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第34話:「謎の情報屋と、驚きの再会」

 ラーメン屋『むさし屋』での作戦会議から一夜。俺たちは、桜庭さんの古い知り合いだという、謎の情報屋と会うことになった。


桜庭さんが旧式の無線機で連絡を取ってくれたところ、相手はあっさりと面会を承諾。そして、指定してきた場所は、なんと……。


「……よりによって、俺のバイト先かよ」


俺が働くファミレス『サイデリア』の、一番奥のボックス席。窓の外には、見慣れた景色が広がっている。


 俺たちは、ドリンクバーのメロンソーダをちびちびと飲みながら、その人物の到着を待っていた。


 変装のため、俺は伊達眼鏡をかけ、ルナは、俺が家から持ってきたキャップを目深にかぶっている。未来たちも、それぞれ普段とは違う雰囲気の服装だ。レイジは珍しく私服で、アカネはフード付きのパーカーを着ていた。


「しかし、本当にこんな場所で大丈夫なのでしょうか……。JESUSや教団の監視も、あるかもしれませんが」


未来が心配そうに、周囲をキョロキョロと見渡す。その様子は、まるで怪しいスパイ映画の登場人物みたいだった。


「ふっ、灯台下暗し、というやつさ。敵も、まさか僕たちがこんな庶民的な場所にいるとは思わないだろう」


レイジが、まるで名探偵のようにドヤ顔で言い放つ。その顔が、なんだか無性に腹立たしかった。


 だが、俺の心臓は、さっきからバクバクと鳴りっぱなしだった。バイト先の同僚に、俺が指名手配犯(仮)だとバレたらどうしよう、とか、ドリンクバーだけで粘ってたら店長に怒られるんじゃないか、とか、世界の危機とは別の次元の心配で、頭がいっぱいだった。


約束の時間は、午後3時。壁の時計の針が、カチリ、と音を立ててその時刻を指した、その時。俺たちのテーブルに、一人の人物が、ふらり、と現れた。


「やあ、待たせたね」


その声を聞いて、俺は、飲んでいたメロンソーダを、盛大に噴き出しそうになった。


「お、親父!?」


そこに立っていたのは、趣味の釣りに出かけるような、ラフな格好をした、俺の親父――、一ノ瀬俊、その人だった。


「な、なんで親父がここに!?」


俺は、思わず立ち上がって、声を張り上げた。


「ん?桜庭から連絡があってね。『お前の息子が、ちょっと世界を揺るがす厄介ごとに巻き込まれてるから、力を貸してやってくれ』って」


親父は、悪びれもせず、俺の隣にどっかりと座った。あまりの出来事に、俺は言葉が出ない。


未来、レイジ、アカネ、そしてルナも、あまりに予想外すぎる情報屋の正体に、呆気にとられて、口をあんぐりと開けている。


「ま、待ってください!あなたが、あの伝説の情報屋『ファントム』……!?」


レイジが、信じられない、という顔で叫んだ。


「ファントム?なんだそりゃ。俺は、ただの早期退職した、自由人だよ」


親父は、けらけらと笑っている。どうやら、桜庭さんが言っていた「古い知り合い」で「物好きな情報屋」というのは、俺の親父のことだったらしい。


昔、桜庭さんと親父の間に何があったのかは知らないが、とんでもない繋がりだ。


「……で、話は聞いたよ。JESUSと教団、両方を敵に回して、この子…ルナちゃんを守りたい、って話だろ?」


親父は、ルナの頭を、優しく撫でた。ルナは、戸惑いながらも、その温かい手に、安心したように目を閉じた。


「いい覚悟じゃないか、海斗。それでこそ、俺の息子だ」


「いや、感心してる場合かよ!どうすんだよ、これから!」


俺が焦って言うと、親父は、余裕綽々で笑った。


「まあ、落ち着けって。手は、打ってある」


親父は、そう言うと、ポケットから、一枚の、小さなメモリーチップを取り出し、テーブルの上に、ことり、と置いた。プラスチックの安っぽい、小さな欠片。しかし、そこから、とてつもないオーラが放たれているように感じた。


「……これは?」


「JESUSと教団、両方の組織の、ちょっと人には言えないような『秘密』が、たくさん詰まってる。まあ、俺が、趣味で集めてた、ただのゴシップネタみたいなもんだけどな」


 趣味で、組織の秘密を集めるなよ、親父。あんたの趣味の規模、おかしいだろ。


「これを、どうするんですか?」


未来が、真剣な顔で尋ねる。


「決まってるだろ。リークするんだよ。それも、世界中に、だ」


「「「なっ!?」」」


俺たちの声が、ハモった。親父の、あまりに大胆な提案に、俺たちは、言葉を失った。


「いいか?JESUSも教団も、体裁を気にする、ただのデカい組織だ。自分たちの恥ずかしい秘密が世界中にバラされたら、どうなる?ルナちゃんどころじゃなくなるだろ。まずは、奴らの目を、外じゃなくて、内に向けさせてやるんだよ」


「しかし、そんなことをしたら、両組織が、完全に暴走する危険も……!」


レイジが、珍しく慌てた様子で反論する。


「大丈夫だって。こっちには、最強のカードがあるんだから」


親父は、にやりと笑うと、ルナに向かって、優しく言った。


「ルナちゃん。君が、にっこり笑って、『みんな、仲良くしてください』って、世界に向けて発信するんだ。君の言葉と、君の力なら、それができる。違うかい?」


 ルナの幸せな感情が、世界を安定させる。その力を、防衛的に使うのではなく、積極的に、「平和を呼びかける」ために使う。それは、俺たちには、全くなかった発想だった。


「……すごい。それなら、本当に、世界を変えられるかもしれない……!」


未来が、感嘆の声を上げる。


「そうだろ?まあ、俺は、きっかけを作るだけだ。あとは、お前たち、若い世代が、頑張るんだな」


親父は、そう言うと、伝票を持って、席を立った。


「じゃ、親父は、これから母さんとデートだから。会計、よろしくな」


「おい!?」


 嵐のように現れ、とんでもない爆弾を置いて、そして、会計を押し付けて、親父は、颯爽と去っていった。その背中が、やけに遠く、大きく見えた。


残された俺たちは、テーブルの上の小さなメモリーチップを、ゴクリと、息をのんで見つめていた。


これが、俺たちの、起死回生の一手。

世界の運命は、この小さなチップと、ルナの笑顔に、託されたのだ。

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