第37話 黒薔薇ヴィオラ戦、決着
地上では、アメリアと俺。
「タクヤ、何か、思いつかない!?」
「考えてる!」
俺は、必死で頭を回した。あのムチを止める方法。
空中のヴィオラを、引きずり降ろす方法。
いや、引きずり降ろす――そう、彼女は空に逃げてるんだ。地上戦に持ち込めばいい。
「アルテミス! ヤツを地上に落とす! 火球をヴィオラの『真下』に打って!」
「真下?」
「当たらなくてもいい! 上昇気流を起こして、バランスを崩させる!」
「……なるほどっ!」
アルテミスが、地を蹴ってヴィオラの真下に走り込んだ。そして両手を空高く掲げる。
「火炎連弾、改ッ!」
彼の両手から何十発もの火球が、真上に向かって放射状に放たれた。ヴィオラの真下の空気が一気に高温になり、ぶわりと熱風が吹き上がる。
「あらっ!? あらあらあらっ!?」
ヴィオラの体が、ぐらりと傾いた。
革の翼は、激しい空気の流れにもまれ、浮力を失っていく。
「あんた、ひどいコトするわね! あっつい、あっついわよ、これ!」
ヴィオラが、ふらふらと、高度を下げてきた。
「アイリーン、上から!」
「ええ、行きますわ!」
アイリーンが、サラに乗ったままヴィオラの上に回り込んだ。そして、女神のローブを両手でめいっぱい広げて、投げ込む。
ばさっ!
次の瞬間、その白いローブは——ヴィオラの頭の上からすぽっとかぶさった。
「な、何ですのこれっ!? 暗いっ!」
「視界を、奪わせていただきますわっ!」
アイリーンの生活感あふれる地味な攻撃が——ヴィオラの動きを一瞬止める。
視界を失ったヴィオラが、ムチを振るうも、もう照準がつけられない。地面に向かって、無闇に紫の閃光を撒き散らす。
「タクヤ、今ッ!」
アメリアが剣を構えた。
俺は頷いた。
「イマジナリースキル! いでよ、足場の踏み台ッ!」
ぼん、と地面に何かが現れた。今度こそ、ちゃんとした大きさ。三段の跳び箱。
「跳び箱!?」
「アメリア、これを使って!」
「よくわかんないけど、やってみる!」
アメリアは猛然と駆け出し……踏切版を思いっきり蹴り、跳び箱を足場にして、空中のヴィオラめがけて跳躍した。
「この剣……届くっ!」
アメリアは空中で剣を振り上げながら突進する。
「一段ッ!」
そのまま剣一閃、ヴィオラの肩をかすめる。
「きゃあぁっ!」
「二段ッ!」
返す刀で、二本のムチを、根元から斬り落とした。鎖が、ぱあっと光になって消える。
「三段斬りィィイッ!」
三撃目が、ヴィオラの体を、思い切り、斜めに薙ぎ払った。
——そのまま、ヴィオラは地面にどさりと落下した。顔を覆っていた女神のローブがはらりと地面に落ちる。
彼女は、地面に座り込んだまま、ふっとため息をついた。
「……負けたわ」
扇子も、ムチも、もう握る力はなかった。
「お見事よ。アメリアちゃん、それに、勇者さんたち全員」
ヴィオラの体が、紫の煙に変わり始めた。
「ふふ……フォー・ローゼスの二番手ヴィオラ、ここに敗れたり、ね」
「ヴィオラさん」
「ん?」
「あんた、強かった」
「あら、お世辞?♪」
「本気で」
俺は、頷いた。
ヴィオラが、ちょっとだけ目を見開いて——ふっと優しく笑った。
「最後に、一つだけ」
「なに?」
「あの巨大ハサミ、ここに置いてったら? 戦った私たちの、記念碑として」
「……ああ」
「私たちフォー・ローゼスが、あんたたちと、出会った場所として、ね」
ヴィオラは、最後にウィンクを残して、紫の煙となって消えていった。
◇◇◇◇
俺たちは、巨大ハサミを見上げた。
「……どうしようか、これ」
「持って行くのは、無理ね」
アメリアが、首を横に振った。
「重すぎて、使い道もないですわ」
アイリーンもため息。
俺は、ハサミの刃に手を当てた。冷たい銀色の金属。確かに、スキルで召喚した物はなぜか消えないのだ。
「ここに、置いていくか」
「そうしましょうか」
「記念碑として」
全員、頷いた。俺はハサミの根元に、ナイフで文字を刻む。
『黒薔薇のヴィオラ、ここに勇者一行と本気で戦い、敗る』
「……今度は、ちゃんと書いたじゃない」
「ヴィオラ、強かったからな」
アメリアが、ふっと笑った。
巨大ハサミは、午後の光を受けて、ぴかぴかと光っていた。誰かがこの街道を通るたびに——なんだろう、これ、と首を傾げるんだろう。
あ、ちなみに……アメリアの鎧は、その後リーフベルに戻って修理を頼んだ。
修理屋のじいさんに「これ、何で切ったんだ? すごい切れ味だぞ」と聞かれて、俺は、無言で目を逸らした。




