12. 余計な話
「なんでこんな所を二人で歩いてるんだ?」
こちらに気付いて、心なし足早に近付いてくる彼の姿に、私も思わず駆け寄る。
「セオ!セオこそどうしたの?次の授業はこっちなの?」
夏季休暇以来とはいえ、いつもほど日は空いていないはずなのに、数日一緒に過ごしていたせいか、なんだか久し振りな気がする。
「いや、俺はさっきがDクラス棟で、次は自分のクラスに戻るところだけど…」
会うとは思っていなかったので変なテンションで、セオの問いかけに答えもせず逆に聞いてしまったと、後から気付いたけれど。
セオは私の質問に答えてから、私よりも上に視線を上げる。
「さっき同じ授業で次こっちやったから、一緒に移動してきただけやって。イライザと同じ授業なの、言ってたやろ?」
振り返るとリアムが立っていて、そういえば一瞬置いてきたかもと思い出した。
「そうか、今日少し残ってたからな…今まで会わなかっただけか」
リアムの言葉に、セオは一人で納得したように言った。
今年は同じ組み分けになるから、もしかしたらと思ってはいたけれど。リアムとは二つも被った割に、セオとは全体授業以外は一つも被っていなかった。
それも人数割で違う班なので、ほぼ合わない。
移動の時も、普段は中央棟の方を通っていてこちら側は通らないから、すれ違うこともなかった。
今年もまた約束して会うしかないかと思っていたので、こうして会うタイミングがあったのは純粋に嬉しくはあるし。
今日はたまたまとはいえ、今後も少しでも様子が知れる可能性があるのは、私にとって安心材料ではあった。
――他のキャラは仕方ないとしても、セオのことはどうにかしたいと思っているから。
「今年は変わった授業ばかりとってるらしいけど、大丈夫そうか?リアムも煩くないか?」
保護者か何かか――まあ、そういう側面はこれまでも過分にあったけれども。
思わず、心の中でツッコミを入れてから。
そういえば今回は、夏季休暇の時にどの授業を選択したかという話はしたけれど、事前には相談していなかったなと思い至る。
貴族令嬢らしからぬ選択なので、他のクラスメイトにも色々と聞かれはしたものの、基本的には実学に興味があるとか言って誤魔化していた。まあ事実、興味がある分野も多いし。
ただ、私の記憶喪失のことを知っているルイーズには、違和感があったようだし。
セオもあの時は深くツッコまれなかっただけで、気にはしていたのだろう。
「もうそんなに心配しなくても大丈夫だし、リアムにも良くしてもらってるから」
そういえば、あの当時はリアムとも、こんな風に話をする関係になる予定ではなかったなと感慨深く思う。
あまり込み入った話を聞かれても、リアムもいるところで説明にも困るので、当たり障りのなさそうなことを言って笑っておく。
「むしろ正直、新学期になってからで言うと、セオより僕の方がイライザに詳しいと思うねんなー」
にもかかわらず、余計なことを言う関西弁である。
「…イライザが特に不自由してないなら、それは別にいい」
流石にリアムの性格に馴れているのだろう、セオは軽い煽りのような発言に軽く息を吐くも、意に介さないように言った。
私なら、こういう言い方をされたら、少しはムッとしてしまうような気がする。
15歳くらいの時って、思春期真っただ中なわけで、もっと感情的に会話していたように思うし。
でも、そもそも私のことを未だに気にしてくれている時点で、人間ができているというか。
ルイーズも言っていたけれど、記憶喪失になった設定とはいえ、今はもう割と普通に生活できるようになっているので、そんなに心配要らないと自分でも思うのだけれど。
「その言い方、余裕過ぎて腹立つわー。イライザもセオと話す時、僕の時と全然違うし」
セオに感心していると、リアムがそれを茶化すと同時に、私に話を振ってくる。
「えー、そうかしら?」
今度は間髪入れずに反応できた自分を褒めたい。
先程の神子との話といい、彼はどうしてこう真っ直ぐに核心を突いてくるのだろうか。
あるいは私が露骨過ぎるのかーーだって仕方ないじゃない。どこでどうなるかわからない人と話すのなんて、怖いし緊張するに決まってる。
「さっきセオ見かけた時も、僕のこと忘れて嬉しそうに走ってったし…流石に傷付くんやけど」
と思ったけれど、そういう問題ではない部分を指摘されて、思わず顔が熱くなる。
少しは自覚していたとはいえ、改めて言われると流石に恥ずかしい。
だって、この世界で私が頼りにできる相手といったら、両親を除けば、やはり一番はセオになるわけだし。
なんてことは何も知らないリアムには言えないので、頭の中だけで言い訳して、心を落ち着かせる。
「さっきも言ったけど、リアムと仲良くなれたこと自体は、私も嬉しいと思ってるけど――」
「幼馴染なんだから、この前会ったばかりのお前と扱いが違うのは、当たり前だろ」
折角丸く収めようとしているのに、オブラートに包むということを知らないのか、この二人は。
「ちょっと、セオ――」
「やっぱり余裕ないのに強がってたんやん、セオ…隠せてないし、性格悪いで?」
二人して、私の言葉を遮って、好き勝手言い出すのはやめて欲しい。
セオが言ったこと自体は非常に真っ当なのだけれど、言い方がどうも穏やかでないし、リアムもどの部分を指して何を言ってるのかよくわからない。
ただ、お互い本気で当たっていると言うよりは、友達同士でじゃれ合っているのだろうということはわかる。
わかるのだけれど。
傍から見れば、私が間に挟まれているような感じになる気がして、勝手に落ち着かない気分になる。
何と言って間に入るべきか考えあぐねていると、リアムがふと中央棟の時計に目を向ける。
「っていうかセオ、この時間にここにおったら、次の授業遅れへん?」
「えっ、私も結構時間ないかも…」
つられて時計を見てから、ここからEクラスの校舎までの時間を考えて慌てる。
「イライザ」
もう場も一旦は白けただろうし、と歩き出そうかとしたところに、セオに呼び止められて振り向く。
「今はもういいけど、何かあるなら次会った時に、ちゃんと言うんだぞ」
心配しなくても大丈夫だと、言ったところなのだけれど。
リアムがいたから、言いにくいことでもあると思われたのだろうか。
「ありがとう…セオもよ?」
変な方向に話がいってしまったせいで、私もセオの話を全然聞けていない。
夏季休暇の時にも感じたけれど、セオもリアムといると話し方が違う部分もあるので、もしかしたら話しにくいこともあったのかもしれない。
セオは私に言われると思わなかったのか、少しだけ目を見開くと、頷いて笑った。
そのまま、背を向けて歩いていく。
「ほんま何なんもー、イライザも早よ行かな遅れるで」
リアムがそんなセオと私を見比べて、悲鳴のような声を出して苦笑した。




