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第47話 セクシーな潜入作戦

◇◇◇◇


 やがて一行は、巨大な薔薇の城門を視界に捉える。高さ二十メートルはある、真紅の薔薇の蔓で組まれたゲート。中央に、巨大な木の扉。その扉の前で、二人の門番が退屈そうに欠伸をしていた。

 

 よく見ると、門番は二人とも人間の男だった。目が虚ろで、口元がふやけている。明らかに誘惑された側の人間だ。


「……あれ、突破するの大変ね」

 アメリアが、ぽつりと言った。

「まともに戦うのも、可哀想だしな」

 奴らも被害者だ。


「正面突破は、無謀ですわね」

「裏門を探すか?」

「いや、こんな大規模な城だ。裏門にも警備がいるだろう」

 アルテミスが、城壁の高さを目で測りながら言った。

「いっそ、変装するか」

「変装?」


◇◇◇◇


 半時間後。

 俺たちは、城門の手前の――薔薇の茂みの陰で、衣装の交換をしていた。


 城の周りを偵察していたサラが、いくつかの荷物を見つけてきた。それは、誘惑された男たちが、家から持ってきたまま、放置していた各自の財産だった。その中に、女性物の衣装が、いくつもあった。

 たぶん、誘惑された男たちが、それぞれ「カミラ様への貢ぎ物として」持参してきた、妻や娘の服。

 

 悲しい話だが、今はそれを使わせてもらう。


 アメリアが、その中から一着を引っ張り出した。黒い薄手の、サキュバス風のドレス。胸元と太腿が大胆に開いている。

「……これ、ほぼ、下着なんですけど」

「お、おう」

「あんた、目、逸らしなさい」

「は……はい!」

 俺は、すぐに後ろを向いた。


 アイリーンも、別のドレスを取り出した。

 白の、半透明の、これまた露出度の高いやつ。

「あら、これ、可愛いですわぁ」

「アイリーン様、平気なんですか?」

「私のローブと、そんなに違いませんわよ」

「……アイリーン様の感覚は、おかしいですよ!」

 アメリアが、半目で突っ込んだ。


 俺とアルテミスは、別の役割。

 誘惑された男のフリ。

 幸い、彼らは皆、虚ろな目をしてぼーっとしている。あの空気を出せれば、怪しまれずに潜入できるはず。

 

 俺は、一度、深呼吸して、目の焦点をわざとぼかして口をだらしなく半開きにする。

「カミラ様……カミラ様……」

 声色は、感情を完全に殺した。

「タクヤ殿、ふむ。なかなか上手だな」

 アルテミスが、なぜか上から目線で評価する。

「アルテミスさんも、やってみて」

「うむ。任せろ」

 アルテミスが、すうっと目を虚ろにした。

「カミラ様……カミラ様……」

 そして、ゾンビのように両手を前に突き出して徘徊する。

 ……ぴたりと、はまっている。本物よりも似合ってるぞ!


「……アルテミスさん、それ、不気味です」

「私は、ふつうにやっただけだが」

「いやいや、なんで普通にできるんだよっ!」

「魔王時代に、何度か忘年会の余興で演劇をやった事があってな。演じるのは慣れている」

「……えええっ、魔王城で……忘年会!?」

 なんか、突っ込み所が多いな……

「おかげで、すごく自然に演じられる気がする。……もしかしたら、これが本来の私なのかも知れない」

「そんな魔王いないっしょ!」

 この作戦、皆意外とノリノリだな……


◇◇◇◇


 そして、二人の女子が、衣装を着終わってこちらを振り向いた。


 俺は、目を見開いた。


 アメリアの黒いドレスは、彼女の鍛えられたしなやかな体に、ぴたりと吸い付いていた。胸元の深い谷間がくっきりと浮かび上がり、長い金髪が肩から流れ落ちている。普段の三段斬りの剣士からは、まったく想像できない、艶っぽい姿。

 アイリーンは、白の半透明のドレスで、もう、ほぼ、全部、見えている。本人だけが、何ひとつ気にしていない。

 

「タクヤ、似合う?」

 アメリアが、ちょっと頬を赤らめて、聞いてきた。

「……あ、ああ、その、めちゃくちゃ」

「ふぅん」

 彼女が、ふっと、口元を緩めた。

「あんたの、その反応、嫌いじゃないけど」

「な、何を、いきなり……っ」

「うふふ」


「アルテミスさんは、私の方、どうですか?」

 アイリーンが、くるりと回ってみせた。

「うむ、女神らしさが……出ていて、よいな」

「えへへ」

「ただ、白の透けが……ちょっと、その」

「あら、何ですの?」

「いや、何でもない」

 元魔王、紳士的に口を閉ざした。


 サラとサラダは、潜入に連れていけない。残念だが、城門の外の、薔薇の茂みで待機してもらう。

「クワッ」

 サラが、寂しそうに鳴いた。

「すぐ戻る。約束だ」

 俺は、サラの首を撫でた。

「ぴーっ」

 サラダも、抱っこ紐から頭を出して、何か訴えるように鳴いた。俺は、抱っこ紐ごと、サラの背中に預けた。サラは、サラダを翼でしっかり抱え込む。


 いよいよ、潜入開始!


◇◇◇◇



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