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第14話「浴衣美少女と、世界に響く花火大会」


白石未来からの、あの夜の「宣戦布告」


あれ以来、俺はどうにも調子が狂っていた。


バイト中、未来が「先輩、お疲れ様です」とタオルを渡してくれるだけで、ドキッとしてしまう。彼女の笑顔を見るたびに、あのパジャマ姿と、「諦めませんから」という言葉が脳裏に蘇る。


俺は、彼女の好意を、どう受け止めたらいいんだろうか。


正直に言えば、嬉しい。あんなに可愛くて、健気な子に好かれて、嬉しくない男はいない。もし、ルナがいなかったら。もし、俺が普通のフリーターで、彼女が普通のバイト後輩だったら。


俺は、未来のアプローチに、正面から向き合っていたかもしれない。


でも、俺の隣にはルナがいる。

世界の運命を背負った、手のかかる、ポンコツな同居人。


俺はあいつを守らなきゃいけない。それは義務だ。……いや、本当に、それだけなんだろうか?

そんなモヤモヤを抱えたまま、季節は夏を迎えていた。


「カイトー!見てください!当たりました!」


ある日の夕方、ルナが商店街の福引で、一枚の紙を興奮気味に振っていた。それは、近々開催される夏祭りのペアチケットだった。


「夏祭り……か。めんどくせえな。金もかかるし」


「そんなこと言わずに、行きましょうよ、先輩!」


いつの間にか、バイト帰りの未来も俺の部屋に上がり込んでいた。


「ルナさんと、浴衣、着てみたいんです!ね、ルナさん!」


「ゆかた!着てみたいです!」


パジャマの次は浴衣かよ……。


キラキラした瞳の美少女二人に「お願い」されたら、断れるわけがない。


「……わーったよ。行くぞ、行けばいいんだろ!」


「「やったー!」」


こうして、俺とルナと未来の三人で、夏祭りへ行くことが決まった。

この選択が、俺の心をさらにかき乱すことになるとも知らずに。


夏祭り当日、

待ち合わせ場所に現れた二人の姿を見て、俺は言葉を失った。


ルナは、彼女の蒼い瞳に映える、涼しげな水色の浴衣。未来は、少し大人っぽい、紫色の浴衣。二人とも、髪をアップにして、いつもとは全く違う雰囲気をまとっていた。


「……どう、ですか?カイト」


「先輩、似合ってますか?」


二人に同時に尋ねられ、俺はしどろもどろになる。


「……お、おう。どっちも、似合ってるんじゃねえの」


本心からそう思った。綺麗だ、と。

ルナの、どこか儚げな美しさと、未来の、背伸びしたような可憐さ。二つの魅力が、夏の夜の熱気の中で、俺の心をかき乱す。


「さ、行きましょう!」


未来が、俺の右腕を掴む。


「カイト、あっち!りんご飴があります!」


ルナが、俺の左腕を掴む。

両手に花、というより、両側から引っ張られるタコのようだ。

俺たちは、人の波に揉まれながら、屋台が並ぶ参道を進んでいった。


たこ焼き、りんご飴、わたあめ。

ルナは見るものすべてに目を輝かせ、未来はそんなルナの世話を焼きながらも、チラチラと俺の様子を伺っている。


その光景は、どこからどう見ても、普通の男女三人の、夏の思い出の一ページだった。


「なあ、ちょっと休憩しねえか?」


人混みに疲れた俺たちは、少し離れた神社の石段に腰を下ろした。

俺は、なけなしの小遣いで買ったラムネを三本、二人に手渡す。


「ありがとうございます、先輩」


「ラムネ!初めて飲みます!」


ビー玉の落ちる涼やかな音。遠くから聞こえる祭りの喧騒。隣には、浴衣姿の美少女が二人。


……なんだこれ。俺の人生、今がピークなんじゃないか?


「先輩」


未来が、俺の顔をじっと見つめてきた。


「今日の私、どうですか?少しは、ルナさんより、私のこと、見てくれましたか?」


真剣な瞳。その問いに、俺は答えられない。

ルナも、未来も、どっちも見てる。どっちにも、ドキドキさせられっぱなしだ。

俺が言葉に詰まっていると、ルナが俺の袖を引っ張った。


「カイト、あっちで、射的やってます!やりたいです!」


「射的か。まあ、いいぜ」


俺は、未来の問いから逃げるように、ルナに手を引かれて立ち上がった。

射的の屋台で、俺はコルク銃を構えた。狙うは、一番端にある、安っぽいプラスチックの指輪だ。


「カイト、がんばれー!」


「先輩、ファイトです!」


二人の応援を受け、俺は集中して引き金を引いた。

パンッ、という軽い音と共に、コルク弾が放たれる。そして、見事に指輪の箱に命中した。


「やった!取れたぞ!」


「すごい!カイト、すごいです!」


俺は景品の指輪を受け取り、得意げにルナに見せた。

そして、ほんの冗談のつもりで、その安っぽい指輪を、ルナの左手の薬指にはめてやった。


「ほらよ。婚約指輪だ」


「こんやくゆびわ……?」


ルナは、自分の指にはめられた指輪を、不思議そうに、そして、とても嬉しそうに見つめていた。


その笑顔を見た瞬間、俺の心臓が、また大きく跳ねた。

やばい。俺、こいつのこと、本気で……。


その時だった。


ヒュ〜〜〜……ドーーーーーン!!


夜空に、大輪の花火が打ち上がった。


それを合図に、次々と色とりどりの光の花が、空を埋め尽くしていく。


「わあ……!花火……!」


三人で夜空を見上げる。


その時、俺のスマホがけたたましく鳴り響いた。ニュース速報の通知だ。

『緊急速報:世界各地で、原因不明の打ち上げ花火が同時に発生。専門家は「まるで地球全体が祝福しているかのようだ」とコメント』


……またか。


ルナの、あの嬉しそうな笑顔。俺が、彼女に指輪をはめた、あの瞬間。

俺たちの、ささやかな幸せが、また世界を巻き込む奇跡を起こしてしまったらしい。


「綺麗ですね…、先輩」


隣で、未来がそっと呟いた。


彼女の横顔は、花火の光に照らされて、少しだけ、切なそうに見えた。


俺は、答えられなかった。

ただ、自分の心の中にある、ルナへの特別な感情の正体と、未来への申し訳なさの間で、立ち尽くすことしかできなかった。


夏の夜空に咲く花火は、まるで俺の混乱した心を映し出すかのように、いつまでも、いつまでも、輝き続けていた。


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