第83話 新しい家族、平和な日々
結婚式から、数年が過ぎた。王都のタクヤ家に、二人の赤ちゃんが生まれた。男の子と、女の子。
男の子は「ベル」と名づけた。ベルフォードと、彼の娘ミリアを偲んで。
女の子は「リリィ」と名づけた。白薔薇のリリアを偲んで。カミラの王妃としての優しい姿も、心のどこかで重ねていた。
王様が、大喜びで王宮から駆けつけてくれた。両手にジャガイモのぬいぐるみを、二つ持参して、赤ちゃんの傍にそっと置いた。
「ふぉっふぉ! 儂の孫のような子じゃ!」
「王様、この子ら、王家の血筋じゃないですよ」
「儂の心の孫じゃ。細かい事は、気にするな」
王様のジャガイモ愛は、孫にも及んでいた。
アルテミスとアイリーンも、銀霧の里から遊びに来てくれた。
二人は結婚してから、里に居を構えていた。元魔王と、女神の使い。世にも珍しい夫婦だったが、里で若者に料理と魔術を教えながら、しずかに暮らしていた。アイリーンが、両手で赤ちゃんベルを、そっと抱き上げた。彼女の目に涙が滲んだ。
「あらん、私、生まれて初めて、赤ちゃんを抱っこしましたわぁ」
「アイリーン、女神の後継者だろ。抱いた事あるんじゃね?」
「あら、女神の使いは、赤ちゃんに直接触れる事は、少ないんですのよ」
アルテミスも、赤ちゃんリリィの頬を、指の背でそっと撫でた。
「こういう小さな存在に、久しぶりに触れた」
彼の目にも、薄く涙が滲んでいた。
◇◇◇◇
俺は、王宮の書斎で、書物を次々と書き上げていった。
『東の魔王、最後の煎餅』(ベルフォード編)。
『西の魔王、傷ついた王妃』(カミラ編)。
『南の魔王、小さな少年』(ゾルダン編)。
『北の魔王、ローン二十年』(アルテミス本人の許可済み)。
『大魔王ダグラス、千年の絶望』(ダグラス本人の協力)。
全てが、王都で、ベストセラーになった。銀霧の里の煎餅店の店頭にも、王都の書店にも、俺の本がいつも並ぶようになった。売上の一部は、王様の許可を得て、ダグラスの贖罪の資金にも回された。
アメリアは、王国軍の剣術師範として、次世代の剣士たちを育てた。彼女の三段斬りと、シエルの四段を組み合わせた七段斬りは、王国の伝説の技として、若い剣士たちの憧れの的だった。
息子ベルが、幼い頃から、稽古用の木剣を、両手でしっかり握っていた。
「ぼくも、母さんみたいな、七段斬り、身につけるっ!」
アメリアが、彼の頭をぽんと撫でた。
「良い剣士に、なりなさい」
娘リリィは、俺の書斎で、いつも本を両手で抱えて、読み漁っていた。
「私は、お父さんみたいに、本、書きたいの」
俺は、彼女の柔らかい金髪を、ぐしゃぐしゃと撫でた。
「うん。お前は、絶対、いい作家になる」
◇◇◇◇
王宮中央広場のジャガイモ畑は、王様の毎朝の水やりで、大きな畑に育っていた。毎年、秋には、たくさんのジャガイモが収穫できるようになった。王様は、収穫祭を毎年開催して、王都中の子供たちに、ジャガイモ料理を振る舞っていた。
「ふぉっふぉっ! これが、儂の、最高の仕事じゃ!」
彼の頬は、いつも赤く、いつも笑っていた。
時が、ゆっくりと、流れていく。
俺たちは、それぞれの日常を、大切に生きていた。




