第2話 メロンとおっぱいを間違える
しかし、ラノベ作家の俺は、彼女の一言で全てを察していた。つまり……残念ながら、俺はすでに死んでいるのだ。俺はようやく自分の状況を整理するが……同時に、やるせない気持ちに襲われる。
「そうか……死んだのか……」
「……!」
(俺には……やり残した事がある。"転ポテ"を書き切って、そしてアニメ化するという、作家としての大事な仕事が……)
その時、アイリーンが、畳みかけるように問いかける。
「あなたには……生前、やり残した事はないですか? 死んだコトに、後悔はないですか!?」
俺は即答した。
「あ……ありますっ!」
彼女はニコリと微笑み……
「あなたの覚悟、受け取りました。その意気込みを買って、あなたに最強スキルを付与します」
アイリーンは安堵の表情を見せる。
(この世界のコトを徹底的に調べた甲斐があったわ! "ラノベ好き"なら、喜んで異世界に転生して無双して……世界を救ってくれるはず!)
俺は突然の展開にとまどいつつも、安堵の表情を浮かべる。
(なんかすごい雑に話が進んでるけど……まあいいか。転生先ではスローライフを送って、そして……ラノベの続きを書こう!)
「それでは……さっそく、スキルを選びましょう! そうね……まず、あなたの強化したい能力を選ぶのです!」
「……能力?」
「そうそう、攻撃力とか、防御力とか……ラノベ詳しい人なら、なんとなくわかるでしょ?」
「……え……ええと……」
あまりに適当な説明に戸惑いながらも……俺は考えを巡らせる。鍛えたい能力……俺は……絶対にラノベ作家として成功したい。それは、たとえ何に転生しようが揺るがない。ならば、答えは一つだ。
俺はアイリーンの瞳を見据えて、力強く答える。
「……想像力で、お願いします」
(作家に必要な能力は多岐にわたる。文章力、語彙力など……少し迷ったが、やはり面白い物語を作るために、一番重要なのは、想像力だ。しかも、最強スキル、って言ってた! これならデビューも近いぞ!)
その言葉を聞いたアイリーンは、一瞬、けげんな表情を見せた。
(想像力……魔王を倒すのに?……攻撃力じゃなくて?……そうだわ! ヤツを倒して、平和を取り戻すトコロを強くイメージするのが大事、というコトね!)
なんだか、一人でうんうんと頷いた後……
「わかりました。あなたに想像力のスキルを与えましょう。ええと……ええと……」
(とはいえ……そんなスキルあったかしら……)
アイリーンは懐から手帳を取り出して、ぶつぶついいながらページをめくってる。ひょっとしてまだ慣れてないのかな……
(あった! これっぽい!)
そして、両手を大きく広げ、改めて宣言する。
「あなたに付与するスキルは……"イマジナリー"最高レベル! さあ! スキルと共に、わが祖国へ!」
再び、視界に白い光が覆い被さり、体がふわりと浮いた感覚に襲われる。
「ん……ううん……」
体中に衝撃が走り、そのまま倒れ込みながら意識が遠のく。
――ようやく気がついて、目覚めると……どうやら、小屋のベッドの上のようだ。そして、俺の目の前には、なにやら二つの大きなメロンがうっすらと見える。
「ん……お……俺は……フルーツ王国にでも転移したのか?」
無意識のうちに、たわわと実ったメロンをむんずと掴んだ、その瞬間――!
パチイン!
乾いた音と共に、頬に痛みが走った。そこにいたのは……淡いグリーンの甲冑をまとった、金髪の女剣士。鍛え抜かれた体に、はち切れんばかりの巨乳。
……やべえ、メロンじゃなかったかも!
とか反省する隙もなく、女剣士は畳み掛ける。
「エッチ! スケベ! マイペット!」
バチン! バチン! バチンッ!
さらに、リズムに乗せるかのようにビンタ三発。
「……??」
なんだ? 最後なんていった??
「アイリーンから聞いたけど、あなたが異世界からこの世界を救うために志願してきた勇者ね」
さらに早口でまくしたてる。
「前の世界では、一流の"ラノベ作家"だったのね。ラノベが何なのかは知らないけど、色んな世界に転移して、"無双"とか"ツエー"とか言いながら世界を救いまくった歴戦の勇者!」
「……は……はい……」
ええと……一流のラノベ作家、のトコだけあってます……
「スケベだったとは聞いてなかったけど、ギリ許すわ! とにかく、この国を救わなきゃいけないの!」
メロンとおっぱいを間違えたのは俺が悪い。それは謝っとこう。
「は……はい、すみません」
その時よく耳を澄ますと……
ラノベでは、転生した先はのどかな村の小屋、って決まってるのだが……何やら外から、嫌な悲鳴と、うめき声と、何かが燃える音が、混じり合って聞こえてくる。
「……こ……ここは一体……」
「むだ話をしてる場合じゃないわ! さあ、行くわよ!」
そう言って女剣士は俺の体を強引に引き起こし、小屋の外に連れ出す。そこに広がるのは……あちこちで炎をあげ、燃え盛る村に、逃げ惑う人々。その視線の先には、異形の魔物がうごめき……
その中の一体、ゴブリンのような緑色の魔物が、にやりと牙をむき出し、棍棒を振り上げて、こちらへ突進してくる!




