表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
栄冠は君に輝く  作者: konatsu


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/40

11回裏 ラストゲーム

六月十五日。


第110回全国高等学校野球選手権島根大会。


組み合わせ抽選会の日がやってきた。


島根県立武道館。


各校の主将たちが集まっていた。


島大松江高校からは主将・竹内さおり。


副主将・石川こなつ。


そして鈴木監督が出席していた。


会場の空気は重い。


負ければ終わり。


勝てば夢へ近づく。


それが夏だった。


抽選が始まる。


一校ずつ。


運命の組み合わせが埋まっていく。


ひまわりは学校で速報を見ていた。


「お願いだから厳しい山に入らないで……」


祈るようにつぶやく。


やがて。


島大松江高校の名前が呼ばれた。


さおりがくじを引く。


会場が静まり返る。


結果。


島大松江高校は


Cブロック。


準決勝までは優勝候補との直接対決を避けられる組み合わせだった。


しかし。


決勝予想の相手は変わらない。


二年連続甲子園出場。


センバツベスト4。


県王者。


石川監督率いる強豪校。


つまり。


こなつの父が率いるチームだった。


こなつが組み合わせ表を見る。


父も見ている。


互いに小さく笑った。


「決勝で待ってる。」


父が言う。


「負けないよ。」


こなつも答えた。


「私も。」


「絶対に。」


抽選会は終わった。


しかし。


島大松江高校にとって本当の戦いはまだ始まっていなかった。


その夜。


鈴木監督は全員を集めた。


「六月二十一日。」


「ラストゲームを行う。」


選手たちの表情が変わる。


「県大会登録二十人を決める試合だ。」


空気が張り詰めた。


「レギュラーも。」


「控えも。」


「学年も。」


「実績も。」


「関係ない。」


「全員を混ぜる。」


「誰と組んでも戦えるかを見る。」


「そして。」


「仲間のために戦えるかを見る。」


六月二十一日。


ラストゲーム当日。


スタンドには保護者。


応援団。


吹奏楽部。


チアダンサー。


教職員。


誰もが見守っていた。


鈴木監督がメンバーを発表する。


赤組


1 石川こなつ


2 梶谷


3 八雲


4 阿知波


5 三沢


6 小村


7 塙


8 錦織


9 浜口


投手 八雲


捕手 さおり


白組


1 竹内さおり


2 糸原


3 若槻太一


4 山内


5 大野


6 佐野


7 世良


8 芦田


9 梨田


投手 大野


捕手 山内


部員たちがざわつく。


「本当に混在してる……」


「監督、本気だ。」


バーンズが笑う。


「ソレガイイ。」


「ベースボールハ。」


「ナニガオキルカワカラナイ。」


試合開始。


初回。


先頭のさおり。


八雲の初球を叩く。


センター前。


そのまま二塁を狙う。


だが。


センターを守る若槻太一が捕球。


矢のような送球。


ズバン!


アウト。


スタンドがどよめく。


「すげえ……」


「あれ一年かよ。」


太一は何も言わない。


だが鈴木監督は静かにメモを取った。


三回。


こなつが出塁。


セーフティーバント。


内野安打。


盗塁。


さらに三盗。


守備陣をかき回す。


「こなつらしいな。」


美佐子が微笑んだ。


五回。


山内の打席。


一球。


二球。


三球。


ファウル。


ファウル。


ファウル。


気付けば十球目。


スタンドの誰もが山内を見ていた。


そして。


センター前。


執念のヒット。


歓声が上がる。


バーンズが頷いた。


「グッド。」


「アレハイヤナダシャ。」


鈴木監督も頷く。


数字ではない。


山内はチームの空気を変える選手だった。


七回。


マウンドには大野。


右打者が入る。


今までなら逃げていた。


だが。


松田の声が聞こえる。


「心眼。」


大野は目を閉じる。


ミットだけを見る。


投げる。


ズバン!


内角ストレート。


見逃し三振。


ベンチが沸く。


大野は小さく拳を握った。


「やっと……」


「投げられた。」


世良はダイビングキャッチを見せた。


芦田は送りバントを完璧に決めた。


小村は二塁打を放った。


浜口は右中間フェンス直撃の長打。


錦織はベンチから仲間を鼓舞し続けた。


誰もが。


自分の野球人生を懸けていた。


そして最終回。


二死満塁。


打席には若槻太一。


マウンドには八雲。


グラウンド中が息を呑む。


太一。


八雲。


互いに笑った。


「本気で来い。」


「当然だ。」


初球。


ストレート。


ファウル。


二球目。


フォーク。


空振り。


追い込まれる。


だが。


太一は諦めない。


三球目。


食らいついた。


三遊間へ鋭い打球。


誰もが抜けたと思った。


しかし。


ショート世良が飛び込む。


捕った。


立ち上がる。


一塁送球。


アウト!


試合終了。


歓声と拍手。


涙。


笑顔。


悔しさ。


様々な感情がグラウンドを包む。


整列。


礼。


握手。


誰もがやり切った顔をしていた。


鈴木監督は選手たちを集めた。


「登録メンバー発表は明日。」


ざわつく選手たち。


「今日は帰れ。」


「ゆっくり眠れ。」


「自分の野球人生を振り返れ。」


夕陽がグラウンドを赤く染める。


二十人だけが県大会へ進める。


しかし。


鈴木監督は最後に言った。


「勘違いするな。」


選手たちが顔を上げる。


「今日選ばれた者。」


「安心するな。」


「今日選ばれなかった者。」


「諦めるな。」


静まり返るグラウンド。


「私の考えるラストゲームは。」


「もう一つある。」


誰も言葉を発しない。


「県大会を勝ち抜いた後。」


「甲子園メンバーを決める最後の試合だ。」


選手たちの目が変わる。


「だから。」


「諦めるのは全てが終わった時だ。」


「始まりはこれからだぞ。」


そう言って鈴木監督は背を向けた。


誰も動かなかった。


だが。


誰一人として。


夢を諦めてはいなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ