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6. 聞いた話

「それで。急に来たのは、何か用があったんじゃないのか?」


なんとなく、微妙な空気が流れるかと思ったところ。

セオが一つ息を吐いて、空気を変えるようにリアムに話を振った。

同時に手で着席を促され、三人とも立ちっぱなしだったと気付いて、ひとまず軽く礼をして後ろの椅子に座る。

一瞬、なにかよろしくない感じがしたけれど、とりあえず先程までの気安い雰囲気になってほっとする。

「え?別に用はないけど?」

いや、ほっとしていいのだろうか。

リアムはなんでもないように、けろりと言った。

「何もないのに、事前に連絡もせず、人の家の別荘地に勝手に来るなよ」

セオは肩透かしを食らったような顔をしたけれど、浅いため息を吐いてリアムを軽く睨む。

理由のない訪問にも、それを特に気にした様子もないこともに驚く私を他所に、彼らは至って薄いリアクションのまま、会話を進めていく。

出会い頭もそうだったけれど、本当に普段からこういう感じの人で、こういうやりとりをしているのだろうか。

友達同士より前に遠縁といえど親戚らしいので、昔から知っているようだったし、セオも私とは感じ方が違うのかもしれない。


「いや、ウォルポールの屋敷には手紙出したんやけど、もう出発した後やったらしくて…一応、僕が出る日にはこっちにも手紙出したんやけど、先に着いてもたみたいやね」


そう言いながら、先程の執事とは別の使用人が何かを持ってやってくるのを見つけて、リアムが笑う。

「そんなことあるか?」

セオが使用人からそれを受け取りながら言ったけれど、確かにリアムが出した手紙のようだった。

胡散臭そうな目を向けながらも、手紙と共に受け取ったらしいナイフで封を切る。

「ーーああ、まあ、何か用があるってことではないんだな」

さっと中身を読むと歯切れ悪く言って私をちらりと一瞥したので、もしかしてと気付く。

「私、席を外そうかしら?」

私がいると話しにくいことなのかもしれないと思って提案すると、リアムが少し目を見張るようにしてから笑う。

「セオは素直過ぎて、嘘吐いたり誤魔化したりできへんな…イライザが先にいたんやから、後から来た僕に気を遣う必要ないよ」

「そもそもお前は呼んでないだろ」

逆に二人に気を遣われてしまい、申し訳なさを覚えるけれど。私がこれ以上言っても多分聞かなさそうなので、大人しくこの場に残ることにする。


「まあいいやん、僕もセオが大事にしてるイライザ嬢に、一度会ってみたかったんよねー」

また、かけ合いが続くかと思ったけれど、リアムがそう言って私に顔を向けた。

自然と人を巻き込んで話をするタイプのようにも見えるけれど、この口調は初対面の私に気を遣っていてくれているのだろう。

「私も、セオがよく話していたので、機会があればお会いしたいと思ってましたわ」

私もそれに、先程と同じ言葉を返すーー今となっては会いたくなかったのが本心だけれど、ここまで来たらそんなことを考えることすら無意味だ。

名前も覚えていなかったクセに、という視線をセオが向けてくるけれど、それはそれ。

にこりと笑顔を向けると、リアムはこれまでも何度かしたように、ふっと笑う。


「でも、セオとりんごの木に登ったって聞いたご令嬢のイメージとは、ちょっと違うね」


言われたエピソードに、笑顔のまま固まる。

昔からセオの知り合いだということは、そういうことなのか。

今の私のことを知らないのとはまた違う、私も知らないイメージに、何と返すか迷ってしまう。

学校では私の記憶のことは言わないでいいかとセオと話していたけれど、セオの親戚ということであれば、少しそれとは違う気がするし。

どうしようかと固めた笑顔のままセオを見るが、特に気にした様子もないように返す。

「いつの話だそれ…もう15だぞ」

リアムも特に気に留めた風もなく、そりゃそうかと笑った。


「お前も流石に、昔ほど誰彼構わず口説き倒したりしてないだろ」

「ちょっと、初対面の女性の前で、人聞きが悪いこと言わんといてくれるかな?」

そのまま上手くセオが話を逸らすので、別に記憶のことを黙っている必要もないのではとは思いつつ、それに乗る。

「リアムって、やっぱりそういう…」

「そういうってほど、イライザ僕のことまだ知らんよね?誤解、誤解。女性を見たらまず褒めておくっていうのが、うちの家訓なだけやで?」

リアムは誤魔化すように言うけれど。

それこそ、本当ならエヴァンス伯爵家は大丈夫なのか。

えらい家訓である。

ついつい訝しげな顔をしてしまうと、それに気付いたリアムが更に言い募る。

「ほら、どうしてもうち西の端っこやから、向こうの国の文化が混ざってしまうっていうか…」

そのせいで方言がキツいとセオも言っていたので、文化的にもこの国とは少し違う、ということなのだろうか。

リアムの雰囲気から西隣の国は関西弁の国なのはわかるけれど、その文化的な背景までは、関西人的なのかよくはわからない。

納得できるようなできないような答えに、なるほどと曖昧に相槌を打った。


「こういうヤツだから、会わせる機会がなかっただけだ」

セオは、また一つため息を吐いて言う。軽いとかチャラいとか、そういう意味だろう。

確かにリアムの言った通り、彼は私に対して過保護なところがあるので、心配してくれていたのだろうとはわかる。

ーー正直なところ、リアムと合流してから、セオがずっと息を吐き続けているのは気にしていて。

二人の仲が良いのはわかるものの、セオが過分に振り回されているのではないかと、こちらの方が友人として若干心配しているくらいなのだけれど。

「そんなこと言っても、どうせ秋学期が始まったら授業で会うことにはなるやん」

セオの様子に気を回していると、リアムがなんでもないように言う。

彼らはBクラスで私はEクラスなので、合同クラスでもこれまで接点はなかったはずだけれど。

きょとんとしていると、リアムが説明してくれる。


「寄宿学校はクラス替えはないんやけど、専科の授業とかのクラスの組み分けは毎年変わってるねん。去年は隣のクラスやったけど、今年は対角であたるようになってるから、イライザとは同じ授業もあるん違うかな」


初めて聞く情報に、そうなのねと頷く。

1年では両隣のDクラスとFクラスと同じ組になっていた。

Fクラスでいえばベアリング卿がいるのだけれど、多分学年も違うし私よりも高度な授業をとっているからだろう、ほとんど見かけることはなかった。

今年はクラブを休んでも授業が被ることもあるかもしれないとは思っていたので、その面では良かったかもしれない。

ただ、それによってセオやリアムと同じ組になるのだとしたら。

相手が変わっただけで、当初の攻略対象からなるべく離れるという指針に対する障害として、大して違いはないような気もするけれど。


「うちのクラスがDとEだったから、イライザはBとAクラスと組むことになるんちゃうかな」

考えている間にリアムが言った予想に、今度こそ驚いて笑顔がとける。

Aクラスといえば。

フィン第二王子のクラスではなかっただろうか。


「あ、そういえば。星詠の神子も、Aクラスらしいって聞いた気がするけど」

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