第26話「未来の覚悟と、仲間たちの逆襲」
新年で賑わう神社の境内。その一角だけが、凍てつくような緊張感に支配されていた。
教団の精鋭『審問官』と名乗る男たちが放つ、禍々しいオーラ。それは、今まで対峙してきたクロウやサイガのような、どこか詰めの甘いポンコツたちとは明らかに異質だった。こいつらは、本気だ。
「どけ、元JESUSの裏切り者。我らの目的は、滅びの鍵ただ一人。貴様らに構っている暇はない」
審問官の一人が、未来をゴミでも見るかのような目で見下し、手を払うような仕草をする。
すると、地面から鋭い岩の槍が何本も突き出し、未来へと襲いかかった。
「危ない!」
俺が叫ぶより早く、レイジが未来を突き飛ばし、その場から回避させた。
「ふん、僕のプリンセスと未来を傷つけることは、この僕が許さない!」
「あなたたち、教団の中でも過激派で有名な連中ね……!こんなところで騒ぎを起こして、ただで済むと思っているの!?」
レイジとアカネが、それぞれ未来の前に立ち、審問官たちと対峙する。
だが、相手は格が違った。
「黙れ、ポンコツども」
審問官が指を鳴らすと、レイジとアカネの足元に、まるで魔法陣のような文様が浮かび上がり、二人の動きを完全に封じてしまった。
「なっ!?体が……!」
「くっ、これが審問官の『言霊拘束』……!まずいわ、手も足も出ない……!」
レイ-ジとアカネ、二人がかりでも、一瞬で無力化されてしまった。審問官は、もはや邪魔者はいないとばかりに、ゆっくりとルナに歩み寄る。
「さあ、来るんだ、滅びの鍵よ。お前の居場所は、そんな偽りの日常の中にはない」
「いや……!」
俺は、震えるルナの腕を引き、背後にかばう。だが、足がすくんで動けない。圧倒的な力の差を、肌で感じてしまっていた。
その時だった。
俺の前に、再び、小さな背中が立ちはだかった。
「……まだ、私がいます」
未来だった。
彼女は、ゆっくりと立ち上がると、審問官たちをまっすぐに見据えた。その瞳には、もう恐怖の色はない。あるのは、静かで、しかし燃えるような、強い覚悟だけだった。
「……先輩」
「未来?」
「私、ずっと考えてたんです。私にできることは、何だろうって。先輩の隣にいるルナさんを見て、何度も、諦めようと思いました。でも……」
未来は、一度、言葉を切った。そして、決意を込めて、続ける。
「でも、やっぱり、ダメでした。私は、先輩が好きです。そして、ルナさんも……もう、私にとって、大切な友達なんです。だから、決めました。この恋が報われなくてもいい。でも、二人が笑って過ごせる日常は、私が、絶対に守り抜く!」
彼女がそう叫んだ瞬間、未来の体から、淡い光が溢れ出した。
「な、なんだ、この光は……!?」
審問官たちが、驚きの声を上げる。
未来は、胸元で輝く小さなペンダントを、強く握りしめた。それは、JESUSのエージェントに与えられる、ただの認識票ではなかった。
「JESUS最終プロトコル、コード『ガーディアン』……限定起動!」
未来が叫ぶと、ペンダントから放たれた光が、彼女の全身を包み込む。光が収まった時、そこに立っていたのは、純白の軽装甲に身を包んだ、まるで戦乙女のような姿の未来だった。その手には、光で形成された二本の短剣が握られている。
「そ、それは、JESUSが開発した決戦兵器『Gシステム』……!なぜ、お前のような落ちこぼれがそれを!?」
「私は、この力を、自分のためじゃなく、大切な人を守るために使います!」
次の瞬間、未来の姿が消えた。
いや、常人には捉えられないほどの速度で、審問官の一人の懐に潜り込んでいたのだ。
「なっ――ぐはっ!?」
閃光のような斬撃が、審問官のローブを切り裂く。
圧倒的なスピードと、パワー。これが、未来の秘められた力……!
「おのれ、小娘が!」
残りの審問官たちが、一斉に未来に襲いかかる。
だが、その時、レイジとアカネを拘束していた魔法陣が、パリン、と音を立てて砕け散った。
「……ふう。助かったわ。あの子、あんな力を隠していたなんてね」
「ああ。だが、僕たちも、ただ見ているだけでは騎士の名が廃る!」
アカネが扇子を構え、レイジが薔薇(どこから出したんだ)を口にくわえる。
「援護するわよ、未来!」
「行こう、アカネ!僕たちの愛のコンビネーションを見せる時だ!」
「誰があなたと愛のコンビよ!」
アカネの扇子が起こす風が、審問官たちの視界を奪い、レイジが投げた薔薇の花びらが、彼らの足元を滑らせる。それは、相変わらず直接的なダメージにはならない、ポンコツな援護だった。
だが、その一瞬の隙が、未来にとっての決定的なチャンスを生み出した。
「はあああああっ!」
未来の双剣が、審問官たちを薙ぎ払う。
黒いローブの男たちは、なすすべもなく吹き飛ばされ、神社の石畳に叩きつけられた。
「……ありえない。我ら審問官が、たった一人の裏切り者に……」
審問官たちは、ほうほうの体で立ち上がると、忌々しげに呟いた。
「……覚えていろ。滅びの鍵は、必ず、我らが手に入れる……」
そう言い残し、彼らは煙のように姿を消した。
戦いは、終わった。
「……はあ、はあ……」
未来を包んでいた光の鎧が消え、彼女はその場にへたり込んだ。
「未来!大丈夫か!?」
「……はい。なんとか……」
俺が駆け寄ると、未来は、少し照れくさそうに笑った。
その笑顔は、いつもの健気な後輩の笑顔だった。
「すごいじゃないか、未来!君は、まるで戦場の女神のようだったよ!」
「まあ、私の足元にも及ばないけど、少しは見直してあげてもいいわ」
レイジとアカネも、それぞれの言葉で彼女を称える。
そして、ルナが、おずおずと未来の隣にしゃがみこんだ。
「……未来さん。ありがとう、ございます。私のために……」
「ううん。言ったでしょ?ルナさんは、もう、私の大事な友達なんだから」
未来は、そう言って、ルナの手をぎゅっと握った。
その光景は、まるで姉妹のようで、温かくて、でも、少しだけ、切なかった。
俺は、そんな彼女たちを見ながら、強く、心に誓った。
未来が、命がけで守ってくれたこの日常。
今度こそ、俺が、俺自身の力で、守り抜かなければならない、と。




