第54話 イマジナリー、その真価
◇◇◇◇
俺たちはローズマリー宿場町を後にした。
使者の話によれば、王都はここから馬で三日。サラの足なら、もう少し早く着くだろう。道中、街道沿いの宿場町に二度ほど寄った。
その途中、最初の宿場町で、ふと冒険者ギルドの掲示板を覗いてみた。
ローズマリーで書いた「東の魔王、最後の煎餅」の続きを、ここでも書き継ごうと思って。
ところが――。
「あれ?」
掲示板の、自由書き込みコーナー。
そこに、見覚えのある、誰かの筆跡で書かれた紙が、貼ってあった。しかも、何枚も繋がって。
タイトルは『東の魔王の、最後の煎餅』
俺の書いた、あの作品。
しかも、書いた紙の横には、別の冒険者が、紙片に書いて貼り足したメモが連なっていた。
『感動した。煎餅、食べたくなった』
『ベルフォードさん、いい人だな』
『東タクヤ先生、続きが読みたい』
「……」
俺は、息を呑んだ。
「タクヤ、どうしたの?」
アメリアが、後ろから覗き込んだ。
「これ……」
彼女も、息を呑んだ。
「えっ、これ、リーフベルで書いたヤツじゃない?」
「うん」
「ここ、リーフベルから、馬で二日離れた町よ?」
「うん」
「誰かが、ここまで……書き写して持ってきたのね」
俺の手が震えた。前世では閲覧数、わずか12のラノベ作家だった。
その俺の作品が。誰かが、わざわざ書き写して、ここまで持ってきた。
「……すごいじゃない」
アメリアが、ふっと笑った。
「ファンがいるのよ、タクヤ」
その時。
「あの……」
そのやり取りを聞いて、後ろから、誰かが声をかけてきた。振り返ると、若い二十歳くらいの男の冒険者が、緊張した顔で立っていた。
「あの、あなた、もしかして……東タクヤ、さんですか?」
「あ、はい、そうですけど」
「うわっ、ほんとだっ!」
彼の目が、ぱあっと、輝いた。
「俺、ファンですっ! 『東の魔王の、最後の煎餅』、最高ですっ! 俺、銀霧の里に行こうかと思ってますっ! あの煎餅の店があるって、聞いてっ!」
「あ、ありがとうございます……」
俺は、もう頭が追いつかなかった。
「サインっ、サイン、貰っていいですかっ!」
「ええっ、サイン!?」
「俺、自分の剣の柄に、彫りますからっ!」
俺は、震える手で彼の差し出した、ナイフと剣の柄を受け取った。
……人生で、初めてサインを求められた。
前世で、全然見つけてもらえなかった俺が。異世界で、ファンに会えた。
俺は、剣の柄にちょっと不器用な字で「東タクヤ」と彫った。
「ありがとうございますっ!」
冒険者は、感極まった顔で、剣を抱きしめて走り去っていった。
俺は、しばらくその背中を見送る。自然と、頬がほころんでいた。
「……タクヤ」
アメリアが、隣に立った。
「うん?」
「私の、タクヤよ」
彼女が、ふっと俺の腕に、自分の腕を絡めた。
誇らしげに、胸を張った。
……イマジナリー
それは、人の願望を形にするスキル。
作家になりたい、という強い願い。
人を愛する、強い想い。
それを徐々に、形にする……




