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第82話 永遠の誓い

 翌春。俺とアメリアの結婚式の日。

 会場は、俺が転生した最初の場所、トマトヴィレッジだった。

 

 村の入口に、赤い絨毯がしっかりと敷かれていた。両脇に、大きなトマトを模った赤い提灯が、ずらりと吊るされている。村人たちが総出で、花や果実をあちこちに飾り付けていた。その中心で、雑貨屋のじいさんとばあさんが、両手をぐっと握りしめて待っていた。


 俺とアメリアが馬車から降りた瞬間、じいさんとばあさんの目から、ぼたぼたと涙がこぼれた。

「勇者殿ぉぉっ! ようやくかっ! ようやくかっ!」

 じいさんが、駆け寄ってきた。

「儂、生きている間に、この日を迎えられて、本当に、良かったぞぉっ!」

 ばあさんも、白いエプロンで目を拭いながら続いた。

「あの日、ポテトフライだったあんたが、こんなに立派になって……」

「え……ええと、そうだっけ!?」

 俺は、二人を、まとめて両腕で抱きしめた。じいさんの背中は随分と小さくなっていた。ばあさんの肩も、細くなっていた。しかし二人の温もりだけは、あの転生の朝と、まったく変わらなかった。


◇◇◇◇


 参列者が、次々と到着した。

 王様が、両手に豪華なジャガイモのブーケを握って、馬車から降りてきた。

 「ふぉっふぉっ! これは、儂からの、最高の祝いじゃ!」

 俺は苦笑しながら、そのブーケを受け取った。

 

 マダム・セレスが、優雅な足取りで登場して、俺の頬に片手をそっと添えた。

 「勇者さん、最後にもう一度、誘惑しても、いい?」

 「私のタクヤ、ですから!」

 アメリアが間に割って入る、いつもの光景。

 

 銀霧の里の住民たちが、竹籠一杯のミリアの煎餅を、運んできてくれた。

 アルテミスとアイリーンが、正装で並んで、しっかり手を繋いで参列した。夫婦になった二人が、村人の視線を集めていた。

 

 空の高い所に、優しい光の柱が降りていた。女神セレーンが、姿を現さないまま、俺たちを見守っていた。その光の周囲に、七つの淡い光。ベルフォード、リーラ、ミリア、カミラ、四薔薇、ゾルダン。皆、笑顔で見つめていた。

 

 そして、村の隅の目立たない場所に、白髪の老人が一人、しずかに佇んでいた。王様の特別許可で、地下牢から出てきたダグラスだった。彼は口の中で、静かに祝福の言葉を唱えていた。


◇◇◇◇


 村の広場の中央、赤い絨毯の上に、俺とアメリアが向き合って立った。

 俺は、深く息を吸い込んだ。

「俺は、前世で、ラノベ作家をずっと目指してきた。でも……誰にも認めてもらえなかった。異世界に来て、最強スキルを貰ったけど、絵心がなくて、ろくに使えなかった」

 参列者たちは、静かに聞いていた。

「でも、ここで出会った皆のおかげで、俺は、本当の物語を書けるようになった。アメリア、君と一生、新しい物語を紡いでいきたい」

 

 アメリアが、震える声で続けた。

「私は、両親を失った時、剣しかなかった。剣で復讐する事しか考えてなかった」

「でも、あなたが私に、剣以外の世界を教えてくれた。料理、ラノベ、笑い、そして――愛」

「あなたと一生、新しい家族を作っていきたい」


◇◇◇◇


 俺は、参列者たちの方に、深く頭を下げた。

「今日ここにいる、皆に、心から感謝します」

 俺の声が震えた。

 

「王様。あなたのジャガイモが、俺の旅の支えでした」

「アルテミスさん、アイリーン。俺の頼りないスキルを、いつも助けてくれた」

「そして――もう、この世にいない皆さん」

 俺は、空を見上げた。七つの光が、しずかに揺れていた。

「ベルフォードさん、リーラさん、ミリアちゃん、カミラさん、四薔薇の皆さん、ゾルダン」

 俺の頬に、涙が伝った。

「あなた達、全ての人が、今日の俺たちを作ってくれました。本当に、ありがとうございました」

 

 空の光が、ひと際強く瞬いた。七つの光の中で、それぞれが深く、俺たちに頭を下げているのが見えた。ベルフォードが優しく頷き、カミラが片目でウインクをし、ゾルダンが両手を広げてシャボン玉を送っていた。

 

 俺は、アメリアの手をしっかり握った。彼女も俺の手をぎゅっと握り返した。二人で顔を見合わせ、しずかに唇を重ねた。

 

 桜の花びらが、季節外れなのに、ふわりと村の広場に降ってきた。ゾルダンからの贈り物だった。参列者たちが皆、両手でその花びらを受け止めていた。

 

 村の広場全体が、春の花びらで満たされていく。その光景は、優しく、静かで——美しかった。



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