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栄冠は君に輝く  作者: konatsu


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15/22

8回表 失意

太一の入部テストは終わった。


打撃。


守備。


走塁。


全てが完璧だった。


誰もが認めた。


島大松江高校野球部の中でもトップクラスの実力だった。


だが。


主将・竹内さおり。


副主将・石川こなつ。


二人は不合格を告げた。


「仲間になれるかどうか。」


「それが試験だから。」


グラウンドは静まり返っていた。


太一は俯いていた。


拳が震えている。


怒りだった。


そして。


悲しみだった。


鈴木監督が口を開く。


「主将と副主将の判断を支持する。」


「若槻太一。」


「不合格だ。」


その瞬間だった。


太一が顔を上げる。


「ふざけるな!!」


グラウンドに怒声が響く。


「何が仲間だ!」


「何が野球部だ!」


「俺は全部やった!」


「出雲の球を打った!」


「守備も走塁もやった!」


「それでも駄目なのか!!」


誰も言葉を返せない。


太一の叫びは止まらない。


「どうせ。」


「どうせ最初から決まってたんだろ!」


「俺が鈴木監督の息子だから!!」


グラウンドが凍り付いた。


さおり。


こなつ。


出雲。


八雲。


大和。


玉木。


誰も知らなかった。


「え・・・?」


浜口が呟く。


太一は叫び続ける。


「俺は知ってる!」


「みんな知らないだけだ!」


「あの人は俺の父親だ!」


「俺を捨てた父親だ!!」


静寂。


鈴木監督は動かない。


美佐子部長だけが目を閉じた。


太一の目から涙が流れる。


「俺は・・・。」


「野球が好きだった。」


「本当に好きだったんだ・・・。」


「でも。」


「全部壊れた。」


「友達も。」


「居場所も。」


「夢も。」


「全部・・・。」


「全部・・・。」


「あんたのせいだ・・・。」


涙が止まらない。


誰も声を出せない。


その時。


一人の男が前へ出た。


松田健吾だった。


「若槻。」


太一は睨む。


「なんだよ。」


松田は笑わない。


「お前。」


「まだ野球が好きだろ。」


太一は答えない。


「嫌いになった奴は。」


「泣くはずがない。」


「出雲の球を打った時、どんな気持ちだった」


「お前。やったと言った」


「楽しそうに言った。」


太一の表情が揺れる。


「違う。」


「違わない。目の見えない私だから、君の心がわかる」


松田は続ける。


「俺も野球を憎んだ。」


「病気で目を失った時な。」


部員たちは黙って聞いている。


「でも。」


「結局。」


「野球が好きだった。」


「だから今もここにいる。」


太一は俯く。


その時。


グラウンドの後ろから声がした。


「だったら。」


全員が振り向く。


三年生。


山内だった。


素朴な顔。愛嬌のある太めの体形。


どこにでもいそうな先輩。


しかし。


誰よりも仲間思いの男。


山内は太一の前に立つ。


「俺と勝負しないか。」


太一。


「は?」


山内。


「お前。」


「面白そうだから。」


グラウンドに笑いが起こる。


太一は呆れる。


「なんだよそれ。」


山内は笑う。


「だってさ。」


「俺。」


「お前と野球してみたい。」


初めてだった。


太一が島大松江高校で。


能力ではなく。


人として声を掛けられたのは。


太一は何も言えない。


夕陽が沈む。


さおりは思った。


「この人だ。」


「太一を救えるのは。」


鈴木監督でもない。


美佐子でもない。


自分でもない。


山内だ。


そして。


太一の止まっていた時間が。


少しだけ動き始めた。

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