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第15話「教団の刺客と、ポンコツ作戦」


教団『終末の福音』のアジト。


幹部のクロウとサイガは、プリクラ機の中で撮影された、男二人、ぎこちない笑顔の写真を前に、頭を抱えていた。


「くそっ……!我々の威厳が……!この写真は絶対に外部に流出させるな!」


「それよりクロウ、問題はそこじゃない。先日の夏祭り、滅びの鍵と天城海斗の幸福エネルギーが、観測史上最大値を記録した。報告によれば、原因は『婚約指輪』だそうだ」


「こんやくゆびわだと!?あの男、どこまで我々の計画を邪魔すれば気が済むんだ!」


クロウは怒りに震え、机を叩いた。

JESUSのポンコツイケメンは役に立たず、自分たちの潜入作戦は失敗続き。このままでは、滅びの鍵は完全に天城海斗のモノになってしまう。


「……こうなれば、奥の手を使うしかない」


クロウは決意したように、内線電話のボタンを押した。


「――私だ。コードネーム『紅の誘惑クリムゾン・テンプテーション』を呼べ。彼女に、新たな任務を与える」


その名を聞いて、サイガが息をのんだ。


「おい、正気かクロウ!?彼女を動かすのか!?たしかに腕は立つが、あいつは……」


「黙れ。もはや、手段を選んでいる時ではないのだ。作戦名『ハニートラップ・レボリューション』。天城海斗を色仕掛けで堕落させ、滅びの鍵を絶望の淵に叩き落とす!」


クロウの宣言は勇ましかったが、その声はどこか不安げに震えていた。


彼らが呼び出した最終兵器が、組織史上最強のポンコツであることを、彼ら自身が一番よく知っているからだ。


その女の名は、紅月アカネ。

腰まで伸びる艶やかな黒髪に、モデル顔負けのスタイル。魅惑的な瞳で見つめられれば、どんな男も一瞬で虜になるという、対男性用決戦兵器。


……というのは、あくまでカタログスペック上の話である。


実際の彼女は、生まれてこの方、父親以外の男とまともに話したこともない、恋愛経験ゼロの箱入り娘。


彼女の恋愛知識の全ては、教団に代々伝わる、古臭く間違った『対異性用工作マニュアル』と、任務の参考資料として読み漁った、大量のライトノベルと少女漫画によって構成されていた。


「――アカネ、任務内容は理解したな?」


「はい、クロウ様。ターゲット・天城海斗を、私の魅力で籠絡し、骨抜きにすればよろしいのですね」


アカネは、アジトの一室で、自信満々に答えた。

その手には、ボロボロになったマニュアルと、『悪役令嬢はどっかの国の王太子に溺愛される』というタイトルのラノベが握られている。


「マニュアルによれば、まず『偶然の出会い』を演出し、ターゲットに強烈な第一印象を与えるのが定石。承知いたしました」


「お、おう……。頼んだぞ……」


クロウは、一抹の不安を覚えながらも、彼女を送り出すしかなかった。


翌日、俺はバイト先の『サイデリア』からの帰り道、いつものように商店街を歩いていた。

すると、角を曲がったところで、誰かとドン、とぶつかってしまった。


「おわっ、と!悪い!」


俺が謝りながら相手を見ると、そこに立っていたのは、息をのむほどの超絶美人だった。


「……ふっ。ようやく会えたわね、天城海斗」


「え?あんた、誰だ?」


俺が戸惑っていると、彼女は艶然と微笑み、マニュアル通りのセリフを口にした。


「私の名は、アカネ。君の運命を、狂わせに来た女よ」


……は?


なんだこの人。また電波系か?俺の周り、電波系の美少女しかいないのか?


俺がドン引きしていると、アカネは次の行動に移った。

マニュアル第二項、『ボディタッチで相手を意識させる』。


彼女は、わざとらしくよろめき、俺の胸に倒れ込んできた。


「きゃっ……!」


柔らかい感触と、甘い香りに、俺の心臓が跳ねる。

だが、彼女はすぐに顔を上げ、キッと俺を睨みつけた。


「な、なんて乱暴な男なのかしら!私の純潔に傷がついたら、どう責任を取ってくれるの!?」


「いや、あんたがぶつかってきたんだろ!?」


「問答無用!責任を取って、私と……私と……!」


アカネは、次のセリフをど忘れしたのか、慌てて懐から小さなメモ帳を取り出した。


「ええと……『責任を取って、私と一日、デートしなさい!』」


「カンペ読んでんじゃねえか!」


俺は思わずツッコミを入れてしまった。

ダメだこの人。見た目は完璧なのに、中身が残念すぎる。


「と、とにかく!これは命令よ!明日の10時に、駅前のカフェ!来ないと、どうなるかわかっているわね……?」


アカネはそう言い残し、ヒールを鳴らして去っていった。

残された俺は、ただただ呆然と立ち尽くす。


「……なんだったんだ、今の……」


その夜、俺はアパートで、ルナと未来に今日の出来事を話した。


「――というわけで、明日、謎の美人に呼び出されたんだが、どう思う?」


「そ、その女、怪しいですよ、先輩!きっと先輩を騙そうとしてるんです!」


未来が、ぷんぷんと怒っている。


「カイト……。その人、どんな人でしたか?」


ルナが、不安そうな顔で俺に尋ねた。


「んー、すげえ美人だったけど、なんか、ちょっと抜けてるっていうか……」


「美人……」


ルナの顔が、みるみるうちに曇っていく。

まずい、また嫉妬モードに入りそうだ。


「いや!でも、ルナの方が百万倍可愛いぞ!」


「!!!、ほんとですか!?」


「ああ、本当だ!」


俺が慌ててフォローすると、ルナはすぐに機嫌を直した。単純で助かる。


「……でも、先輩。その約束、どうするんですか?」


「どうするって言われてもなあ……。行かないで、逆恨みされても面倒だし……」


俺が悩んでいると、未来がポンと手を叩いた。


「そうだ!私たちも、一緒に行きましょう!」


「は?」


「先輩が、その女の人に変なことをされないように、ルナさんと私で、見張ってるんです!名付けて、『デート監視作戦』です!」


こうして、俺の意思とは全く関係なく、明日の謎のデート(?)に、ルナと未来もついてくることが決定した。

波乱の予感しかしない。


俺は、明日という日が無事に終わることだけを、ただひたすらに祈るのであった。


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