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笑わない令嬢 呪いの人形姫ソフィア  作者: くるくり
第2章 平和への道
123/128

カシール王国の夜明け 1  【解呪の夜】



お待たせしました。

第二章の開始です。










「カシール王国の太陽

 アブアド国王陛下に申し上げます。」


天井、床、壁、柱の全てが綺麗に磨かれた黒い大理石で造られた国王の謁見の間に現れた一人の老人。彼はこの国にある呪術教集団の長老で名前はアゼゼと言った。彼はアブアド王のお気に入りの配下だった。彼は国王の前にひれ伏し挨拶をした。

この国の国王アブアド・カシールは、この土地特有の褐色の肌に短い黒髪と顔を包み込む様な黒髭を蓄えた五十の歳を少し越えた、がっしりした体格の男だ。

頭に色とりどりの宝石をちりばめた金の王冠を乗せ、透かし模様の金の首飾りや宝石が埋め込まれた装飾品を数多く身に付けていた。衣服は、絹の織物に錦糸で伝統的な刺繍を施した豪華なこの国の民族衣裳を着ていたが、王としての風格や威厳、品性を持ち合わせていない男であった。


「うむ、報告を申せアゼゼ。」


「ありがとうございます陛下。

蝙蝠から連絡がございました。

かの王子は帰国後直ぐに別の城に隔離されているようです。どうやら酷い体調で命の危険があると囁かれています。

それなのにまた新しい婚約者を与えるようです。」


アゼゼは、両膝を床につき、腰を低くしたまま顔を上げてアブアド王に伝えた。


「愚かな王だ。

前回は死ななかったが、今度こそ婚約者を王子の呪いの生け贄にしたいらしいな。」


だらしなく玉座に座り、嘲笑うアブアド王の様子を無表情で見ているアゼゼ。皺だらけの顔の不気味な目を鈍く光らせ饒舌に話を続けた。


「間もなく呪いの力が最高潮に達します。さすれば王子は、呪いへの抵抗も正気も力尽きて殺人衝動に支配され、王と第二王子をはじめ自国の民をも虐殺することでしょう。斯くして敵国セレブキシン王国は血の地獄と化すのです。」


「それは何時だアゼゼ。」


アブアド王はニヤニヤしながら愉しそうに

玉座から身を乗り出してアゼゼに尋ねた。


「今宵、闇夜に満月が輝く深夜、呪いが王子の心を食べ尽くします。王子は消え去り、最初の血の生け贄に婚約者を殺したら殺人鬼の化物が生まれるのです。」


その答えを聞いたアブアド王は、満足そうに嗤った。アゼゼを下がらせ臣下を呼んだ。それからアブアド王は何時でも隣国セレブキシン王国へ攻め入る事が出来る様に兵の準備を命令したのだった。


その夜アブアド王は、セレブキシン王国の終演の鐘の音を待ちわびながら、広い自室の寝床に横たわり、窓から見える美しい満月を眺めて美酒に酔いしれていた。


『今頃は呪いによってあの王子が婚約者を殺して殺人鬼の魔物に成り果て、城中の人間を殺戮していることだろう。』


長い年月をかけてやっと計画が成就する。アブアド王は、血の海に溺れ沈み断末魔の叫び声を上げているセレブキシン王国のカルロス国王を想像し、喜びで身体を震わせていた。一気に酒を飲み干すと次なる軍事戦略に思いを馳せる。


その時突如、月の光が消え、部屋が真っ暗になった。すると壁や寝床が震えるほどの地響きの様な音が空から聞こえて来た。

《ズゴゴゴゴォォー!!》


《ピカッ!》

鋭い閃光が走った。

《バリバリバリッ!ピシャーン!》

城下の建物に雷が落ちる。


あまりにも大きな音と振動にアブアド王は息が止まり、身動が固まった。

次の瞬間、目が眩む光と耳をつんざく轟音がアブアド王を襲った。


《ピカッ!! バシャーン!!》

《ズドドドドーン!!》

《ミシミシッ!!》


自室の天井と壁に大きなヒビが入り割れ落ちる。アブアド王の城に雷が落ちたのだ。彼は咄嗟に頭を抱えて寝床で身体を丸めた。次々と落雷で城や城下の建物が壊されて行く。所々で火の手が上がり、人々の叫び声がする。アブアド王の部屋に護衛兵や臣下達がやって来た。


「ご無事ですか!アブアド国王陛下!」

「急ぎ安全な場所へ避難いたしましょう!」


護衛兵達に守られながら逃げるアブアド王。辺り一面激しい稲光と雷鳴が響きわたる。逃げる途中、廊下の窓から見える城下に幾つもの稲妻が落ちていた。渡り廊下を走り抜けるアブアド王と護衛兵。いきなり後ろから強烈な光と雷音が一行を襲う。アブアド王は恐怖で足が縺れ転がり倒れてしまう。即座に護衛兵が彼を抱き起こした。やっとの思いで城の地下にある隠し部屋へと逃げ込んだ。

ここはアブアド王の部屋の半分位の広さで窓が無く、レンガの様に石を積み、敷き詰めて造られた部屋だった。アブアド王が無事に部屋に到着すると側近の男が彼をふかふかの長椅子に座らせた。そして、アブアド王の気持ちを落ち着かせる為に強めの酒を彼に渡したのだった。

外からの音と光はさすがに部屋には届かなかったが、僅かに振動が伝わって来る。酒を飲み少し落ち着きを取り戻したアブアド王は、事態の把握の為に情報を集めるよう命令した。


『一体何が起こったのだ?

 此は他国からの攻撃か?』


アブアド王は混乱し、思考が上手く働かなかった。おまけに身体の震えが治まらない。今自分はどんな顔を臣下や兵達に見せているのか。情けない姿を周りの者達に晒したくない。そう思ったアブアド王は、彼らを隠し部屋から追い出してしまった。王が一人になったその時、部屋の石積の壁から突然鉄砲水が噴き出して来た。崩れた石達がアブアド王の身体を押し倒し、彼は石の下敷きになってしまった。異変に気が付いた護衛兵達がアブアド王を救い出したが彼は酷い怪我を追ってしまうのだった。


一夜明け日が昇るとアブアド王の城と城下の街の様子が見えてきた。悪夢の様な嵐が過ぎ去った割には被害にあった建物が少なかった。怪我を追ったアブアド王は、城の中に急きょ用意した治療部屋で手当てを受けていた。意識ははっきりしていたが、怪我は酷く、両手両足を骨折し、身体のあちこちに何故だか火傷をおっていた。水が押し寄せた隠し部屋には火傷の原因となるものが無かったにもかかわらず。

城下の情報が集まり、状況が次第に明らかとなる。まず、はっきり分かった事は、他国や何処からの攻撃でも無いと言う事だった。だだ雷による被害、数多くのイカズチが城や城下の建物に落ちたのだ。

一番の被害は、城下にある呪術教集団の寺院だった。跡形もなく、瓦礫の山と化していた。その上、壊れた呪術教集団の寺院からは大勢の信者や呪術者の死体が瓦礫に埋まり、丸焦げの状態で発見された。

特に長老アゼゼは、瓦礫の中で黒焦げになったまま生き残っていた。医者達は驚き呆然となった。

“生きているはずがない” 誰もがそう思った。

黒く焼け爛れた皮膚は裂けて垂れ落ち、血肉が弾け出ていた。焼けた身体は肘や膝が収縮して曲がり動かず、目も見えず耳も聞こえない。喉も火傷で話す事は勿論、声も出せなかった。辛うじて呼吸はしているが酷く苦しそうだった。ただ、血が滲み真っ赤な口からは、地獄の亡者の様な厭な呻き声が洩れ出ていた。

見るもおぞましい姿に誰もが目を背けた。

治療も出来ず、何時死んでもおかしくなかった。だからアゼゼは治療部屋ではなく棺に入れられ放置されてしまった。


長老アゼゼと呪術教集団の者達全員、カシール王国内外の何処に居ようとも同日同時刻に突然雷が身体に落ちて黒焦げになり死んだのだった。この事実は、後々明らかとなる。


これらの出来事は、ソフィアが解呪の指輪を使いエンニ王子と再会した夜に呪いを解呪した為に起きた。エンニ王子に呪いをかけた者達は、残らず呪い返しにあい、それ相当の報いを受けたのだ。









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