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第39話:「探偵レイジと、教団の意外な再就職先」

 未来が、看護師という新しい夢を見つけた、ちょうどその頃。


俺たちの日常から少し離れた、都心の一等地にある、やけにキラキラしたオフィスビルの一室で、二人の男女が、火花を散らしていた。


「だから!依頼人のプライバシーより、愛の輝きを優先する探偵がどこにいるのよ!」


「ふっ、アカネ。君はまだ分かっていない。真実とは、時に人を傷つける。だが、愛は、全てを癒すのだ!それに、僕の美しき容姿を惜しみなく披露することは、世界平和に貢献しているに等しい!」


「そのポエムみたいな思考、やめなさい!ついでに、いちいち顔を輝かせるのもやめて!」


『氷堂&紅月 美男美女探偵事務所』。それが、レイジとアカネが、平和になった世界で始めた、新しいビジネスだった。


レイジの有り余る財力と、ファションアドバイザーとしてのアカネの(ラノベマニュアルで培った)情報収集能力が、奇跡的に噛み合い、なぜか「どんな依頼も解決してくれる、顔面偏差値の高い探偵事務所」として、巷で大人気になっているらしい。


コンコン、と事務所のドアがノックされる。


「どうぞ。迷える子羊よ、愛の探偵が、君を導こう」


「勝手に入れないでくれるかしら、今お化粧直し中なんだから…」


レイジがキザに言うと同時に、アカネが冷たく言い放つ。

ドアを開けて入ってきたのは、意外な人物だった。


「……失礼する」


高級そうなスーツを、少し着慣れない様子で着こなした、元・教団幹部のクロウだった。彼の顔には、どこか緊張の色が浮かんでいる。


「クロウ!?あなた、どうしてここに!」


アカネが驚き、思わず椅子から立ち上がる。


「ふっ、僕の事務所に、何か用かな?元・敵幹部殿」


レイジは、クロウを警戒するように、顔の横で扇子を広げた。クロウは、そんな二人を気にも留めず、深々と、頭を下げた。


「……頼む。どうか、私の、大切な家族を探してほしい」


「か、家族!?」


アカネとレイジの声が、ハモった。あのクロウが、家族?


「ああ。名前は『シャドウ』。漆黒の毛並みを持つ、気高き孤高の存在だ。三日前に、家を出てから、帰ってこない……」


クロウは、そう言うと、懐から一枚の写真を、震える手で取り出した。そこに写っていたのは、ふてぶてしい顔つきの、一匹の黒猫だった。


「……ただの、猫探しじゃないの」


「ただの猫ではない!彼は、私の魂の半身ソウルメイトだ!」


どうやら、あの猫カフェ通いがバレた後、クロウは開き直り、保護猫だった黒猫を引き取って、溺愛しているらしい。アカネとレイジは、あまりのギャップに、呆然と固まってしまった。


「……はあ。まあ、いいわ。依頼は依頼よ。報酬は、弾んでもらうわよ」


アカネが、やれやれ、という顔で依頼を引き受けた、その時。事務所の電話が、けたたましく鳴った。


「はい、こちら美男美女探偵事務所、愛のコンシェルジュ、氷堂レイジです!」


『あ、もしもし!サイガだけど!今、テレビ局の前にいるんだけどさ、うちのタレントが、急にどっか行っちゃって!探してくれない!?』


電話の相手は、元・教団幹部のサイガだった。アカネが、訝しげな顔でスピーカーフォンに切り替える。


「サイガ!?あなた、テレビ局で何してるのよ!」


『何って、マネージャーだよ!俺、今、芸能事務所で働いてんの!』


なんと、サイガは、その強面の交渉術(という名の恫喝)と、面倒見の良さを買われ、芸能マネージャーに転身し、大成功を収めているという。


「で、そのいなくなったタレントって、誰なのよ」


『それがさあ……』


サイガが、言いにくそうに、口ごもる。

その時、事務所の窓の外を、一つの巨大な影が、横切った。


「……レイジ、あれ、見て」


アカネが、震える声で窓の外を指さした。


「なんだ、あれは……鳥……?いや、違う!あれは……」


窓の外、ビルの屋上のヘリポートに、見慣れた人影が、仁王立ちしていた。頭に包帯を巻き、腕を吊った、満身創痍の、元・JESUS司令官、高城だった。彼は、拡声器を手に、何かを叫んでいる。


「――我が愛しのシリウス!君はどこにいるのだ!もう一度、僕の前に、その輝きを見せておくれー!」


高城は、ネットに流出した自分のポエムを、自ら、大声で叫んでいた。その異様な光景に、下の道路は、大渋滞を引き起こしている。通行人たちは、スマートフォンを構え、その光景を撮影している。


『あ……。うちのタレント、あれだわ……』


電話の向こうで、サイガが、力なく呟いた。


「「「はああああああ!?」」」


レイジとアカネの絶叫が、事務所に響き渡った。

なんと、高城は、JESUSをクビになった後、その悲劇性と、妙なカリスマ性から、サイガにスカウトされ、「哀愁のポエムおじさん」として、まさかの芸能界デビューを果たしていたのだ。


そして今日、初恋の相手を探す、という名目で、ゲリラライブを敢行し、逃走したらしい。


「……依頼が、渋滞しているな」


クロウが、冷静に、状況を分析する。

・依頼①:家出した黒猫『シャドウ』の捜索(依頼人:クロウ)

・依頼②:逃走したタレント『哀愁の高城』の確保(依頼人:サイガ)


「やってられるかーっ!」


アカネの絶叫が、都会の空に、虚しく響き渡った。


平和になった世界で、元・敵も味方も、それぞれの場所で、たくましく、そして、相変わらず、どこかポンコツに、新しい人生を、歩み始めている。


世界の危機は去ったが、彼らの、ドタバタな日常は、まだまだ、終わりそうになかった。

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