10回裏 事変
玉木の退部。
太一の入部。
バーンズコーチの加入。
島大松江高校野球部は、大きく変わろうとしていた。
しかし。
佐野ひまわりだけは、別のことを考えていた。
練習が終わったグラウンド。
ひまわりは一人、バックネット裏から選手たちを見つめていた。
さおり。
こなつ。
八雲。
大和。
太一。
皆、技術は確実に向上している。
鈴木監督。
松田コーチ。
バーンズコーチ。
最高の指導者もいる。
だが。
ひまわりには気になることがあった。
「リズム……」
野球はリズムのスポーツ。
投手にも。
打者にも。
守備にも。
応援にも。
リズムが存在する。
バーンズコーチの言葉が頭に浮かぶ。
「メジャーでは技術だけで勝てない。」
「最後はメンタルだ。」
「相手を迷わせろ。」
「相手に考えさせろ。」
「相手に疲れさせろ。」
ひまわりは立ち上がった。
「そうか。」
「応援も武器になるんだ。」
翌日。
ひまわりは父親の研究室へ向かった。
著名な心理学者である父。
大量の論文や資料に囲まれながら話を聞く。
「お父さん。」
「人の集中力を高める方法ってある?」
父は笑った。
「あるよ。」
「逆に集中力を乱す方法もね。」
ひまわりの目が輝いた。
その日から。
ひまわりの暴走……いや、疾走が始まった。
まず向かったのは合唱部。
全国合唱コンクール個人部門優勝者。
若林恵。
「お願いがあります!」
若林は驚く。
「野球部?」
「はい!」
「甲子園へ行くんです!」
「だから力を貸してください!」
次に向かったのはシステムIT研究会。
「リアルタイムで歌詞を配信できない?」
「スマホへ送るんだよ!」
生徒たちは興味津々だった。
さらに。
放送部。
「プロデューサーになって!」
「応援団長。」
「吹奏楽部長。」
「チア。」
「合唱部。」
「全部を繋いでほしい!」
放送部長は目を丸くした。
「文化祭より凄いこと考えてるな。」
そして。
ひまわりは校内を駆け回る。
吹奏楽部。
応援団。
チアリーダー江上。
全てを巻き込んでいく。
ある日。
鈴木監督室。
さおり。
こなつ。
鈴木監督。
美佐子部長。
バーンズ。
松田。
全員が集まっていた。
そこへ。
ひまわりが大量の資料を抱えて飛び込んでくる。
「できました!」
机いっぱいに資料を並べる。
バーンズが驚く。
「オーマイガー……」
資料には。
応援曲一覧。
応援鼓舞。
歌詞表示システム。
応援隊配置図。
合唱タイミング。
チアダンサー演出。
全てが書かれていた。
さおりが驚く。
「これ全部作ったの?」
「うん!」
こなつ。
「寝てないでしょ。」
「二日だけ。」
「二日も!?」
皆が笑った。
ひまわりはホワイトボードへ向かう。
「私が考えたのはメンターシステムです。」
「選手の心理。」
「応援団の心理。」
「観客の心理。」
「相手チームの心理。」
「全部を一つにします。」
そして。
大きく書いた。
リズム支配
「応援は音じゃない。」
「空気です。」
「空気を支配できれば。」
「球場を支配できます。」
誰も言葉を発しない。
「チャンスの時。」
「場面ごとに意味を持たせます。」
「スマホで観客へ同時表示。」
「そして合唱。」
若林恵の名前が表示される。
「リードボーカル。」
「全員が歌える環境を作ります。」
バーンズが笑った。
「ヒマワリ。」
「キミハ。」
「ベースボールコーチジャナイ。」
「プロデューサーダ。」
全員が笑う。
だが。
鈴木監督だけは真剣だった。
「ひまわり。」
「お前。」
「本気なんだな。」
「はい。」
「私は試合に出られません。」
「でも。」
「勝利に貢献したいんです。」
沈黙。
そして。
鈴木監督が立ち上がる。
「採用だ。」
ひまわりの目が大きくなる。
「本当ですか!?」
「ただし。」
「責任者はお前だ。」
「やれるか。」
ひまわりは敬礼した。
「はい!」
窓の外では。
夕陽がグラウンドを照らしていた。
まだ誰も知らない。
この応援システムが。
とてつもない島大松江高校の武器になることを。




