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第11話「イケメンの空回りと、庶民の味」

  氷堂レイジは、生まれてこの方、挫折というものを知らなかった。

名家の長男として生まれ、幼い頃から帝王学を叩き込まれた。勉強もスポーツも、全てにおいてトップ。女性たちは彼の一挙手一投足に熱狂し、誰もが彼に傅いた。


『JESUS』に入ってからも、その完璧さは変わらず、数々の困難な任務をスマートにこなしてきた。


そんな彼が、人生で初めて「NO」を突きつけられた。

相手は、記憶喪失の少女・ルナ。そして、その隣にいる、しがないフリーター・天城海斗。


「理解できない……」


レイジは、サイデリアの更衣室で、慣れない安物の制服に着替えながら、一人呟いていた。ポリエステル混紡の、肌触りの悪い生地。こんなもの、生まれてこのかた袖を通したことがない。


 ルナを海斗から奪う。その宣戦布告の後、彼は「敵を知り、己を知れば百戦殆うからず」という孫子の兵法に従い、なんとサイデリアの新人バイトとして潜り込んできたのだ。その際、店長に札束を握らせて即日採用させたのは言うまでもない。


「なぜ彼女は、あんな男を選ぶんだ?僕との間には、天と地ほどの差があるというのに」


彼の分析によれば、天城海斗のスペックは全てにおいて平均以下。対する自分は、全てがSSSランク。どう考えても、ルナが自分を選ばない理由がない。いや、あってはならない。彼の完璧な世界観に、それは存在し得ないバグだった。


「……わかった。きっと彼女は、まだ本物の『美食』を知らないだけなんだ。ならば、僕が教えてあげよう」


レイジは、完璧な計画を思いつき、不敵な笑みを浮かべた。勝利を確信した、彼のいつもの笑顔だ。


 昼のピークタイムが終わり、少しだけ客足が落ち着いた時間帯。俺が子供連れの客に料理を運んでいると、厨房の方から、何やらものすごいオーラが立ち上っているのが見えた。同時に、鼻腔をくすぐる芳醇な香りが漂ってくる。


覗いてみると、そこにはコックコートに身を包んだレイジが立っていた。なぜかバイトのはずなのに、ホテルのシェフのような格好をしている。その手には、見慣れない高級そうなフライパン。


「おいレイジ、お前、皿洗いじゃなかったのか?」


俺が声をかけると、彼は振り返りもせず、完璧な手つきでキャビアを盛り付けている。


「ふっ。僕が皿洗いなどで終わるはずがないだろう?店長に交渉し、厨房を任せてもらったのさ。君のような雑魚とは、最初からスタートラインが違うんだ」


レイジの周りには、フォアグラ、トリュフ、キャビアといった、ファミリーレストランには到底似つかわしくない高級食材が所狭しと並べられている。いつの間に持ち込んだんだ、こいつ。


「プリンセス・ルナ!君のために、僕のオリジナルメニューを作ったよ。さあ、召し上がれ」


レイジがルナの前に差し出したのは、銀のトレイに乗った、まるで絵画のような二品だった。一つは金箔が舞うコンソメスープ、もう一つは分厚いフォアグラが乗ったロッシーニ風ハンバーグ。


まかない飯のレベルを遥かに超越している。


「わあ……!キラキラしてます……!」


ルナは目を輝かせている。俺は思わず唇を噛んだ。

くっ、あんな高級料理、俺が作ってやれるわけがない。


これが、格差社会か……!


「どうだい?美味しいだろう?これが、本物の味だよ」


レイジは得意げに胸を張る。

ルナは、おそるおそるスープを一口飲み、そして、ハンバーグを小さく切り分けて口に運んだ。


その表情が、期待に満ちたものから、徐々に、不思議そうなものへと変わっていくのを、俺は息をのんで見つめた。


「……おいしい、です」


「だろう!?」


「でも……」


ルナは、どこか浮かない顔で、スプーンを置いた。


「なんだか、味が、よくわかりません……。キラキラしすぎてて、ドキドキします……」


そう。庶民の舌を持つルナにとって、高級食材の複雑な味わいは、まだ早すぎたのだ。彼女が美味しいと感じるのは、カップ麺や、俺が作る野菜炒めのような、わかりやすい味なのだ。


「なっ……!?そんなはずは……!僕の完璧な料理が、わからないだと……!?」


レイジは、人生で二度目の衝撃を受けていた。

彼のプライドの結晶である料理が、まさか「よくわからない」という、曖昧で、何の感情もこもっていない感想で終わるとは。


そんなレイジを尻目に、俺はフライパンを手に取った。


「ルナ、腹減ってるだろ。俺がいつもの、作ってやるよ」


「えっ、いいんですか、マスター!?」


俺は黙って、冷凍庫から昨日の残りのご飯を取り出した。

ジュワッという音と、醤油の香ばしい匂いが厨房に広がる。


焦げ付かないように、フライパンを細かく揺らす。具材は、卵、刻んだネギ、そしてチャーシューの代わりに、半額シールが貼られていたソーセージ。材料費は一人前、おそらく50円にも満たない。


「はいよ、お待ちどうさん。特製まかないチャーハンだ」


俺が皿を差し出すと、ルナの顔がパッと明るくなった。


「わーい!カイトのチャーハン!いい匂いです!」


ルナは大きなスプーンでチャーハンを頬張り、満面の笑みを浮かべた。その笑顔は、さっきレイジの料理を見た時よりも、ずっと本物に見えた。


「おいしい!やっぱり、カイトのご飯が、世界で一番おいしいです!」


「だろ?まあ、俺にかかればこんなもんよ」


俺たちは顔を見合わせて笑う。


その光景を、レイジは呆然と見ていた。

金箔の舞うコンソメスープより、醤油の香るチャーハン。

数万円のフォアグラより、50円のソーセージ。

彼の完璧な価値観が、ガラガラと音を立てて崩れていく。


「なぜだ……なぜなんだ……!僕の完璧な計画が……!」


レイジは、誰にも食べられることのなかったロッシーニ風ハンバーグの前で、静かに膝から崩れ落ちた。


 その日の夜、バイトの白石未来は、レイジが一人、店の裏でスマホを片手に真剣な顔で呟いているのを目撃した。


「OK、Boogle。『庶民にウケる味とは?』……ふむふむ、マヨネーズとチーズをかければ大体喜ぶ……なるほど、勉強になるな……」


完璧超人エリートエージェントが、庶民の味を健気に勉強し始めた瞬間だった。


彼のポンコツ化は、もう誰にも止められない。

そして、新たな危機が訪れた


翌日

アパートの玄関を開けると、そこは完全に戦場だった。


「マスター!おかえりなさい!今日は、私が夕食、作りましたよ!」


俺は、ルナが差し出してきた土鍋を見て、顔が青ざめた。

中からは、昨日見た紫色の液体ではない、禍々しい赤黒いオーラが立ち上っている。


「……ルナ。その土鍋、中身は何だ?」


俺は震える声で尋ねた。


「えっとですね、カイトがチャーハンを作ってくれたから、私もカイトの好きなものを……って思って、『チャーハン鍋』を作りました!」


「チャーハン、なべ……?」


「はい!チャーハンを美味しくする隠し味は、マヨネーズとチーズって、ネットで調べたので、それを全部入れたら、もっと美味しくなるかなって!」


その瞬間、遠くで、ゴゴゴゴゴゴ……!という地響きが聞こえた。


テレビの速報が「東京湾に、巨大なケチャップタワーが突如出現!」と告げている。


……いや、それはマヨネーズだろうが!


「ルナ!その鍋、捨てろ!」


俺が土鍋を奪い取ろうとした、その時だった。


ピンポーン!


玄関のチャイムが鳴り響く。


ドアを開けると、そこに立っていたのは、真顔で棒立ちになっている未来だった。その手には、タッパーが握られている。

「せん、ぱい……」

未来は泣きそうな顔で、タッパーを差し出した。


中には、手作りのハンバーグが入っている。


「これ、私、作ってきました……。先輩が、元気ないかなって思って……」


「お、おい未来……!なんでここに……」


「あの……私、先輩の家の前に、ずっといました」


「は……?」


未来は顔を真っ赤にして、うつむいた。


「だって、もしかしたら、またルナさんが、何かやっちゃうかもしれないって思ったら、心配で……」


俺は言葉を失った。

健気すぎるだろ……。

いや、これ健気って言うのか?ストー…、いやとりあえずやめておこう。


その時、俺の携帯に電話がかかってきた。

画面には「氷堂レイジ」の文字。


「……もしもし?」


「天城海斗!緊急事態だ!東京湾にケチャップタワーが出現した!これは、プリンセスの精神状態が不安定になっているサインだ!やはり君に任せておけなかった!」


「ケチャップじゃなくてマヨネーズだろ!それに、お前、どうやって俺の番号を……」


「そんなことはどうでもいい!今すぐプリンセスを安全な場所に保護する!」


「ふざけんな!ルナは渡さねえ!」


俺は電話を切って、携帯をポケットにしまった。

目の前には、手作りハンバーグを持った未来。

背後には、赤黒いオーラの「チャーハン鍋」。

そして、電話の向こうには、完璧主義のポンコツエージェント。


俺の家の平和と、ついでに世界の平和を守るための戦いは、ますます混迷を極めていく。

【 応援よろしくお願いします!】

 読んでいただきありがとうございます!


 もし、少しでも興味を持っていただけましたら


 よろしければ、


 下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。


 面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


 ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


 何卒よろしくお願いいたします。


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