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第38話:「ルナの涙と、奇跡の光」

 未来と別れた、その日の夜。

俺は、公園での出来事を、ルナに話した。未来の恋の終わり、そして、彼女が支払った、あまりにも大きな代償のことを。


話を聞き終えたルナは、何も言わず、ただ、ぽろぽろと、大粒の涙をこぼしていた。俺は、ルナの小さな手を握りしめる。彼女の手は、冷たいままで、その震えが止まらない。


「……そんなの、嫌です」


絞り出すような、ルナの声。


「未来さんが、いなくなっちゃうなんて、絶対に、嫌です……!私が、幸せでいるために、未来さんが、犠牲になるなんて、そんなの間違ってます!」


ルナは、俺の胸に顔をうずめて、子供のように、声を上げて泣いた。彼女にとって、未来は、恋のライバルであると同時に、初めてできた、大切な「女友達」だった。


その友達が、消えてしまう。その事実が、ルナの心を、深く、傷つけていた。


俺は、そんなルナを、ただ、抱きしめることしかできなかった。奇跡を起こす力なんて、俺にはない。無力な自分が、歯がゆかった。


その夜、ルナは、一睡もせずに、何かを、ずっと、考えているようだった。俺が「大丈夫か?」と聞いても、「うん……」とだけ答えて、すぐに考え込んでしまう。


彼女の瞳は、まるで遠い宇宙を見つめているかのように、一点を見つめたままだった。


そして、翌朝。


ルナは、決意を固めた顔で、俺に言った。


「カイト。私、未来さんを、助けたいです」


「助けるって……どうやって」


俺は、思わず身構えた。何か、突拍子もないことを言い出すんじゃないか、と。


「わかりません。でも、このまま、何もしないで、未来さんが消えていくのを見ているだけなんて、絶対に、嫌なんです」


ルナの瞳には、かつて、世界を平和に導いた時と同じ、強い光が宿っていた。


「私の力が、私の幸せな気持ちが、世界を平和にできるなら……私の、悲しい気持ちや、友達を助けたいっていう強い想いも、きっと、何かの奇跡を起こせるはずです。私は、それを、信じたい」


俺は、ルナの覚悟を、止めることはできなかった。いや、止めようとは思わなかった。俺も、同じ気持ちだったからだ。


「よし、行こう」


俺は、ルナの手を引いて、未来のアパートへと、向かった。アパートに着くと、俺たちは、躊躇することなくインターホンを鳴らした。突然の訪問に、未来は、驚いた顔でドアを開けた。


「ルナさん?先輩も、どうして……」


「未来さんを、助けに来ました!」


ルナは、単刀直入に、そう言った。そして、未来の手を、両手で、強く、握りしめた。


「ルナさん……?」


「未来さんが、いなくなるなんて、私は、絶対に、認めません。未来さんは、私の、大事な、大事な、友達なんですから!」


ルナの体から、金色の、温かい光が、溢れ出した。それは、世界を平和に導いた、あの光。地球の意思そのものである、ガイアの力。


「ルナさん、やめて!そんなことをしたら、あなたの体に、どんな影響が……!」


未来が、慌てて止めようとする。だが、ルナは、首を横に振った。


「いいんです。これは、私が、私のわがままで、やることですから。……神様、地球様、お願いします。私の、一番の友達を、奪わないでください……!」


ルナは、祈るように、目を閉じた。彼女の想いに呼応するように、光は、さらに、輝きを増していく。その光は、未来の体を、優しく、包み込んだ。


未来の体が、ふわり、と宙に浮く。彼女の体が、光の粒子となって、キラキラと、輝き始めた。


「未来!」


俺が、思わず叫ぶ。だが、それは、消滅の兆候ではなかった。光の粒子は、未来の体を再構成するように、集まっては、離れ、そして、より強く、結びついていく。


まるで、希薄になっていた彼女の存在を、世界に、もう一度、強く、結びつけているかのようだった。


やがて、光が、ゆっくりと、収まっていく。未来の体は、そっと、床に着地した。


「……未来、大丈夫か?」


俺が、駆け寄ると、未来は、自分の右手を、信じられない、という顔で、見つめていた。昨日まで、少しだけ、透けて見えていた、その指先。今は、もう、透けてなどいない。


確かな「実体」を持って、そこに、存在していた。


「……体が、温かい……。それに、なんだか、力が、みなぎってくるみたい……」


未来は、涙を浮かべながら、ルナに向き直った。


「ルナさん……。私のために、こんな、無茶を……」


「よかった……。本当に、よかった……!」


ルナは、その場に、へなへなと、座り込んでしまった。さすがに、かなりのエネルギーを、使ってしまったらしい。未来は、そんなルナを、強く、強く、抱きしめた。


「ありがとう……!ありがとう、ルナさん……!」


二人の少女は、抱き合ったまま、しばらく、泣きじゃくっていた。それは、悲しみの涙ではなかった。友情が、奇跡を起こした、喜びの涙だった。


数日後。

すっかり元気になった未来が、俺たちの部屋を、訪ねてきた。


「先輩、ルナさん。私、決めました」


彼女は、晴れやかな顔で、一枚のパンフレットを、俺たちに見せた。それは、看護学校の、入学案内だった。


「私、看護師になろうと思います。ルナさんに、助けてもらった、この命。今度は、私が、誰かを助けるために、使いたいんです。Gシステムみたいな、特別な力じゃなくて、私の、この手で」


彼女は、自分の手を、まっすぐに見つめて、言った。その瞳には、もう、迷いも、悲しみもなかった。自分の力で、自分の未来を、見つけ出した、強い女性の顔をしていた。


「そっか。お前なら、きっと、いい看護師になれるよ」


「はい!頑張ります!」


未来は、にっこりと笑った。それは、俺が今まで見た中で、一番、綺麗で、力強い笑顔だった。


初恋は、終わったのかもしれない。でも、彼女の人生は、まだ、始まったばかりだ。たくさんの可能性と、希望に満ちた、彼女自身の、未来が。


俺は、そんな彼女の背中を、心から、応援したいと、思った。そして、隣で、同じように、嬉しそうに笑っている、俺の、世界一、優しくて、強い彼女のことを、もっと、もっと、大切にしようと、改めて、心に誓ったのだった。

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