第3話 いきなり魔王!
「……ダウン!」
その瞬間、女剣士が剣を抜き放った。
銀色の刃が、上段から一閃。空気を裂きながら、ゴブリンの脳天を縦に断ち割る。
グガガガアアッ!
「……アップ!!」」
すかさず、背後から迫る二体目を、返す刀で斬り上げる。鮮血が宙に弧を描き、魔物が悲鳴とともに崩れ落ちる。
「……スラッシュ!」
そして地を蹴ると、遠巻きに囲んでいたゴブリンの群れに、一気に飛び込んでいく。閃光のような一閃が、まとめて敵をなぎ倒す。
「……す……すご」
女剣士はカチャ、という小気味いい音を立てて剣を収め、俺の方を振り返る。
「そうだ、自己紹介がまだだったわね。私の名前はフォン・アメリア。通り名は"三段斬りの剣士"よ」
「……三段斬り?」
「テンポよ。何事も、テンポが命。ワン、ツー、スリー、このリズムが大事なの」
そ……そういえば……出会い頭のビンタもそうだった気がする。
「それを知ってから……私は強くなった。この国を守れるほどに。それ以来、なんでも三つのリズムで行動するの。……もちろん、恋もね」
なぜか、ふんすと鼻を鳴らして、得意げに人差し指を立てるアメリア。最後の情報はともかく……なんとなく彼女の人となりはわかった気がする。
「あ……そうだ、俺は東タクヤ。よろしく……!」
俺もぎごちなく挨拶を返す。
その時、ひときわ甲高い住民の悲鳴と、それを呑み込むような、低く重い咆哮が響き渡った。音のする方を見ると――
明らかに、空気の色が違う。
黒い、ねっとりとした禍々しいオーラが、一帯を覆い尽くしていた。その中央に立つのは、黒いベールで全身を包んだ大男。頭からは、捻じれた形のツノが伸びている。そしてその周囲を、異形の魔物たちが、びっしりと取り囲んでいた。
「あ……あれは……?」
俺は思わずつぶやく。
「……ついに現れたわね。魔王アルテミス!」
「え!? 魔王?」
「き……貴様のせいで……仲間たちが……」
俺は飛び出そうとするアメリアの手をむんずと掴んで、引き戻した。
「ちょっとまった! 今、まおう、って言った?」
「ヤツこそ……我が王国を破滅に導く、闇の王! 奈落の底から、ついに姿を現した!」
ま……魔王!?
それ、いきなりラスボスじゃね!? まだ転生したばっかなのに……
しかも、ヤツの周りにはケンタウロス、ゴーレム、オークもいった魔物がひしめいている。正確な名前はわからないが、お約束のヤツらだ。
アメリアと、転生したばかりの俺、たった二人で飛び込むのはどう見ても自殺行為……!
「……待ってくれ、アメリア」
俺のスキルは……想像力マックスの"イマジナリー"。この状況を打破する事をイメージすればいいのでは?
――転ポテは全七部構成、1000話以上に及ぶ巨編で、その構想は既に頭の中にあるのだ。
その中から、ちょうど魔王が登場する432話を思い返した。キャベツ大魔王に襲われたポテトサラダ姫を救い出す、第三部屈指の名シーン(予定)だ。
このシーンで、窮地を救うのは……正義の蒼き翼竜、サラマンダー!
俺は、全神経を集中させ、その勇姿を強く、強く、心の中に描き出す。
燃えるような青き鱗。雲を切り裂く翼。そして、空を支配する咆哮。
そして、詠唱する。
「イマジナリースキル! いでよ、サラマンダー!!」
すると、俺の体がふわりと淡い光に包まれた。光は螺旋を描きながら上空へと立ち上り、空のただ中で、まばゆく弾ける。
「な……なんなの!?」
アメリアは、その強烈な光に思わず顔を背ける。そして、その光が収まる頃に、飛び出してきたのは……
「クワッ! クワッ! クワッ!」
人の背丈ほどの、丸っこいからだに、白黒まだら模様の体毛。必死にバタバタと短い羽をパタつかせるが……
ぼてっ
そのまま、地面に落っこちる!
そして、むくりと起き上がり、悠然と立ち上がって、キョロキョロと周りを見渡す。
「……ダ……ダチョウだ……」
「……ダチョウね……」
俺とアメリアは顔を見合わせる。そ……そういえば、俺は……とびっきり絵がヘタなのだ。サラマンダーを思い描いたつもりが、ダチョウと認識されたのか……
そうこうしてるうちに、魔王の手下どもは俺たちの眼前に迫ってくる。まさにその瞬間!
ぶるぶるぶるぶる
ダチョウの体が、突然、小刻みに震え始めた。
そして、その直後――
ぼとり
ダチョウのお尻から、ラグビーのボールくらいの、おっきな白い、楕円形のモノがこぼれ落ちる!
「……た……卵生んだーっ!」
俺とアメリアは同時に、声を揃えて思わず叫ぶ。
しかし――そんな事お構いなしに、ゴブリンの群れがダチョウに襲いかかる。その内の一体が、卵めがけて棍棒を振り下ろしている。




