第38話 ハニーミルクヴィレッジのお風呂
ヴィオラを倒した夕方。
俺たちは、街道沿いの小さな村、ハニーミルクヴィレッジで宿を取った。
昔、王様にとびきり美味い蜂蜜入りミルクを献上した村らしい。例の王様、案の定、めちゃくちゃ気に入って村の名前を変えさせたとのこと。
「ホント、王様、野菜とか食材で名前つけるのが好きだな……」
「あら、ハニーミルクは食材ですけど、野菜じゃないですわよ?」
「アイリーン……突っ込むトコ、そこじゃない」
宿は古いが清潔で、手作りの夕食がすごく美味しかった。久々の屋根の下、もちろんベッドも、お風呂もある。夕食を終えて、女将さんがにこにこしながら言った。
「お風呂、沸かしておきましたよ。一人ずつ、ゆっくり入っていってくださいね」
ありがたい。三日連続で野宿だったので、きちんと体を洗えてなかったな……
「お先、いただきますわぁ!」
最初にアイリーンが、ローブを脱ぎながらいそいそと風呂場へ向かう。
その背中を見送って、俺は自分の部屋でぼーっと天井を見ていた。
しばらくして、アメリアが部屋に入ってきた。
「あら、まだお風呂入ってないの?」
「アイリーンが入ってるから、待ってる」
「ふぅん」
アメリアが、ベッドの端に腰かけた。
俺は、何となく、横を見るのが気まずくて、天井を見続ける。
すると、アメリアが、ぽつりと言った。
「……あのね、タクヤ」
「ん?」
「私……ヴィオラ戦、頑張ったでしょ」
「ああ、最後に頼るのはやっぱり、剣士アメリアだよな!」
「だから、ちょっとそのご褒美に、手伝って欲しいと思って……」
「ご褒美?」
俺が顔を上げると、アメリアが、頬を赤らめてすっと目を逸らした。
「……一緒に、お風呂、入ってくれない?」
「ぶっ!?」
俺は、思わず咳き込んだ。
「お、お前、何を……っ!?」
「い、いえ、その、別に、一緒に湯船、ってわけじゃなくて」
「だよね!?」
「私が髪洗うの、手伝って、って意味で」
「あ、ああ、なるほど」
「アイリーン様、もう出るころでしょうし、私の次は、あなたの番だから……洗うコトだけ手伝って欲しいの。ね? いいでしょ?」
「……分かった」
俺は、心臓を落ち着けながら頷いた。冷静になれ俺。お風呂で髪を洗ってあげる、ってだけだ。それ以上でも、それ以下でもない。
◇◇◇◇
アイリーンが、ほかほかと湯気を立てながら、廊下を歩いて来た。タオル一枚で。
「あら、お二人とも、これからですの?」
「あ、ああ、まあ」
「ご一緒にどうぞ♪ お湯、まだたっぷりですわよ」
「……うん、ありがとう」
アイリーンは、にこにこしながら自室に向かう。何も疑ってない。たぶん。
俺は、アメリアと一緒に、風呂場の脱衣場に入った。
脱衣場は、ふつうの板の間に木のかごが二つ。木の引き戸の向こうが浴室。湯気が、引き戸の隙間からもうもうと立ち上っている。
「タ、タクヤ。あなたは、ここで待ってて」
「了解」
「私が、髪洗うときに声をかけるから」
「うん」
アメリアが、引き戸の奥に消えた。
俺は、脱衣場の板の間に座って、目を閉じる。落ち着け、落ち着け俺。
そんな、いやらしいやつじゃなくて。お風呂で髪を洗ってあげるだけなんだから!……前世の俺は、とにかくラブシーンを描くのが苦手だった。女性の気持ちがさっぱりわからなくて……とにかく、距離感だけは間違えないように、と心に念じる。
しばらくして、引き戸の向こうから、声がかかった。
「タクヤ、お願い」
「お、おう」
俺は、勇気を出して、引き戸を開けた。




