第69話:作戦会議
決戦前日の昼。
森の地下に作られた大型の地下避難所。その中央にある大ホールには全員が集まり、昼食をとっていた。
子供たちの歓喜する声が響きわたる。
「うわー!なにこれー!」
「こんなの初めて!おかわりー!」
ゴブリンも、フォレスト・オークも、ハイエルフも子供たちが皆こぞって美味しそうにその香ばしいスープを頬張っていた。
それは、まるで競い合っているかのようである。
「みんな美味しいかい?」
子供たちにやさしく声をかけるレン。
彼の眉は下がり柔和な笑みを浮かべていた。
「うん!美味しい!無限に食べれるよ!」
「もう食べ過ぎちゃってお腹パンパン!これなんていうの?」
「これはね、僕の……祖国でよく食べていたカレーっていうスープなんだ。玉ねぎを茶色くなるまでゆっくり炒めて、次にニンジン、ジャガイモ、キノコをクミンやターメリックとかの香辛料を加えて一緒に炒める。そしたらトマトを加えて炒めたあと、水を加えて味を整えて完成さ。僕も大好きな料理なんだ」
本当はここに白いご飯があれば最高なんだけどな……次は田んぼを作るか……しかし精米の技術がな……。
そこに調理を終えたガストとリィネが加わる。
「レン殿のご指示の通りに作らせてもらいましたが、これほどのものとは思いもよりませんでした。流石は我らが王。料理にも精通されているとは、頭が下がる思いです」
「私もこのように食が進むものは初めてです。これこそ神にも相応しいレン様が考案された料理、『レン様の雫』という名前をつけるのはいかがでしょうか?」
「ええ?いや、ちょっとそれは……」
額から滴る雫を拭き取るレン。
「リィネの嬢ちゃん、それはないぜ……」
ガストのフォローにレンは腕を組んでうんうんと頷く。
「俺が思うに、『大王の元気汁』という名前の方がしっくりきますな」
ガストさん!?そっちの方がなくない!?
「ま、まあみんな喜んでくれてよかったです。体もポカポカしてエネルギーが湧いてきますよね」
「ニャニャっ!すっごくいい匂いがするから来てみたら、なんニャ!こんな美味しいの生れて初めて口にしたのニャ!」
猫舌なのか、ふうふうとスープをさましながら食べるシャノアがいた。
「これなら何杯でも食べれそうニャ!『聖者の輝き』という名前がいいニャ!」
なんかありそうな商品名が出てきたぞ!?商標をとられていないかチェックするか!?
「それなら『レン様の生き血』がいいです!」
いやいや、怖いよリィネさん!
「なにを……であれば『大王の分泌液』こそ相応しい」
ガストさん!?なんか、さっきから男性ホルモン強過ぎじゃない!?
「アタシは『聖者の煌き』がいいと思うニャ!」
やっぱり、サプリメントとかで既にありそうな感じが半端ないわ!
「あれ?今は商品名を考えるブレインストーミングの最中だっけ??」
困惑するレンであった。
「ニャ!そうニャ!こんなことしている場合じゃないのニャ!レン様、アリニャ!数百匹の巨大なアリが向かってきているニャ!」
口の周りにカレーをつけたシャノアが報告を始める。
「え?もう?」
「後方にいる群の本体とは別ニャ。言うなれば先鋒といったところかニャ」
腕を組んでうーんと唸るレン。
「あとどれくらいでここまで辿り着きそうかな?」
「まだ遠くだから、今晩。日が暮れてから数時間といったところニャ」
リィネとガストにも緊張が走る。
「うん、わかった。そしたら、今から一時間後に作戦会議を開きます。みんな僕の家に集まってください」
―――そして一時間後。
レン、リィネ、シャノア、ガストの四人は家のリビング、テーブルを囲んで立っていた。
「それでは作戦会議を始めます。質問や不明な点がありましたら、その都度発言をお願いします。よろしいでしょうか?」
全員の顔を見渡すレン。
「はい」「はいニャ」「王の仰せのままに」
真剣な表情で頷く三人。
部屋の空気はピンと張り詰めている。
「まずはこれをご覧ください」
レンはテーブルに広げた大きな葉を指差す。
そこには、以前の作戦会議でも示されたものと同じ、南側の茨の境界部分の図面が描かれていた。
「これは、こないだ黒枯れに汚染されたカブトムシやテントウムシたちと戦った場所ですね」
「その通りです、リィネさん。皆さんよく思い出してください。この桝形虎口に敵をおびき寄せ、渋滞しているところを上から叩く作戦は悪くはありませんでした」
図面を指差して話すレン。
頷いて話を聞く三人。
「しかし、敵の数が多いために長期戦になると、人数が少ない我々の負担が大きく、疲労が溜まりやすいことから敵を倒すペースが落ち、そのままでは数で押し込まれてしまいました」
「レン殿。俺たちが不甲斐なく申し訳ありませんでした」
頭を下げるガスト。
リィネも気まずそうに下を向いている。
「いや、別にガストさんたちを責めるつもりはありません。数の違いが大きすぎるので仕方のないことです。僕が気が付かなったのがいけないので、気にしないでください」
「慈悲深いお言葉に感謝申し上げます」
ガストは再び頭を下げた。
「ええ、まあ、ですから、数が多い敵にはいかにして僕の広範囲な魔法を効率よく使い、長期戦を耐え抜くか、が一つの重要なポイントになると思っています」
「レン殿、確かにその通りですが一体どうやって?」
「はい、そこで使いたい魔法があります。紅蓮の枯葉です。前に甲虫達と戦った時、最後に高火力で一気に使いました。まとめてせん滅する事には成功しましたが、とんでもない爆風が発生し、砂埃が舞い上がり視界が少しの間塞がれてしまいした」
「あ!あのとんでもなく恐ろしい魔法ニャ!」
思い出してブルブルと身震いするシャノア。
「シャノア、君もあんなのに巻き込まれたらひとたまりもないでしょう。そこで、今回はこの虎口の中を数メートルほど深くします」
再び図面を指差すレン。
図面を覗き込む三人。
「深くするのですか?」
リィネが首を傾げる。
「そう、深くします。まず、僕たちの配置は以前と同じで考えていますので、正面の高台にいる僕とリィネさん、脇にいるガストさんたちにも爆風が届きにくいようにするためです。それに、敵との高低差が大きくなることでリィネさんの弓も更に活きてくることになるでしょう。また、紅蓮の枯葉の威力も抑え気味にすることで砂埃も最小限に抑え、視界を確保します」
「なるほど!流石は我らが王!」
「レン様……」
改善案に感嘆するガスト。
戦力として期待されていることを感じ、嬉しさで言葉が詰まるリィネ。
「この陣形と戦法で広範囲に魔法攻撃を繰り返します。その中でリィネさんは魔法で仕留めきれなかった敵に、ガストさんたちオーク小隊は弱りながらも虎口を抜けてきた敵にとどめをさしていってください」
「はい」「王の仰せのままに」
頷いて返事をする二人。
続いてシャノアの方を向くレン。
「シャノアは戦況を樹上から監視し、状況に変化があった時に僕とガストさんに随時知らせてほしい」
「わかったニャ」
尻尾をブンブンと左右に振るシャノア。
「この完璧な作戦であれば、大勢の魔物の群に長時間での戦いでもなんとかなりそうですな」
戦い方が見えてきたところで気持ちに余裕の出てきたガスト。
「ありがとうございます。でも、油断は禁物です。もしかすると非常に硬い魔物や、この作戦ではせん滅が間に合わない程の大勢の魔物が一気に迫ってくるかもしれません。そこで、そのような場合に備えて第二の作戦も考えました。それは……」
レンは更なる第二、第三の矢について説明をする。
「―――レン様。このリィネに活躍の場をお与えいただき、心より感謝申し上げます」
「レン様!アタシも期待に応えられるよう頑張るのニャ!」
「レン殿!数千もの大群を相手にこの少人数で戦うその作戦。あまりにも深いお考えに頭が上がりませぬ。オーク一同、成果をもってそのご期待に応えてみせましょう」
三人はテーブルを囲み、改めてレンに恭順の意思を示した。
「もうわかっていると思いますが、この作戦は今晩戦うであろうアリだけではなく、黒枯れの魔物の群れ本体にも適用します。皆で力を合わせてこの難局を乗り越えましょう!」
「はい」「はいニャ!」「王の仰せのままに」
こうして作戦会議は無事に終了する。
数千にもおよぶ黒枯れの魔物の集団。その先鋒隊である数百匹のアリが迫る。
しかし、レンの考えた作戦に各自はそのモチベーションを上げ、立ち向かう勇気を得たのであった。




