ゆえに朝が早い。
「そう。オープンのスタッフの子が一人、風邪ひいたらしくて、代わりにね」
しばらく、互いに黙って食事をする。
五月とはいえ、四時過ぎではまだ外は暗く、心なしか部屋の中もくすんで見える。
「ああ。そういえば、サトちゃん、十月は暇かしら?」
ご飯を食べ終わった母親が、不意に聞いてきた。
「ん?多分暇だけど、どうしたの?」
「パパがハーウィに行こうって言っているんだけど、サトちゃんも来るかしら?」
ハーウィは、はるか遠くにある、観光地として知られる群島である。
サトシの父親は、この常夏の島々を気に入っており、何年かに一度旅行に行くのである。
「んー。夏休みの後だろうけど、今のところはオッケーかな?」
「そう!ならよかった。実は、現地でアキちゃんとも会えるから、久しぶりに家族全員でのんびりできるわ!」
その名前を聞いた途端、サトシの箸を動かす手が止まった。
アキちゃんとは、サトシの姉のアキコのことである。
サトシとは三つ違いの彼女は、都南大学院で研究をしている。
太平洋の群島地域の文化の研究をしているアキコは、フィールドワークのため、ここ数年正月にすら家に帰ってきていない。
「なんでも、その時期にハーウィ大学での研究発表会があるらしくて、久しぶりに会いましょうって」
「そう、なんだ」
大学院に入学金を免除で入学できるくらい成績優秀、おまけに街でモデルスカウトされる程度には外見もよい。
何でもできて皆の憧れの的である彼女は、当然丑前家の星である。
──だが、サトシにとって、姉は星のような存在であると同時に、常に自分の前にそびえたっている壁のような人間であった。
どこへ行っても『丑前アキコの弟』と呼ばれ、一緒にいれば輝く姉の横に佇む影になった気分になったものだ。
そんなサトシの思いも知らず、母親は能天気に声をかけた。
「サトちゃんも、お姉さんと会えるの嬉しいでしょ?」
「う、うん」
サトシは、おもわず嘘をついた。
そのせいか、声が上ずってしまった。
「あら、どうしたの?」
「なんでもない。ご馳走様」
話を無理やり切り上げたサトシは、食器をシンクへ突っ込むと急いで自分の部屋へ戻っていった。
***
七時に手伏区生物園に着くと、すでに職員たちがイベントの準備を始めていた。
「あっ。丑前くんおはよー!」
着替えたサトシがエントランスに来ると、それに気づいたサナエが笑顔で声をかけてきた。
「箱音さん。早いですね」
「今日は宿直だったんだ。だから、ちょっとだけ早く、仕事してたんだよ」
この生物園では、動物に万が一のことがないよう、最低でも一人夜も残ることになっている。
宿直業務は、通常男性職員の担当であるのだが、サナエは志願して宿直もやるようにしているらしい。
「それじゃあ、今日はこれで作業終わりですか?」
「いいや。午前中は休憩して、午後はグンディのトークショーをする予定かな」
「それで、大丈夫なんですか?」
宿直業務中もずっと起きているわけではないとはいえ、やはり気を使うものであるそうだ。
サトシはパートのため、宿直業務をやることはないが、それでも職員から宿直の大変さを聞かされており、どれほど大変か想像がつく。
「あははー。大丈夫大丈夫!私頑丈なのが取り柄だから、ね」
「そうしたら、僕も何か手伝いますよ」
「ありがとう!そうしたら、そこにある荷物を売店に運んでもらえるかな?」
サナエが指さしたほうを見ると、従業員通路の入り口に台車に乗った段ボールが三箱置かれていた。
段ボールには、『グンディ お菓子』と書かれた張り紙が貼られていた。
「あれが、グンディグッズですか!?」
「ご名答!さすが丑前くん!きな粉餅とガラスマグネットは何とか間に合ったんだ!」
サトシが、たまらず段ボールを覗く。そこには、きな粉餅が入った手のひらほどのサイズの透明なパッケージが、ぎっしりと積まれていた。
「五家宝っていうんですね?」
「そう、おこしと水あめを練った生地にきな粉をまぶしたお菓子なんだって。私も話を聞くまでは知らなかったの」
「すごい、おいしそうですね!それにパッケージも可愛いです!」
パッケージには、『手造り五家宝!さばくの妖精グンディ』と可愛らしいフォントで書かれており、さらに四匹のグンディが積み重なっているイラストが描かれていた。
「これも、箱音さんが描いたんですよね!」
「あたり!結構自信作なんだよ!」
「本当に、絵がうまいですね!今度僕にも教えてくださいよ」
「いやー。私は独学で書いているだけだから、教えられないよ」
そう言って笑ったサナエが、ふと思いついたように続けた。
「あっ。でも、今日のお話会を手伝ってくれたら、いいよ!」
「いいですけど、何をすればよいんですか?」
「実はね、子供たちの前でグンディへの餌やりをしようと思うの。だけど、餌やりしながら説明するのって大変じゃない」
確かにそうかもしれない。そう思って頷くサトシへ、サナエは言った。
「だから、今回は丑前くんに中に入ってもらおうかなー、って」
「えっ!?僕がですか?」
「そうそう。大丈夫!林王さんからも許可もらったから」
「いやいや。やったことないですよ!」
いままで、展示ルームに入ったことがないサトシへ、サナエが真剣な目を向けて言った。
「そうかなぁ。最近、丑前くん、魚類とかのケースの掃除を手伝っているって聞くけど」
「確かに手伝っていますけど……」
「立実さん、言ってたよ。最近丑前くんが積極的に手伝ってくれるし、すごく役立っているって」
そう言われると、何も言えなくなるサトシへ、追い打ちをかけるようにサナエは軽く頭を下げた。
「お願い!人助けだと思ってさ!」
「……わかりましたよ」
断りきることができずにサトシが首を縦に振ると、サナエが喜色満面な様子で答えた。
「ありがとう!そうしたら、その荷物を持って行った後にどういうことをするか伝えるね!」
喜び微笑むサナエを見ながら、王様グンディと一緒の空間に入ることに、サトシは一抹の不安を覚えるのであった。
***
今日のお話会は、午後からの予定である。そのため、サトシは、午前中は売店でのレジ係をした。
「すみません!グンディグッズって、これだけですか!?」
若い女性が、レジ横の五家宝を持ちながら尋ねてくる。その後ろでは、カップルと思しき男性が、優し気な目で見守っていた。
「売店横にあるガチャもありますよ」
「へー。じゃあ、これ二つください。あっ、袋いらないでーす」
女性は、お金を取り出しトレイに置く。それを受け取ったサトシは、レシートと五家宝を手渡した。
後ろにいた男性と一緒にガチャのほうへ向かった彼女を見送るまもなく、次のお客がレジに来る。
(ゴールデンウイークにしたって、人多くないか!?)
モルモットのぬいぐるみと五家宝を会計しながら、サトシが内心驚いている。
去年も、連休中のシフトで仕事をしたことがあるが、ここまで忙しくはなかったはずだ。
「忙しそうじゃねえか。ウシ」
ようやく一息ついたサトシに、ふらっと立ち寄ったのであろう園長が声をかけてきた。
いつも以上に、きっちりと整えられた髪に、ピシッとした白いスーツを着込んだ園長は、まるで俳優のようであった。
「どうしたんですか、なんかすごくおしゃれしてますけど」
「いいだろ。今からちょっと野暮用でな。役所のダチと飯食ってくるんだ」
手伏区生物園は、区立の施設である。
それゆえか、園長は区役所によく顔を出し、そこそこ顔が広い、らしい。
「今からですか!?かなり忙しいんで、手伝ってくださいよ」
「頑張れ、若いの!受付のやつも目を回していたぞ!」
そう言ってガハハと笑う園長の横から、良く見知った少女がひょっこりと顔をのぞかせた。
「ああ、迎江さん、ようこそ!」
「おお、イロハちゃんじゃねえか!よく来たな!」
「丑前さん、園長さん。おはようございます。すごい人ですね」
イロハが、挨拶とともに目を丸くしながら言った。
「なんでも、もう二百人を超えたらしいぞ。午前中の新記録だってよ」
「そ、そうなんですね」
イロハは、少しクラついた様子で言った。
補聴器の影響で、人が多い空間は苦手なイロハにとって、今はかなり体力を消耗しているようであった。
「迎江さんは無理しないで、休んでいたほうが良いよ」
「あ、ありがとうございます。じゃあ、少しあっちで休ませていただきます」
「それがいいな。イロハちゃん、午後のお話会は楽しみにしておけよ!なんたってウシがグンディたちに餌やりするらしいからな」
そう言うと、園長は売店から出ていき、後には、サトシとイロハが残された。
「あの、大丈夫なんですか?」
「まあ、何とかなると思うよ」
『下僕、間違っても余や妃たちを踏むでないぞ』
唐突に王様グンディが、話に割り込んできた。サトシは苦笑いしながら、答える。
『もちろんですって』
『ふんっ。気を付けよ』
『王様?私も今日、見に行きますね』
『はよう来い、侍女よ。皆、会いたがっているぞ』
イロハは、サトシのほうを向いてぺこりと頭を下げると、そのままグンディたちの展示ルームに向かった。
あとに残されたサトシは、再びレジ打ちでてんてこ舞いになるのであった。
***
午後になり、レジ打ちを卯月と代わったサトシが集合場所の受付前へ向かうと、そこには人だかりができていた。
「お待たせしました。すごい人気ですね」
「そうなの。びっくりしちゃうでしょ。あっ、グンディたちのおやつ受付のところにあるから、忘れないでね!」
すでにサナエの周りに、二十人ほどが取り囲むように立っていた。
多くは子供であり、その中にはイロハもいる。
「はーい。そうしたら時間になりました。今日はご来園ありがとうございます。今回の解説役を務める、箱音です」
サナエは、いつもよりも明るい声で、話す。
「今日は、いっぱいの人がいるので、ちょっと見るのが大変になるかもしれないけど、譲り合って見てください。また、グンディはとても臆病なので、観察中は静かにしてくださいね!」
そう言うと、サナエは受付横の図書コーナーを指さした。
「まず、みんなには、グンディがどういう生き物か説明します。では、こちらへきてください!」
少しの間、サナエはグンディについて解説した。
「グンディは砂漠に住むネズミさんの仲間です。このように、砂漠の生活に向いている毛並みをしています」
退屈そうにしている子供もいるが、多くの子はサナエが描いたイラストと解説に夢中になっている。
後ろで聞いている親でさえ、興味深そうに話に耳を傾けていた。
「……こんな感じで、グンディ同士重なっていることもあります。今日も、もしかしたら見れるかもね!」
サナエが、グンディが重なるイラストをだすと、何人かの子供が、おお、と声を出した。
可愛らしいグンディの絵をみて、期待はどんどんと高まっているのだろう、多くの子供は目を光らせている。
「じゃあ、今から、実際のグンディを見に行きます。みんなついてきて!」
そう言って、グンディの展示ルームへ向かうサナエの後を、ずらずらと子供たちが付いていき、その後を親が追う。
最後にサトシがおやつの入ったお皿を持って、一番後ろから、追いかけた。
グンディの展示ルームの前に着くと、サナエが言った。
「はーい。前にいる子は後ろにいる子にも見えるように、座ってね!」
しばらく、子供たちがグンディの見える位置を確保しようと、各々の好みの位置に座っていく。
一方のグンディは、今まで経験していないほどのたくさんの人だかりに警戒しているようであった。
それまでのんびりと寝転んでいた妃たちは、巣箱の中へ避難してしまい、後には王様グンディのみが残っていた。
「グンディたち、隠れちゃったね」
床に座り込んでいる小さな男の子がさみしげにつぶやいた。
「ちょっとびっくりしちゃったかな?そうしたら、グンディたちが出てくるまで、何か聞きたいことはあるかな?」
ようやくみんなグンディが見れる位置に座ったのを確認したサナエが、子供たちへ聞くと、先ほどの少年が質問をした。
「あのぉ、このグンディたちに名前ってあるんですか?」
「実はね。まだ公式の展示名はつけていないの」
「どうしてですかー?モルモットには全部名前つけているのに」
「まずはね、グンディたち同士の特徴が見分けづらいことがあるの」
サナエの回答に、幾人かの大人が頷いた。確かに、様々な柄や毛色のモルモットとは違って、グンディは皆きな粉餅色であるのだ。
「それにね。グンディはもともと野生動物なの。飼いならされたモルモットとは分けて考えているから名前を付けてないの」
「へー。じゃあ僕がつけてもよい?」
「んー。いいよ!じゃあ、みんな好きな名前を付けてあげてね!」
その言葉に、子供たちが色めきだつ。各々が好き勝手な名前を上げる中、ふと王様グンディの迷惑そうな声がサトシの脳内に響いた。
『この小童どもを静かにさせよ』
「えーっと……みんなー。最初にお姉さんと約束したこと覚えているかな?」
仕方なくサトシが子供たちに言うと、皆思い出したように静かになった。
「みんな、ありがとう!ほかに質問はあるかな?」
「あの、どの子がロイヤル・グンディなんですか?」
細い三つ編みをしている少女が聞いてきた。
「タレグラに出ている、あの子はどの子ですか?」
「ロイヤル・グンディはね、今手前の岩に寝そべっている子だよ!」
擬岩の上でのんびりしている王様グンディを指しながら、サナエが答えた。
「この子の見分け方はね、背中に黒い毛が混ざっていることと、顔の毛が少し分かれていることなんだ。みんなも覚えて帰ってね」
確かに、王様グンディは顔の毛が縦にパカンと乱れている。そのせいで、王様グンディを見分けることは比較的容易であった。
「なんで、グンディって砂漠にいるのにこんなにフワフワなの?暑くないの?」
髪を明るく染めた、少し派手な男の子が、不思議そうに聞いた。
「よい質問だね!実は、グンディたちが住んでいる砂漠は、昼は暑いんだけど夜はとっても寒いの」
この答えが意外だったのか、何人かの子供が目を見開いた。
「このたくさん生えているフワフワの毛のおかげで、夜は凍えないし、昼はお日様の光が直接皮膚に当たることがないんだよ。この姿は可愛いだけじゃないんだよ」
そんな応対をしていると、妃たちも巣箱から出てきた。
子供たちは、目の前で寝転がっているグンディたちを、好奇心旺盛な目で見ている。
そんな中で、サナエが軽く手をたたいた。
「そうしたら、みんな!今からグンディのおやつタイムをやるよ!」
その言葉に、子供たちは面白そうに顔を上げた。
「今から、そこのお兄さんが餌をもって、ケースに入ります。グンディたちがご飯を食べるところをよく観察してね!」
その言葉を聞いた人がみな、サトシのほうを向く。
サトシは、軽く冷や汗をかきながら、お辞儀をした。
「じゃあ、まずはグンディたちのおやつを紹介するね。丑前くん、見せてくれる?」
そう言われて、サトシは手に持っていた皿の中身を見せるように傾ける。
「グンディは草食動物で、主食は牧草です。生物園では、おやつとしてズッキーニとにんじん、トウモロコシをあげることにしています」
厳密にいえば、げっ歯類用のペレットもあるのだが、細かくなるためここでは言わなかった。
「これらを高い岩の上など、あちこちに置いておきます。みんな、グンディたちの動きをよく観察してね!」
そこまで言うと、サナエはサトシに目で合図する。サトシは頷いて、ケースの中へ入るドアに向かった。
グンディのいる展示ルームに入ると、サトシの顔に、少し熱い空気が当たる。
展示ケースの中は、空調によって二十五度になるよう調整されている。
王様グンディ含めて、すべてのグンディが隠れているので、サトシの目からは見えなかった。
サトシがおやつを一掴みずつケースの各所へ置いていく。
『なんだか、随分と静かですね』
『フンッ。今はあの女のメンツを立てているのだ。本来であれば、貴様へ文句の一つ言いたいところであるが、今回は控えてやろう』
そんな会話をしながらおやつを置いたサトシは、空になった小皿を持って、出口へ向かった。
ドアノブを回して外に出ようとした時、王様グンディの声が響いた。
『下僕、後でまた来い。伝えることがある』
『ん?ああわかりました』
サトシは、そのまま外に出た。
特に中を振り返ることはなかったため、王様グンディが怪しい目でこちらを見ていることには気付かなかった。
外に出ると、王様グンディ以外の隠れていたグンディたちもヒョコヒョコと顔を出してきた。
「お兄さんが置いた餌をどう食べるか、よく見ていてね!」
すると、ひょいっと隠れていた穴から飛び出したアンドレが、部屋の中で一番高い岩のふもとまで来ると、一瞬で駆けあがった。それは、あまりに素早いため、まるで瞬間移動したかのようであった。
目を丸くする子供たちの前でおやつのニンジンをほおばるアンドレを見ながら、サナエが言った。
「グンディは、見た目によらずとっても筋肉質な体をしているの。だから、あんな自分の身体より何倍も大きな岩場でも、登れるんだよ!」
ほかのグンディたちも、同じようにおやつに殺到した。
ミルフィとメウェはベンチのようになっている木の台にあるおやつへ向かうと、まるで座っているかのようにして食べ始める。
王様グンディは、子供たちに一番近い岩に置かれたトウモロコシを、手でつかんで食べていた。
「食べ方にも違いがあるのがわかるかな?こんなふうに、グンディたちでも違いがあるんだよ」
子供だけでなく保護者達も真剣に観察している横で、サナエが説明をする。
「これからもグンディについてのイベントをやるから、みんなまた来てくださいね!今日はありがとう!」
そう言ってサナエがお辞儀をすると、周りからは拍手が響いた。
それを若干迷惑そうに見ながら、それでもグンディたちはおやつを食べ続けていた。
***
──イベントが終わって、閉園時間を過ぎた。
「ごめーん。これからモルモットたちのほうへ行くから、グンディたちの部屋の掃除お願いしてもいいかな?」
サナエにそう言われて、サトシは、グンディの展示ルームへ入った。
ケースの中にある擬岩の上には、王様グンディがちょこんと座っていた。
『よく来たな。下僕よ』
『あれ……今回は隠れないんですね』
いつもであれば、ケースの中に人が入ってくると巣箱や流木の中に隠れてしまうグンディが、なぜか今日は残っている。
不思議に思いつつ中に入って扉を閉めたサトシへ、王様グンディがチュルルと鳴きながら言った。
『この時を待ちわびていたぞ』
『ん?この時って──』
その瞬間、王様グンディがサトシのほうへとびかかると、ジャケットの中へと入りこんだ。
『うわっ!?何をするんですか!』
『今までの妃たちへの無礼、成敗してくれる!いや、今日だけではない、今までの無礼の数々をまとめて清算してやる!覚悟せよ、この無頼漢め!』
「わはは!どこ、入り込んでるんですか!あはは!」
王様グンディは、サトシの服に潜り込むと、わき腹の部分をくすぐり始めた。
グンディの足に生えている剛毛が、サトシの弱い部分を刺激する。サトシはたまらず、持っていた掃除道具を放り投げると王様グンディを取り出そうとした。
『甘いわ、下僕。そのトロい手につかまる余ではないわ!』
グンディはサトシの手をすり抜けて、脇の下を今度はくすぐりだした。
「ぎゃははは!やめて、やめてー!」
『これは、メウェに恥をかかせた恨み!これは、余に舐めた態度をした恨み!これは……まあ、日頃の恨みとでも思うがよい!』
サトシにはなんだかよくわからないが、王様グンディが叫びながら、くすぐり続ける。サトシは、とうとう地面にひっくり返ってしまった。
『なにやっているの?』『おもしろそうなことしているじゃない、王様!』
サトシが笑いながらもがいていると、何を思ったのかアンドレとミルフィも出てきた。
『ほれほれ。ここが弱いのであろう!覚悟せよ!』
「いひひひひ!やーめーて!」
『たのしそう、まぜて!』『アタシにもやらせて』
『許す。妃たちも折檻に加わるとよいぞ』
その言葉で二匹はサトシの身体に飛びつくと、くるくるとその腹の上でかけっこを始めた。
「ちょっと!?僕のおなかで遊ばないでよー!」
その願いもむなしく、アンドレたちはサトシの身体で楽し気な運動会を始めた。
王様がくすぐり、アンドレとミルフィが駆け回り、メウェが困った様子で見つめる。
サトシは、見悶えながらも、必死にグンディたちを押しつぶさないようにのたうち回っていた。
その後、様子を見に来たサナエと立実が止めてくれるまで、サトシはグンディたちのオモチャとなったのであった。




