第25話「初詣と、おみくじの行方」
コンビニの半額ケーキで祝った、ささやかだけど温かいクリスマスから数日。街はあっという間に年の瀬の雰囲気に包まれ、そして、新しい年が明けた。
「あけましておめでとう、カイト!」
「おう、おめっとさん。今年もよろしくな、ルナ」
元旦の朝。俺とルナは、こたつでぬくぬくしながら、テレビの正月特番をだらだらと見ていた。これもまた、平和な日常だ。
すると、スマホに未来からメッセージが届いた。
『先輩、あけましておめでとうございます!よかったら、これからみんなで初詣に行きませんか?』
メッセージには、未来と、なぜかレイジとアカネも一緒に写っている写真が添付されていた。どうやら、この三人で新年早々集まっていたらしい。組織の垣根を越えて、すっかり仲良くなったのか、あいつら。
「初詣か。まあ、行くか」
「はつもうで?それは、美味しいんですか?」
「いや、食いもんじゃねえよ。神様に、今年一年のお願いをしに行くんだ」
「お願い……!行きたいです!私、カイトともっと一緒にいられますようにって、お願いしたいです!」
そんなわけで、俺とルナは、未来たちと合流して、近所で一番大きな神社へ初詣に行くことになった。
神社は、晴れ着や着物姿の人々でごった返していた。
俺たちは、人の波に揉まれながら、なんとか本殿までたどり着き、賽銭を投げて、それぞれに手を合わせる。
(……今年も、この平和な日常が、続きますように)
俺が神様にそんな現実的なお願いをしていると、隣ではルナが、ものすごく真剣な顔で、長い時間手を合わせていた。
参拝を終え、次はおみくじを引くことになった。
「わあ!いっぱいくじがあります!」
「よし、じゃあ、今年の運勢を占ってみるか」
俺、ルナ、未来、レイジ、アカネ。五人それぞれが、おみくじの筒を振る。
「私は……『大吉』!やったわ!これで、今年はカイトを確実に射止められるわね!」
「僕は『吉』か。ふっ、だが、僕の運命は、僕自身が切り開くものさ」
「私は『末吉』……。微妙ですね……」
アカネは大喜びし、レイジはキザに決め、未来は少しがっかりしている。
そして、俺は……『凶』。新年早々、ついてない。
「カイト!私はどうですか!?」
ルナが、わくわくした顔で、おみくじを俺に見せてきた。
そこに書かれていたのは、『大吉』の二文字。
「おお、すげえじゃん、ルナ!大吉だぞ!」
「だいきち!やりました!」
ルナは、子供のようにはしゃいで喜んでいる。
俺は、彼女のおみくじに書かれている内容を、読んでやることにした。
「えーと、なになに……『願望:思うがままになるでしょう』。すげえな」
「『病気:治るでしょう』。まあ、健康ってことだな」
「『失物:見つかるでしょう』。へえ、記憶とかも、見つかるかもな」
俺がそこまで読んだ時、未来が「あ!」と声を上げた。
「先輩!その下!『待ち人』のところ、なんて書いてありますか!?」
未来に言われて、俺は「待ち人」の項目に目をやった。
そこに書かれていたのは、思わず息をのむような、一文だった。
『待ち人:便りなく、来る』
「……たよりなく、きたる?」
どういう意味だ?
俺が首を傾げていると、アカネが「それはつまり、予期せぬ形で、待ち望んでいた人が現れる、ということよ。私の愛読書にも、そういう展開があったわ」と、得意げに解説してくれた。
待ち人……。
ルナにとっての、待ち人。それは、彼女の過去を知る人物、ということだろうか。
記憶が戻ることを望んでいないと言っていたルナ。もし、そんな人物が現れたら、彼女は……俺たちの日常は、どうなってしまうんだろう。
さっきまでの和やかな空気が、少しだけ、不穏なものに変わる。俺は、その不吉な予感を振り払うように、わざと明るく言った。
「ま、まあ、おみくじなんて、ただの占いだからな!気にすんな!」
「はい!」
ルナは、何もわかっていないのか、こくりと頷いた。
だが、未来だけは、そのおみくじの言葉の意味を、俺と同じように重く受け止めているようだった。彼女は、心配そうに、ルナの横顔を見つめていた。
その時だった。
「――見つけたぞ、滅びの鍵」
冷たく、低い声が、すぐ近くから聞こえた。
振り返ると、そこに立っていたのは、神社の人混みにはあまりに不釣り合いな、黒いローブを纏った男たちだった。教団の連中だ。しかし、クロウやサイガではない。もっと、禍々しいオーラを放っている。
「あなたたちは……!」
アカネが、驚愕の表情で彼らを見ている。
「教団の『審問官』……!なぜ、あなたたちがここに!?」
「紅月アカネ。貴様の体たらく、上層部はお怒りだ。もはや、お前たち現場の者に、任務は任せられん」
審問官と名乗る男は、アカネを一瞥すると、その冷たい視線をルナに向けた。
「滅びの鍵よ。我らと共に来てもらう。世界の終焉は、我らの手で管理されねばならん」
男が、ルナに向かって手を伸ばす。
まずい!BBQの時とは、明らかに空気が違う!こいつらは、本気だ!
俺がルナの前に立ちはだかろうとした、その時。
俺よりも早く、一人の人物が動いた。
「――させません!」
未来だった。
彼女は、おみくじを結ぶための木の枝をへし折り、即席の武器として構えると、審問官たちの前に立ちはだかった。
「ルナさんには、指一本触れさせません!彼女の平穏な日常を、これ以上、壊させはしません!」
その瞳には、もう迷いはなかった。
それは、スパイとしてでも、恋する乙女としてでもない。ただ、大切な「友達」の幸せを守ろうとする、一人の人間としての、強い、強い意志の光だった。
おみくじに書かれていた「待ち人」。
それは、過去からの使者か、それとも――。
新年早々の平和な初詣は、突如として、新たな戦いの舞台へと変わってしまった。




