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笑わない令嬢 呪いの人形姫ソフィア  作者: くるくり
第2章 平和への道
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解呪…その後 1

王妃アンナと王女リンネアの墓参りで不思議な至福の時間を過ごした四人は、幸福感に包まれ穏やかな気持ちで別城に戻った。王カルロスは公務の為に、その後急ぎ馬車で王城へ帰ったが、レントは残った。解呪後の影響についてエンニとソフィアに報告する為だ。話はエンニの執務室でお茶を飲みながら聞くことにした。入室すると直ぐにソフィアは、指輪の力で部屋に結界を張る。指輪の結界は、呪いや邪念など負の感情からの防御の他、音や会話が外へ漏れないようにする防音効果もあるからだ。エンニが戦場で呪いをかけられ、ソフィアに解呪された事は、今のところ王と二人の王子とウェルギリウスそしてソフィアの五人だけの秘密だった。


まずレントは自国の話ではなく、隣国カシール王国で起きた出来事について話すと言う。

レントはカシール王国のアミール王子とは縁あって何年も前から親交を深める仲であり、信頼できる相手だとエンニとソフィアに紹介した。

アミール王子との交友関係は父王も承認済みだが、最高機密扱いであり極限られた人間しか知らされていない。それは両国が今だに敵対関係であるからで、アミール王子もアブアド国王は勿論のこと自国では極秘にしていると言った。

アミール王子との連絡は伝書鳥を使い暗号文書を交わす。今回の情報もその暗号文書を解読して知った事だと説明した。


ここで言う伝書鳥は、伝書鳩とは違う。

寒暑の厳しい砂漠地帯を昼夜問わず短時間で長距離を飛び移動出来る、カシール王国にしか生息しない特殊な鳥を訓練して使っていた。



「ソフィアが兄さんの呪いを解いた夜

 カシール王国の王都アルハドラを大規模な

 雷の嵐が襲ったそうだ。

 嵐が去った翌朝に被害の調査をした結果

 ただの雷では無かったらしい。」


レントはアミール王子からの文書をの内容を一部伝えた。


「翌朝、天気回復後被害調査する。

王城の外壁と内部破損により国王アブアド重症を負う。

城下の呪術教集団の寺院が全壊。

寺院内の者全員落雷で死す。

王国内にて不審な黒い死体が数十体発見される。


他にも恐怖で逃げ惑った人達の怪我人が

何人か出たそうだが、王都内の落雷の被害自体は、まるで目標があったかのように驚くほど局地的であったらしい。」


レントはソフィアの顔をチラリと見た。

彼女は話を真剣に聞いているようだが、顔は無表情だった。ただ彼女の目、金色の瞳が放つ氷のように冷たい光が、王都アルハドラで起きた惨状に対するの彼女の冷淡な反応を表していた。


『ソフィアはアルハドラで起きた事は当然だと思っているのか?』


レントの視線に気付いたソフィアが尋ねてきた。


「呪いの首謀者はアブアド国王ね。

実行犯の呪術の主導者は何処かしら?

多分、まだ生きてるわ。」


声を掛けられて驚き一瞬ビクッと反応するレント。慌てて質問の答えを考える。


アミール王子からの文書の中に気になる事が書いてあった事を思い出した。


「そう言えば、合同死体安置所で不気味な死体を見たと書いてあったな。なんでも墨のように真っ黒で骨と皮だけのミイラみたいな焼死体が棺に入れられていたと。

守衛兵達が、夜な夜なその棺から唸り声がすると恐れているらしい。」


「そいつが呪術の主導者よ。

カシール王国内で見つかった黒焦げ死体も呪術者の仲間。

エンニに呪いをかけた者達は全滅しているわ。

但し、首謀者と主導者は簡単には死ねない。それが呪いをかけた者の末路だから。」


ソフィアの言葉にレントはゾッとした。



「実は僕達の国でも黒い焼死体が見つかっているんだ。」


青い顔をしたレントが言った。


ソフィアはその死体は、呪術者の仲間だろうと話した。


「私達の王国にいた呪術教集団の間者ね。この国の情報をカシール王国へ流していたのよ。」



これまで黙って二人の会話を聞いていたエンニが、真剣な面持ちで口を開いた。


「以前ソフィアが教えてくれた呪い返しの結果なのか。実に恐ろしい事が起きるものだ。」


両手をグッと握りしめ、エンニは険しい顔をした。


「エンニに対してそれだけ酷い呪いをかけた証拠よ。私達が気に病む必要はないわ。

向こうが仕掛けた事が相手に何倍にもなって戻っただけよ。」


そうソフィアはさらっと言うと、エンニの様子を伺った。やはり彼の表情が今一つ引っかかるソフィアは、エンニに気掛かりが有るなら話して欲しいと頼んだ。

彼は目を伏せて少し考えると胸の内を語り出した。


「あの呪いは生き地獄そのものだった。

私は身も心もズタズタにされた。しかし…。

あのおぞましい力が私に不滅の戦力を与え、二つの大戦に勝利した。その考えが頭から離れないのだ。」


眉間に皺を寄せて苦悩するエンニを見て心を痛めるソフィア。彼の言わんとする事も悩みや葛藤も充分理解できた。だがそれは勘違いに過ぎない事もソフィアは分かっていた。


「呪いの力で戦争に勝てた?

いいえ、その考えは完全に間違っているわ。」


ソフィアはエンニの考えにあえて苦言を呈した。そして単に否定し戒めるのではなく、真摯に向き合い同時に理性的に諭した。


「エンニに掛けられた呪いは、人の命を生け贄に発動し、人の命を奪い続ける呪い。人を殺せば殺す程呪いが強くなるの。その上、正常な意思を無くさせ、殺人衝動が常に心と身体を隷属させる悪質な呪い。戦争と言う状況とエンニの優れた剣技が呪いに利用されてしまった。でもエンニは最後まで抗い続けた。どんなに辛く苦しかったことか…。

結果的にエンニとの戦闘で敵が戦意喪失し大戦は勝利した。大勢の死体の山を残して。

この呪いは戦力でも勝利を招いた力でも無い。

エンニに無理矢理大量殺人を強いた邪悪な負の力よ。」


エンニとレントは微動だにせず熱心にソフィアの話に耳を傾けていた。

ソフィアは気持ちを落ち着かせる為にゆっくりお茶を飲む。カップを持つ手が怒りで少し震えていた。ソフィアは数回深呼吸をすると話を続けた。



「そもそも戦争は政治的な目標を持つもの。

ただ敵を殺すのが目的じゃない。軍部や将軍が無能過ぎる。戦略に基づき勝利の為の軍事行動をもっと熟慮すべきだったのよ。

厳しい訓練を乗り越えて来たエンニなら単独でも相手の戦術や戦法を考慮して、出来るだけ犠牲者が出ない作戦を立てて戦う筈よ。例えば、奇襲を仕掛けて本陣の総大将を殺すか捕虜にするとかね。

エンニにはそれだけの才覚と賢明な判断力そして剣術の力量がある。敵も味方も関係無い。本来のエンニは命を蔑ろにせずに勝利へ導く事が出来たと私は思うわ。」


ソフィアは熱弁を語り終えると残りのお茶を全部飲み干した。そして隣のエンニの顔をじっと見つめるのだった。

ソフィアから熱を持った眼差しを向けられ、心がざわめくエンニ。彼女の深い洞察力に感心し、自分に対しての愛と信頼に感激する。彼の脳内に纏わり付いていた呪いを肯定する厭な自分が消えて行く。また、ソフィアに救われた。


『今直ぐにソフィアを抱き締めたい!』


ソフィアは表情が明るくなったエンニにホッとする。だが直ぐに、隣で満面の笑みを浮かべるエンニから押し寄せる甘い圧に気付き焦り出した。


『エンニの様子がヤバイ。

レントがいる手前、過激な行動はしないと思うが。』


ソフィアは慌ててレントに話を振った。



「ところでレント殿下、解呪の件で私と指輪の事をアミール王子に教えましたか?」


「いいや、ソフィアの事も指輪の事も伝えていない。“兄さんの呪いを解いた”とだけだ。

彼から“説明しろ!”と返事が来たけど、

“今起きている状況を大いに利用しろ”と送ったよ。」


「さすが“腹黒金髪王子”ですね。」


「何その呼び名は、酷いよソフィア。

僕の事そんな風に思っていたの?」


ソフィアは頷き、エンニはにんまり微笑んだ。


「えっ!兄さんまで?」


ショックで沈んでいるレントにそっとお茶とケーキを差し出すソフィア。


「国を治める者はそれでいいのです。

レント殿下は為政者に向いています。」


ソフィアの言葉に気を良くしたレントは、黙ってケーキを頬張った。





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