196 不穏な最終日
天候が怪しい中の船出となりました。
ソルの言うように柱は倒壊してしまうのでしょうか。
それでは、また2週間後にお会いしましょう。
皆様に風の守りが共にあらんことをお祈りいたします。
私は、さっき三人の会話を聞いていたことをごまかした。
「れーちゃん、どこに行ってたの?」
「うーん、夢だと思ってたからかな。よくわからないの」
しーちゃんは怪しんでるみたいだったけど、それ以上は聞いてこなかった。
その時、ソルから思念波が届いた。
『レナ、見てたんだろ? 俺はレナから離れない。記憶を失くしても、俺が思い出させてやるから』
『わたしも側にいます。あなたはわたしのマスターです』
サラも思念波を送ってくる。私は何も答えられず、
『……ごめんなさい、二人とも。しばらく一人で考えさせて』
そう言うとソルもサラも黙った。ミシェルさんが心配そうに言った。
『レナ、もう大丈夫かな? どうしてそうなったのかは分からないけれど、無茶はだめだよ。明日が本番なんだから、しっかり休んで備えてね』
「はい」
するとしーちゃんが、わざとムッとした顔をして言った。
「そうだよ、れーちゃん。あたしに『勝手なことするな』って言っといて、自分はしちゃうとかズルくない?」
「うん、ごめんねしーちゃん」
話している間に気持ちが落ち着いてきたみたいで、気がつくと笑顔になっていた。ゆっくりと体を起こしてみる。
── よかった、もうなんともないみたい。
ミシェルさんがほっとした様子で言った。
『よかった。大丈夫そうだね。さあ、二人とも早く寝よう。レナ、もう思念体になっちゃだめだよ』
「はい、気をつけます」
私としーちゃんはミシェルさんに言われて再び横になると目を閉じた。念のために思念石は枕元に置いておく。
「おやすみなさい」
「おやすみー」
ミシェルさんはしばらく私たちの様子を見ているつもりのようで、運転席の方へ移動する音がした。
目を閉じたまま、考える。
── これからどうしたらいいんだろう?
地震を防ぐためにはソルとサラの助けがあったほうがいい。そう思って二人の名を受けた。けれど、明日の爆散が済んだら受容体や思念波の記憶は全部なくしてしまう。きっと、ソルやサラのことも、二人の名も忘れてしまう。
── でも、本当に?
額の受容体は取れないって言ってたよね。記憶がなくなっても、しーちゃんやミシェルさんの受容体が見えなくなるわけじゃないと思う。
それに、ソルやサラは私たちのことを忘れない。二人から教えてもらうこともできる。
── 私は、どうしたいのかな。この先も、力を使いたいのかな?
── もし、また地の力が見えたら?
同じように地震を止めようって思うかな? ううん、少なくともしーちゃんならきっとそうする。しーちゃんが動けば、きっと私も……。
そこまで考えて気付いた。この旅行が終わったら、もうしーちゃんとはしばらく会えなくなるってことを。
もうすぐ二学期が始まる。そうしたらまた私は一人だ。
同じクラスの子のことを思い浮かべようとしたけれど、名前すらあやしかった。仲のいい子なんて一人も思い当たらない。
── 本当に私、クラスになじもうとしてなかったんだ……。
始業式の日、まずはクラスの子に「おはよう」って声をかけよう。そこから始めないと……。
そんなことを考えているうちに眠ってしまった。
翌朝目を覚ますと、外が薄暗かった。
まだ早い時間なのかな? とスマホで確認すると、もう8時を過ぎている。そっと窓のカーテンを開けてみると昨日までとは違い、空が灰色の雲で覆われている。
── そうだ。天気予報。
枕元に置いてあったスマホを起動してゴーグルで検索してみた。予報は曇り時々雨。
「おはよー。あれ、何か暗いね?」
しーちゃんが起きてきて目をこすりながら言った。
「おはよう。今日は雨が降るかも」
そう言ってスマホを見せると、大きなあくびをしながらしーちゃんが言った。
「ふわあ、ま、大丈夫でしょ。雨具も持ってきてるしさ。よし、着替えて片付けようか」
「うん」
わたしたちが後片付けをしていると、難しい顔をしたミシェルさんが二階から顔を出した。
『少し急いで準備をしようか。もしかすると船が出せないかも知れない』
「え?」
「ええっ。ちょっとミシェルさんどういうこと?」
ミシェルさんの説明によると、天候が荒れて風が強かったり、波が高かったりすると出港できないことがあるらしい。外は相変わらず薄暗く、まだ雨は降っていないけれど、いつ降ってもおかしくない感じだ。
わたしたちは不安な気持ちのまま港に向かった。船長さんの話によると、幸い今は海が荒れていないけれど、いつ天候が急変するか分からない状態らしい。『常に雨雲レーダーを確認するように』と忠告されたけれど、それをわたしは上の空で聞いていた。
原因は海の中にあった。ここからでも分かる、空に伸びる濃い緑色の柱。『風の護り』の内部は、みっちりと詰まった地の力で、全体が濃い緑色に染まり、高くそびえていた。
その時、ソルの焦った声が聞こえた。
『レナ、あれはまずいぞ。あのまま放っておいたら勝手に倒壊するかもしれねー!』
海は暗い色で、静かに波を立てている。ざわざわと得体の知れない何かが押し寄せてくるように感じた。




