3回表 戦力
新主将・竹内さおり。
副主将・石川こなつ。
新体制となった島大松江高校野球部は春季大会へ向けて本格始動していた。
しかし鈴木監督は練習試合の後、珍しく腕を組んでいた。
技術はある。
守備も悪くない。
打撃も県内上位レベル。
それなのに勝負所であと一本が出ない。
あと一歩が届かない。
何かが足りない。
その日の練習試合。
9回。
同点。
一打勝ち越しの場面。
石川こなつが二塁へ盗塁を決める。
竹内さおりが進塁打を放つ。
しかし後続が倒れ試合終了。
ベンチへ戻る選手たちの表情は暗い。
スコアブックを閉じながら、一年生マネージャーの佐野ひまわりが呟く。
「やっぱり・・・。」
夜。
佐野家。
心理学者として全国的に知られる父・佐野弘の書斎。
本棚には心理学や脳科学の専門書が並ぶ。
ひまわりはノートを見せる。
「お父さん。」
「人にはリズムがあるよね?」
弘は微笑む。
「全員ある。」
「歩く速さ。」
「呼吸。」
「会話。」
「集中力。」
ひまわり。
「野球にもある?」
弘。
「もちろん。」
「投手にも。」
「打者にも。」
「チームにもな。」
その瞬間。
ひまわりの頭の中で何かが繋がった。
翌朝。
午前五時半。
まだ誰もいないグラウンド。
ひまわりは一人で選手たちを観察していた。
石川こなつ。
走る時の歩幅。
竹内さおり。
打席へ入るルーティン。
和田八雲。
投球前の呼吸。
竹下大和。
打席での足踏み。
梶谷出雲。
守備位置へ入る時のテンポ。
全てをノートへ書き込む。
そこへ鈴木監督が現れた。
「何してる?」
ひまわりは慌てる。
「すみません!」
「怒ってない。」
監督はノートを見る。
そこには、
呼吸数。
投球間隔。
打席滞在時間。
集中力変化。
細かなデータがびっしり並んでいた。
「これは?」
「個人リズムです。」
ひまわりは説明する。
「人は自分のリズムに合った時、一番力を発揮します。」
「だから応援を合わせるんです。」
「応援?」
「はい。」
「吹奏楽。」
「応援団。」
「チア。」
「全部合わせて選手の力を引き出します。」
監督は黙って聞いていた。
そして。
「面白い。」
ひまわりが顔を上げる。
「続けろ。」
「ただし証明しろ。」
その言葉にひまわりは大きく頷いた。
放課後。
ひまわりは最初の協力者を探す。
向かった先は応援団室。
団長の
長谷川大地。
学ラン姿の熱血漢。
「応援で甲子園へ行きたい?」
「面白いじゃねえか。やらせてくれ」
即答だった。
次に音楽室。
吹奏楽部長。
青木美月。
冷静沈着な指揮者。
ひまわりの資料を見て言う。
「理論は分からない。」
「でも面白そう。」
「やってみたい。」
そして体育館。
チアリーダー部キャプテン。
江上恭子。
明るく活発な人気者。
竹下大和の恋人でもある。
「野球部だけに頑張らせないわ。」
「私たちも甲子園に挑戦する。」
夕方。
空き教室。
集まった四人。
佐野ひまわり
長谷川大地
青木美月
江上恭子
ひまわりはノートを開く。
「島大松江高校には戦力があります。」
「でもまだ一つ足りません。」
長谷川。
「何だ?」
ひまわり。
「全員が一つになる力です。」
静かになる教室。
ひまわりは続ける。
「野球部。」
「応援団。」
「吹奏楽部。」
「チア。」
「みんなで戦うんです。」
長谷川が笑う。
「いいな。」
青木も頷く。
「曲も考えよう。」
江上も拳を握る。
「振り付けも作る。」
その日。
ひまわりのノートに新しいページが加わった。
島大松江高校応援プロジェクト
責任者 佐野ひまわり
協力者
長谷川大地(応援団長)
青木美月(吹奏楽部長)
江上恭子(チアリーダー主将)
ページの最後にはこう記されていた。
「甲子園は野球部だけでは行けない。」
「学校全員で行く。」
窓の外。
夕焼けのグラウンドでは、
主将・竹内さおりと副主将・石川こなつがキャッチボールを続けていた。
その先には、
まだ誰も知らない夏が待っていた。




