第78話:黒枯れの毒蛙
ヒュンッ!……ドドドドドドドドドドドドドドドンッ!!
爆発音が響く、南の境界地点。
ギャアアアアシャアアアアアアアアァッ!
グギイイイイイイイイイイイイイイィッ!
魔物達の咆哮も負けずに響き渡る。
黒枯れの魔物の大群との戦い、黒枯れの狂跳竜を中心とした先頭集団を倒したレンたち。
ラプトルの残党を始めとしてオオカミやネズミ、ムカデなど様々な魔物が次々と襲いかかってくる。
「よし、じゃあ次も頼むよ。僕はまた少し休憩をもらう」
ヒュッ!……ズゴオオオオオオオオッ!
レンが剣を振ると茨の壁が戦場に出現し、そこにびっしりと生えたハエトリソウのような巨大な食虫植物が黒枯れに汚染された魔物達を次々と捕食していく。
「レン様、お疲れ様です。この戦術で最後までいけますでしょうか?」
「そうだね、かなり有効だとは思っているけど、油断は禁物だね。それにしても、同じ作業の繰り返しは自動化できないかと思うよ。決まった手順で処理できるなら、マニュアルでも作って派遣さんとかアルバイトにやってもらえると楽なんだけど……」
先ほどから紅蓮の枯葉と境界の茨・捕食草をひたすら繰り返し、迎撃を続けているのである。
「そうですか……レン様の魔法を私が行使できるなら私が代わりにやりますが……」
そんな会話をしていた矢先、食虫植物たちに異変が起きる。
突如として、魔物を捕食したとたんに、急激に真っ黒に枯れてしまう植物が出てきたのである。
「ん?あれ?おかしいな……」
レンは植物の伝言の感度を絞り、枯れた食虫植物の声を聞く。
『し、痺れ……』
『痛い!痛い!』
『息が……できな……』
それと同時に、巨大な花からも声が聞こえてきた。
「レン様!奥から出てくる魔物達の中に、巨大なカエルが増えてきているニャ!」
ラプトルの次に主力として出現したのは、黒枯れの毒蛙であった。
メキメキメキ……ズウゥゥン
メキメキメキ……ズウゥゥン
次々と茨の壁が倒されていく。
「そうか、毒を持ったカエルか!捕食すれば捕食するほど茨が弱っていく!作戦変更!直接迎撃を中心に切り替えます!―――紅蓮の枯葉ッ!」
ヒュンッ!……ドドドドドドドドドドドドドドドンッ!!
ビュウゥンッ!……バァン!
レンが植物を爆発させ、広範囲の魔物の群れを吹き飛ばす。
まだ動いている魔物を一匹ずつリィネが弓でとどめをさしていく。
そして、
「ガストさん!一匹そっちに行きます!毒をもっているから気を付けて!」
ガストたちフォレスト・オークの小隊は、それでも通り抜けてきた魔物を一匹ずつ集団で倒していく。
ヒュンッ!……ドドドドドドドドドドドドドドドンッ!!
「やっぱり数が多いと大変だな……」
剣を振りながら呟くレン。
毒蛙が高くジャンプし、レンたちに迫る。
ズドドドドドドドドドド!……ババババアアンッ!!
ビュウゥンッ!……バァン!
剣をカエルに向け、種子弾・紅蓮の枯葉でカエルを撃ち抜くレン。
疾風の茨弓で空中のカエルを正確に射抜くリィネ。
レンたちに辿り着く前に空中で迎撃されたカエルは、毒をまき散らしながら弾け飛ぶ。
シュウウゥゥ……
わずかに飛んできた毒の飛沫がリィネの足元につき、高台の床を少しだけ溶かしていく。
「ヒイッ!!」
レンが脇を見ると、リィネが震えながら後ずさりしている。
「リィネさん!?」
「こ、怖いです……」
先日の黒枯れの断頭蟻によるギ酸のシャワー攻撃を思い出し、恐怖に震えていた。
「……大樹の盾!」
レンが剣を振ると、リィネの前に大樹の壁が立ち上がる。
「リィネさん、大丈夫、そこで隠れてて……今は無理しなくていいから……」
ズドドドドドドドドドド!……ババババアアンッ!!
ズドドドドドドドドドド!……ババババアアンッ!!
話しながらも、跳んでくる毒ガエルを空中で次々と撃ち落とすレン。
ヒュンッ!……ドドドドドドドドドドドドドドドンッ!!
ヒュンッ!……ドドドドドドドドドドドドドドドンッ!!
眼下の虎口に敵を引き付けては爆弾で吹き飛ばすが、リィネの援護がない分、一度に二回ずつ魔法を使って撃退していく。
「思ったより忙しくなってきたな……」
レンがぼやいたその時、遠くから一匹の魔物がレンに向かって何か液体のようなものを噴射してきた。
その液体はレンの方へと真っすぐに飛んでくる。
「大樹の盾ッ!」
バシャア!……シュウウウウゥゥ……
レンは咄嗟に自分の前にも巨大な樹の盾を出現させ、その液体を防いだ。
「ふう、間に合った……」
スピーカーからはシャノアの声が聞こえて来る。
「レン様!大蛇ニャ!大きなヘビがレン様に向かって何か吐き出したニャ!」
それは、以前にも戦ったことのある黒枯れの大蛇であった。
眼下の戦場を見渡すと、巨大なカエルを中心とした魔物集団の中に、大蛇も混ざり始めていた。
ズドドドドドドドドドド!……ババババアアンッ!!
レンは跳んでくる毒ガエルを撃ち落とす。
バシャア!……シュウウウウゥゥ……
放たれた強酸の液を盾で受け止める。
ヒュンッ!……ドドドドドドドドドドドドドドドンッ!!
剣を振り下ろし、地上の魔物達を爆散させる。
「くっ!忙しい!手を止める暇がないぞ!」
状況を見て手を動かし続けるレン。
「ガスト!今度はそっちに連続で三匹行くニャ!」
「なに!?三匹だと!?わかった!ようしお前ら!聞いての通りだ!気合を入れなおせ!疲れている暇はないぞ!」
次々とレンに向かって噴射される強酸の液、跳んでくる毒ガエル、眼下には押し寄せる大勢の魔物達、リィネは毒や酸に怖気づき動けない、圧倒的に手が足りなくなっていた。
「まずい!このままじゃ押し込まれる!奥の手を使います!―――樹木兵召喚」
レンは虎口の中に向かって勢いよく左から右へと振る。
ズゴオオオオオオオオッ!
すると、百本もの木が地面から勢いよく出現した。
それは、樹高五メートルほどもあり、根を足の様に使い、枝を腕のように使う、意思をもった樹木兵であった。
「お願いします!樹木兵の皆さん!」
レンが号令をかけると、樹木兵は一斉に黒枯れの魔物達に襲い掛かる。
以前、フォレスト・オークの若者たちを鍛えるために呼び出したときとは大きさも硬さも違う、強靭な樹木兵である。
ブウン!……バアンッ!
彼らはその大きな枝をブンブンと振り回し、魔物達を薙ぎ払う。
魔物達もまた必死に抵抗し、樹木兵を倒していくが、レンがその膨大な魔力をもって新たな樹木兵を召喚し続けていた。
「ふう、リィネさん、もう大丈夫だよ。応援を頼んだから」
巨大な樹木の盾から顔を出し、おそるおそる戦場を確認するリィネ。
「レン様、応援とはあの樹木兵たちですか?」
「そう。僕は気づいたんだ、僕自身、プレイングマネージャーであることは誇りに思っているし、これからもそれを変えるつもりはない。けれど、自分一人ではどうしても処理できる仕事の量には限界があるんだ。だから、今回は臨時で派遣さんをお願いしたのさ」
話している間にも、虎口では大勢の魔物と巨大な樹木兵が壮絶な戦いを繰り広げている。
ブウン!……バアンッ!
ギャアアアアアッ!
ギイイイイイイイッ!
「レン様!すごいニャ!樹木兵たちが魔物達を押し返しているニャ!」
スピーカー越しでも喜びと安堵が伝わってくる。
「いけ!そこニャ!もっと右ニャ!」
次第に興奮してくるシャノア。
一方、レンとリィネは高台の上で落ち着いて戦況を眺めていた。
「レン様、どうして初めからこの魔法を使わなかったのですか?」
「確かにそうなんだけど、これはこれで魔力の消費が多いんだよ。僕の魔力だって無限じゃないからね。なるべく少ないコストで最高の成果を出すのがビジネスの基本ってところかな。もっと言うとだね、限られた資本でいかに付加価値を……」
リィネに熱弁を始めるレン。
「ニャニャっ!レン様!巨大なカエルニャ!」
ズン……ズン……
レンが慌てて戦場を見渡すと、虎口の入口のところに、体長五メートルほどの巨大な黒枯れの毒蛙がレンたちをじっと睨んでいた。
ビョンッ!!……ズウンッ!
その巨大なカエルは大きくジャンプし、虎口の中央に着地する。
レンが剣を振り下ろそうとした瞬間。
ビョンッ!!
カエルはレンたちに向かって空高く跳びあがった。
「ヒイッ!」
後ずさりするリィネ。
「……っ!暴れる蔓!」
レンは眼下の地面に向かって剣を振る。
地面から巨大な蔓が出現し、一気に空まで伸びあがる。
巨大なカエルがレンの目前に迫る。
ガシイッ!
レンの目の前で蔓がカエルの後ろ脚に絡みついた。
そして、
……バアアアアンッ!
蔓は高所からカエルを虎口中央に一気に叩きつけた。
間一髪であった。
「よし、僕がこのまま地面に張り付ける!リィネさん、お願い!」
地面から生えた巨大な蔓によって四肢を固定され、地面に縛り付けられる巨大な毒ガエル。
「え……で……でも……」
毒の飛散という恐怖が頭から離れないリィネ。
「大丈夫!僕がついているから!何があっても僕が君を守る!だから、落ち着いてあの
カエルの頭部を狙うんだ!」
「わ、わかりました……」
リィネは弓に矢を番え、引き絞る。
リィネの魔力が弓を通し、その矢に流れ込んでいく。
ビュウゥンッ!……バァン!
巨大な黒枯れの毒蛙の頭部が弾け飛び、胴体は動きを止めた。
「あ……」
先ほどまで怖くて震えていたことが自分でも信じられない程簡単に毒ガエルを倒し、呆気にとられるリィネ。
「やればできるじゃない!さすがリィネさん!」
「は……はいっ!」
彼女の顔に笑みが戻る。
その時、レンの頭の中に植物の伝言から警報が鳴り響いた。
それは、レンの戦っているのとは反対の方、そこから迫る無数の足音であった。
戦場では百体の巨大で強靭な樹木兵が魔物達を押しとどめている。
しかし、レンたちのその背後から、不穏な影が近づいてきているのであった。




