第36話 ヴィオラ、本気の鞭
ヴィオラが立ち上がり、笑いを噛み殺しながら扇子をひらりと振った。
「ねえ、もう、いいかしら? あんたたちのコントの後で戦うの、なんか気が抜けるわ」
彼女は、扇子をぱしっと閉じてムチを拾い上げた。
「でも――ここからは、本気よ」
空気が、ぴしっと変わった。
ヴィオラの瞳が、燃えるような赤に——深く、深く、染まる。さっきまでの艶っぽい余裕は、すっかり消えていた。
「遊ぶのはもう終わり。次に倒れるのは、あんたたちよ」
パアアアンッ!
乾いた炸裂音とともに、ヴィオラのムチが地面を抉った。深さ三十センチの溝が、まっすぐ走る。明らかに、さっきまでとは威力が違う。
「みんな、散れっ!」
俺は思わず叫んだ。
ヴィオラのムチが、しなる。
一振りで、五メートル先のアメリアに届く。彼女は紙一重で受けたが、剣身ごと後ろに弾き飛ばされた。
「きゃっ!」
「アメリアッ!」
俺は、彼女に駆け寄ろうとした。が、その俺の足元にもムチが飛んでくる。
「うわぁッ!」
とっさに飛び退いた瞬間、すぐ後ろの大樹が——ムチの一撃でぱっくり真っ二つに裂けた。すごい威力。あれが当たったら、ひとたまりもない。
「あらん、勇者さん、まだ生きてる?♪ ふふ、コント抜きだとね……私、結構強いのよ」
ヴィオラが、ふわりと舞い上がった。背中の革の翼を広げて——街道の中央、開けた場所でホバリングする。地上の俺たちを、見下ろす形になり——そしてムチが、ぐにゃりと二本に増えた。
「二本目、ですって!?」
アイリーンが悲鳴を上げた。
「服従の鎖、もう一度ッ!」
二本のムチが、空中で形を変える。今度の鎖はさっきよりも太く、紫色の禍々しい光を放っていた。
「アメリア! また縛られるぞ!」
「分かってる!」
アメリアが、地を蹴って横に飛んだ。ぎりぎりで鎖をかわす。
アイリーンは、サラとサラダを連れて、岩陰に飛び込んだ。
アルテミスは、両手から火球を放って、迫る鎖を撃ち落とそうとする。
「火炎連弾!」
火球が鎖を焼く。が、紫の鎖は、ちょっと焦げただけですぐに再生して、また伸びてくる。
「くっ、効きが薄いッ!」
「アルテミスさん、援護しますわよ!」
アイリーンが、岩陰から飛び出してサラに乗った。
サラが、地面を蹴って空に舞い上がる。
「クワァアアアッ!」
生まれて初めて、飛びながら戦うサラ。ダチョウなのに……! やる気があれば、空も飛べる!……のか?
「ぴーっ! ぴーっ!」
サラダは、岩陰で、ぴょこぴょこ跳ねている。一緒に飛びたかったけど、まだ無理。
空中で、サラに乗ったアイリーンと、革の翼で浮かぶヴィオラが相対した。
「あらん、サラちゃんが空を? 可愛らしい♪」
「サラちゃんを舐めないでくださいませ!」




