『神格種に関する記録書』
記述日:空暦百四十七年 十月二十一日
作成者:帝国参謀本部 第三課 参謀 グスタフ・クラーク
【概要】
神格種。
地龍〈モグラ〉に確認される最上位変異体。
通常種とは明確に性質が異なり、生物という分類そのものに疑義が存在する。
これまでに確認された出現事例は四件。
いずれも大陸規模の被害を伴い、完全討伐記録は存在しない。
なお、全事例において観測記録の一部に矛盾、欠損、または説明不能な異常が確認されている。
■一度目(百五十年前)
地龍初遭遇。
断層深域にて、人類部隊壊滅。
当時、地殻調査隊〈第七深層群〉が断層下部にて活動中。
通信途絶時刻は午前四時三十七分。
直前、観測機器に“周期外振動”を確認。
既存の地震波形との一致なし。
最後の報告記録には、
『地鳴り』『黒い鱗壁』『重力の反転』の三点が残された。
衛星観測では、断層上部に“螺旋状隆起”を確認。
六時間後、地形は自然復元したかのように消失。痕跡は発見されていない。
生還者なし。
なお、回収された記録端末の内部時刻には最大九時間の誤差がある。
以降、断層深域への降下は原則禁止。
本件が、神格種確認の初記録とされる。
■二度目(八十七年前)
南方都市〈セレナ〉消失。
対象都市は、南方氷原に建造された自給型拠点。
定時通信終了直後、全信号が途絶した。
最後の通信記録には、
『空が割れる音』『銀色の背鰭』『急激な温度低下』が記録されている。
衛星映像では、氷原中央に“半球状隆起”を確認。
直後、周辺一帯に大規模凍結波が発生。
外縁部観測隊は、凍結範囲が“拡大ではなく増殖”していたと報告している。
調査隊は派遣されたが、到達前に氷原全域が崩落。
現在に至るまで、〈セレナ〉の残骸は発見されていない。
生還者なし。
以降、南方氷域は禁域指定。
本件は、神格種による寒冷干渉能力が確認された最初の事例である。
■三度目(四十一年前)
中央大陸西部、地形消失。
異常は、定期地図更新時の衛星照合により発覚。
対象地域一帯の地形データが“空白化”していた。
消失範囲には、山脈、河川、森林、都市群を含む。
現地調査では、地表全域が“滑らかな凹面”へ変形していた。
生物反応なし。熱源なし。磁場反応なし。
音響探査は地下三百メートル地点で途絶。
以深は観測不能。
調査班の一名は報告書内にて、
「削られた、というより、世界そのものが抉り取られている」と記述。
以降、該当地域は“地形喪失域”として封鎖隔離された。
■四度目(十三年前)
地上拠点、同時壊滅。
当時、地上には七つの拠点都市が存在。
そのうち三都市が、同時刻に通信を絶った。
最初に異常を観測したのは、空中帝国都市〈アステル〉観測班。
衛星映像には、『地表を割って浮上する巨体』
『赤黒い紋様が脈動する背部』が記録されていた。
咆哮確認直後、三都市すべての灯火が消失。
熱源反応、生命反応ともに完全途絶。
調査隊は三度派遣されたが、全隊消息不明。
なお、第二次調査隊の帰還艇のみが発見されている。
内部は無人。
操縦席周辺には、大量の爪痕が残されていた。
以降、地上拠点への降下は原則禁止。
【特記】
神格種は通常種を伴い、群体行動を取る傾向が確認されている。
五度目となる今回、周辺通常種の活動反応は確認されていない。
単独で出現。理由は不明。
なお、観測班の一部は『通常種側が、神格種出現領域への接近を避けている可能性』を報告している。




