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笑わない令嬢 呪いの人形姫ソフィア  作者: くるくり
第2章 平和への道
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カシール王国の夜明け 2 【希望の王子】

『美しい満月が心をかき乱すのか

 今夜は何故か落ち着かない。』


カシール王国の王城の敷地にある東の離塔で暮らすアミール王子は、この夜いつになく心がざわめき寝付かれなかった。彼は自室の窓から月明かりが照らす王都アルハドラの街を眺めていた。



カシール王国の国王アブアドは、正妃との間に子をもうけていなかった。そのうち正妃が病気になり子が出来ぬ身体になってしまう。国の将来を憂いた一部の高官の臣下達が強引にアブアド王に側妃を娶らせた。そして生まれたのがアミール王子だった。

だが、権力と財力に強く執着するアブアド王は、誰にも王位を渡すつもりはなかった。例え1人息子のアミール王子であっても。

王国にとっては大切な世継ぎの王子。しかしアブアド王は息子を邪険に扱い、見向きもしなかった。アミール王子は王位を脅かす存在でしかなかったのだ。


アブアド王は側妃が生んだ赤子が男だと分かると側近に命じ、王城の東の塔に2人を幽閉してしまう。最低限の生活が出来るだけの食料と物資を与えて。

アブアド王は、決して王子に教育を与えぬように側近に命令していた。息子に賢い頭と力を持たせたくなかったのだ。それほど王子の存在を王は恐れていた。


側妃の名はラルミーネと言った。

カシール王国の高位貴族の娘でとても美しく聡明で高い教養を持ち、誠実な女性であった。ラルミーネは生家から連れて来た侍女1人と協力し幽閉生活の中、息子のアミール王子を必死で守り育てた。彼女は出来る事は何でも行った。

自分達への冷遇からアブアド王の思惑を見抜いたラルミーネは、息子に自分の知識と知恵を全て与えようと考えた。そして、国や民を慈しみ守る事が王と成る者の責務だと教え諭したのだった。

沢山の母の愛を受けて育ったアミール王子だったが、彼が5歳の時に母を病気で亡くしてしまう。


側妃ラルミーネの死後、生家の家族である高位貴族がアブアド王に抗議を申し出た。娘の死に不審を持ち責任を追及したのだ。しかし王の権力によりその貴族の家は呆気なく取り潰されてしまう。財産は全て没収され、家族は処刑されてしまったのだ。何も知らされず幽閉されていた幼いアミール王子は、残された侍女に守られ静かに暮らしていたが、ある日その侍女と共に行方が分からなくなってしまった。


その後直ぐにアブアド王は、アミール王子が病死したと発表したのだった。


そして12年後。カシール王国に17歳に成ったアミール王子が現れた。



アミール王子の母ラルミーネの兄アロンドールは唯一の生き残りの親族だった。彼はアミール王子を見つけると後ろ楯となり、オトロープ王国の高名な貴族数名と交易大商人を連れてアブアド王に謁見を申し出たのだ。


「我が息子、アミール王子は12年前に

病で死んでおる。我を欺くとはただで済むと思うな!」


目の前の面々に威嚇するように叫ぶアブアド王の声が謁見の間に響き渡る。王は濁った赤い目をギラつかせて彼らを睨んだ。周りの大勢の臣下達や護衛兵達もアロンドール一行に訝しむ顔を見せていた。


「確かな証人を連れて来ています。」


王の謁見の間に立ち込める疑惑の空気と猜疑心に満ちた人々の視線が絡み付く中、アロンドールは冷静に話を始めた。

彼はアミール王子の母の侍女を捜し出していた。


「この女性は、私の妹ラルミーネが陛下の側妃だった時に侍女をしていた者です。彼女がアミール王子だと証言してくれました。陛下も侍女の顔をご存知だと思います。」


アブアド王はちらりと侍女の顔を見るが、素知らぬ態度を見せた。


「いちいち侍女など覚えておらんわ。」


「それでは陛下、御子息アミール王子のお顔もお忘れですか?」


逞しく成長したアミール王子が、勇ましい戦士の姿で現れた。周囲がざわめく中、彼は頭に被っていたフードを取った。


その場の一同が驚きの声をあげる。

「おお!

 黒髪と赤い瞳だ。まさしく王族の色だ。」

「まさか、信じられない!

 死んだと言うのは嘘だったのか?」

「確かにアミール王子が生きていれば

 同じ位の年格好だ。」


王と同じ黒髪と宝石のルビーのような赤い瞳、そして側妃ラルミーネに良く似た美しい顔立ちの若者が皆の前に現れた。

アブアド王の前で堂々と立つ彼の姿は父親よりも王の風格と気品を纏っていた。


「お久しぶりです。 父上。」


「お前は誰だ?アミールは死んだのだ。

我と同じ黒髪と赤い目だからと息子と言う証拠にはならんわ。」


「それでは此に見覚えはありませんか?

 正妃様の指輪と私の母の指輪です。」


アミール王子は首のネックレスに通していた2つの指輪を手袋をした右手に乗せて王に見せる。アブアド王は何も答えず、2つの指輪を凝視していた。

余裕があった顔が強張り始めて来る。

しかし、まだ認めようとはしなかった。

それならばとアミール王子は自身で証言する事にした。


「ならば、父上と私の幼き頃の思い出話をいたしましょう。」


彼の言葉にその場の誰もが耳を傾けた。


「私が5歳を迎えた日、初めて私は父親である陛下と会いました。陛下と私との対面を母が懇願し続け、生まれて5年経ってやっと会う事を許されたのです。そして、母は陛下に私を王子として認め、教育と安全な生活を求めました。」


硬い表情をし、黙ったまま聞いているアブアド王。彼の目を真っ直ぐに見据えてアミール王子は話を続けた。


「ですが陛下は、聞き入れて下さらなかった。それどころか私達に言ったのです。

“我が身に付けているこのメダルは代々王が息子に王位を譲り渡す時に与える物だ。王子と認められたければ、このメダルを受け取れ。”

そう言って陛下は暖炉の火の中にメダルを投げ入れましたね。結局、私は受け取る事が出来ませんでした。ですがこの時私は確かに一度メダルを手にしたのです。」


アミール王子は左手の手袋を外した。


「これがその証拠です!」


アミール王子の左の手のひらには、紛れもなくアブアド王の持つ王位のメダルの模様である国の紋章と王の紋章が、そのまま火傷の跡となり刻まれていた。

絶句し、茫然となったアブアド王は力無く玉座に座り込んでいた。その後、指輪も王が妃の証として渡していた物と確定され、アブアド王は彼をアミール王子だと認めざるを得なかった。


アミール王子が生きており、無事カシール王国に戻って来た事を国中に知らせると国内の貴族達や軍人有力者達は騒然となり、内政は大荒れとなる。

何故ならこの時、カシール王国は隣国セレブキシン王国と2度目の大戦の真っ最中だったからだ。

アミール王子は意図的にこの時期王国に帰還したのだ。混乱を利用し、密かに現王政反対派を立ち上げる為に。


“両国間の戦争を終わらせる”


此は、数年前に知り合ったレント王子と交わした、2人の王子の決意の約束だった。




昨夜の酷い雷を驚きと不安で過ごしたアミール王子は、王城と城下の民を心配していた。信頼する臣下達からの知らせに驚愕する。

王城の損壊と父アブアド王の怪我。

城下の街の被害、特に呪術教集団の寺院が壊滅的な打撃を受けたと言う事実に。


『一体何が起こっているのか?』


彼は急ぎ情報を収集し、国の体制が現段階どうなっているのか知る必要があった。


『この状況を上手く使えば現王政を変える事が出来る。』


彼は直ぐに熟考し、次なる行動を模索した。

その日の夕刻、セレブキシン王国のレント王子から伝書鳥で暗号文書が届いた。


“親愛なるミー君へ

君の国でちょっとした出来事が起きたと思う。兄の呪いを解いた所為です。

驚かせてごめんね。

君の親友レンより”


暗号を解読したアミール王子は、頭の中の思考が一時停止した。

速攻で返事を伝書鳥で送ったのは言うまでもない。

















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