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第79話 絆の逆転

 倒れていたアイリーンが、ふっと目を開けた。彼女は聖光の杖を、震える両手でしっかり握り直す。背中の翼が、じわりと色を取り戻し始めた。

 

「タクヤさん、皆さん。ベルフォードさんも、カミラさんも、ゾルダンも、見てくれていますわ」

 彼女は聖光の杖を、両手で頭上に掲げた。翼がぱっと大きく展開し、虹色の光が玉座の間全体に広がっていった。

 その光に応えるように、空中に三人の幻影が、ぱっと現れた。

 ベルフォード。カミラ。ゾルダン。

 三人の姿は、これまでの淡い光の姿とは違っていた。より、はっきりと色を持ち、体温を持っているような、実体感があった。


「勇者よ。私の力を、貸そう」

 ベルフォードが、優しくささやいた。

「ふふ、勇者さん。あたしの力も、使いなさい♪」

 カミラが、艶やかに笑った。

「勇者おにいちゃんっ、ぼくもっ!」

 ゾルダンが、両手を広げた。


 三人の手から、光の線が放たれた。ベルフォードから深い青、カミラから艶やかな薔薇色、ゾルダンから澄んだ虹色。三筋の光が空中で絡み合い、太い一本の虹色の鎖に変わった。その鎖はまっすぐに、ダグラスに向かって飛んでゆく。

 

 そして、ダグラスの白い両腕を、鎖がぐるりと絡め取った。

「な、なに……」

 彼が初めて動揺の声を漏らした。彼の手に集まり続けていた絶望の球が、ふっと消えかけた。同時に、床全体の漆黒陣も、赤い線を点滅させ、じわじわと薄くなっていく。


「動ける、っ!」

 俺は膝をぐいと持ち上げた。ワード・オブ・コマンドの力が、ふっと緩んでいた。


◇◇◇◇


 アルテミスが立ち上がった。

「まだ、火が残っているぞ。私は、これでも——二十年のローンを、払い切った男だ!」

「アルテミスさん、それ、関係ないわよっ!」

 アメリアが思わず突っ込んだ。

「いや、関係あるぞ。それは、私の——意思の強さ! こんな事では屈しない!」

 アルテミスが両手をぐっと組んだ。彼の掌の間に、深い赤い炎が、じわじわと集まり始めた。これまでにない、密度の濃い炎だった。

「火炎連弾、極ッ!」

 彼の掌の間の炎が一気に放たれた。巨大な一本の赤い光線が、三魔王の鎖に縛られたダグラスに、ずどぉぉぉぉぉんっと直撃した。玉座の間全体が真っ赤に染まった。ダグラスの体が、火の光の中で、ぐらりと大きく傾いた。

 火の光が収まった時、ダグラスのローブは、あちこちが焼け焦げていた。彼の周囲の黒い霧が、以前の半分ほどに薄くなっていた。

 

 アイリーンが、聖光の翼をぱっと最大に展開した。

「神聖なる、浄化の光っ!」

 虹色の光が、戦場全体にふわりと広がった。ダグラスの周りに残っていた紅い霧が、ふっと消える。「ワード・オブ・コマンド」の声も、聖光の中で、かき消えた。二つの能力が、完全に無効化された。ここにきて、ついに神器の力が発揮される。

 

 俺は、アメリアに向かって叫ぶ。

「アメリア、シエルの剣だ!」

 アメリアは折れた剣を手に呆然としていたが、その声を聞いて、ふと腰に手をやった。そこには、シエルとの戦いの後、大切に差し続けていた、彼女の青い剣が……ふわりと青い光に包まれて、熱を帯びていた。

「こ……これは……!」

 戦いの後、折れていたはずの青剣は、いつの間にか立派な戦士の剣へと再生していた。その剣を抜いて、掲げる。

「アメリア、……いけるぞ!」

「任せて! ファイナル三段+シエルの四段で、七段斬りよ!」

 アメリアが、体勢を立てなおし、剣を構えた。

 


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