2. 大真面目な話
「イライザ、顔色悪ない?大丈夫?」
ここ数日、色々なことを心配し過ぎてロクに眠れていないせいか、寝ても気分が優れない。
そこまで露骨に体調が悪かったとは思えないが、そういうところに気付くのは、流石チャラ関西弁だろうか。
「ありがとう、全然問題ないんだけど、ちょっと色々考えてて寝不足ぎみで…」
はぐらかしたところで意味もないので、素直に答える。
「そうなん?最近もう、特に変わったことないと思ってたんやけど。何で悩んでるか聞いてもいい話?」
意外と聞く姿勢を取られて少しだけ驚くけれど、変な言い方をしてしまった私が、良くなかったのだろう。
どこまでどう言ってもいいか、全部はぐらかしてしまうべきか、一瞬悩んでから。
リアムの性格上、男女問わず友人は多そうなので、浅い話なら聞いてしまってもいいかと、小さく息を吐いて静かに言う。
「私、よく考えたら男性の友人って、すごく少ない気がして…どうしたら仲良くなれるのかしら、と思って」
しばらく無音の状況が続き、聞いているのかとリアムの方を見ると。
視線が合った彼は、私を見て何度か目を瞬かせてから、思わずといった風に吹き出した。
「え?え、ごめん、それが寝不足になるまで悩んでる話なん?」
言いながらまだ笑っているが、こちらは大真面目である。
セオとアイリスの慰問探索がいつになるのは、かわからないけれど。
そこから帰ってきた後では、もう手遅れになる可能性もあるのだ。
今後の方針として考えた通りに進めようと思えば、今すぐ誰かとどうこうするのは難しいにせよ、せめて今の間に、ある程度の関係性は作っておいた方がいいと思う。
ところが、だ。
「今までクラスで話す友達はいたから、あまり気にしたことなかったんだけど。なんだか、男性陣からは遠巻きにされる気がするのよね」
星詠の神子でもあるまいし、まさかと思ったけれど。
まずは親しい友人を作るべきだと思い、他の女子生徒のように話しかけてみても、どうにも反応が悪いというか。
軽い世間話くらいならしてくれるのだけれど、すぐに話を切られてしまう。
同じ輪にいる女子生徒はそうでもないので、男子生徒だけだと思う。
露骨に避けられている、というわけではないと思うけれど。
仲良くしてくれようとする感じが、あまり見られないというか。
「なんでやと思う?」
「えっ、リアムどうしてか知ってるの?」
真剣に悩む私に、楽しそうな顔をしたまま言ってくるので、思わず間髪入れずに聞いてしまう。
リアムは私の勢いにまた笑うと、意味深な表情をした。
「先に仲良くなってる相手が悪いんとちゃうかなー、と思うで」
表情だけでなく、告げられた言葉まで意味深過ぎて、意味がわからない。
「先に仲良くなってる相手って、誰?…アイリスと仲良くしてるからってこと?」
もしかして、私が星詠の神子の友人というポジションになったことで、アイリスと同様、私にも近付きにくくなったということだろうか。
そう考えると、人心というよりも、むしろ私がゲームの展開外の行動を起こすことに対して、なにか強制力が発生した、という可能性も思いつく。
今まで既に好き放題しているとはいえ、それはこのゲームの物語が始まる前のことだ。
物語の進行に対して何らかの強制力が生じるというのは、こういうタイプの話ではよくある話だし。
思考に沈み込む私に、リアムは呆れたようなため息を吐く。
「というかそれって、ほんまに男友達が欲しいってことなん?言い方によっては、あんまり褒めたものじゃない気がするねんけど」
かと思ったら、急に真面目な顔で言われて、返答に困ってしまう。
額面通りに男性の友人が欲しいというよりは、男漁りがしたいように聞こえる、ということだろうか。
――非常に不名誉かつ不本意ながら、最終的にそういう目的にはなってしまうのだが。
なにせ、彼にとって男漁りと思われるような目的には、私の命が懸っているのだ。
ただ当然ながら、このゲームの攻略対象であり、今後の展開によってはセオの代わりに押し込まなくてはいけない可能性もあるリアムに、それを言うわけにもいかない。
「そんな言い方しなくてもいいじゃない…寄宿学校に入るからには、誰だってある程度は考えることでしょう?」
とはいえ、何も言わないのは心象が悪過ぎる。
肯定も否定もできずに釈明のように言うと、リアムは意外そうに目を開いた。
「イライザは、そういうの興味ないと思ってたわ…授業も好き放題に取ってるし」
1年生の頃は人並みの貴族令嬢だったはずだが、ここがゲームの世界だと気付いてから出会った彼は、最初から私のことを変わった令嬢だと思っているだろうから、本気で意外そうにされても仕方がない。
ただ、私にも私なりの考えがあるだけなので、否定はしておく。
「そんなことないわ、一人娘だから親から期待されていることはあるし。それに、勉強とは別でしょう?」
今この状況に至るまで、全くそんな素振りを見せていなかったとはいえ――それどころではなかったし――貴族令嬢として、何ら間違った考えではない。
「んー、まあ、それはそうやけど。それこそ、セオもいるやん?」
納得してもらえるかと思ったところで、急にその名前を出され、思わず息を呑んで。
なんとなく勝手に、気不味いというか居心地が悪いような気持ちになって、俯いてしまう。
「セオは、ダメなんだもの…」
絞り出すように零した言葉は、自分でも想像もしていなかった切実な響きになって、自分で驚く――もう割り切ると決めていたはずだったけれど、そうすっぱり切り替えられるものでもないか。
リアムも私の言葉になのか、それに驚いている私自身になのか、一瞬目を見張ってから、開こうとした口を一旦閉じた。
少しの間、逡巡するように視線を彷徨わせた後、いつも通りの余裕のある表情になった彼と目が合う。
「今更どうしたん、それこそみんなから期待されてたやろ?セオでええやん」
彼に、その表情で、諭すように言われるのに、どこか違和感を覚えて。
「なんでリアムがそんなこと言うのよ?」
疑問というよりは問い詰めるように聞くけれど、リアムは曖昧に笑うだけだ。
「さあ、なんでやろね?…まあ僕は、セオにしといたら丸く収まるかなーと思うだけやけど…友達やしね」
どうにも要領を得ない返事に、何かあるのだろうかと勘繰るな、という方が無理だろう。
けれど、真意を探れないかと見つめてみても、これ以上のことを言う気はないようだ。
どういう意図かはわからないが、ゲームの強制力があるかもしれないと感じていたところだし。
もしかしたら、私の動きがリアムの言動に影響する可能性も、あるのかもしれない。
「とにかく。私も将来を見据えて、お友達が欲しくて、困ってるの」
考えても汲み取れないことは諦めて、本題に話を戻すと。
「セオが嫌なら、僕にしとく?」
「何言ってるのよ。気を遣ってくれるのは有難いけど、もっと困っちゃうわ」
あまりに簡単に想定できるような茶化し方をしてくるので、一笑に付す。
本日二度目の、流石はチャラ関西弁である。
「えー、つれないなー」
そちらから、悩みがあるならと聞いてくれたクセに。
真剣に相談に乗ってくれるつもりがあるのか。
責めるように軽く睨むと、リアムは私の表情に苦笑しながら、大袈裟に肩を落とした。
「じゃあ、真面目に言うけど。もしかしたら、2年で探すのは難しいんかもしれへんね」




