第1話 転生したら、ポテトフライでした
俺は今、めちゃくちゃ忙しい。なぜなら、今年ラノベ作家デビューしたからだ。そう、突然創作の神が舞い降りてきたかのように、スラスラと小説が書けるようになったのだ。
最下層の大学をギリギリで卒業した後、特にやりたいコトもなかったので、ブラブラとバイト生活を続けていた。でも今は、もうフリーターじゃなくて、小説家なのだ!……人手不足もあって、シフトはずんずん増えてるけどね。
今日も夜勤明けでヘトヘトだ。それでも寝転びながら、スマホのアプリを開いて、メモ帳にポチポチと物語を書き綴る。
今書いてるのは、デビュー作「転生したらポテトフライでした。でもポテトサラダも好きです!」略して「転ポテ」。
重厚な世界観が売りの異世界ファンタジーだ。その辺にあふれてる軽薄なテンプレ物とは違う。
ポチポチと書き進めて――投稿サイトにアップする。メジャーなのは以下二つ。
▪️カクマル
異世界ファンタジーの作品が大量に集まる。俺ももちろん、ここにアップしている。
▪️小説家になれば?
いわゆる「なれば系」の小説が集まる老舗サイト。最近は女性向けの方が強く、まだこちらにはアップしていない。
そして、アップした後は仕事の合間とかにチラチラとアプリを開いて、読者の反応を確かめる。
――PV、つまり作品の閲覧数は12、の数字を示したまま動かない。評価を表す星の数は、0のまま。バイト仲間のネパール人、サパコットくんが毎回読んでくれているので、その数もカウントされているはずだ。ただ、彼は日本語読めないけどね。
今13話までアップしてるけど……まだ世界観の説明が終わってないので、数字が伸びないのは当然だ。
緻密に練られたプロットによると――30話で説明を切り上げて、40話までしっかり伏線を張り……43話目から本格バトル。この辺りで人気沸騰するはず!
◇◇◇◇
「いらっしゃいませ」
ピッ、ピッ、ピッ
「お支払い、現金でよろしいですか?」
「ありがとうございました」
今日もバイトを終え、疲れた体を引きずって家に帰る。つくづく、作家というのは忙しい職業だと痛感するが――自分で選んだ道なので、後悔はない。
俺は作家なので、常に頭の中で物語を練っている。帰り道でも、48話で登場する、ポテトサラダ姫の髪の毛を何色にしようか考えていた。
(よし、亜麻色の髪にしよう。どんな色かよくわかんないけど、言葉の響きがいい!)
俺はそう決断して、スマホのメモにすかさず書き込む。
ちょうどその時!
前方から猛スピートでトラックが突っ込んでくる! スマホに気が向いていた俺は、気付かずにはねられてしまった。
「うぐ……ぐぐ……」
体じゅうがバラバラに弾けるような衝撃。視界が白くホワイトアウトする。
「こ……これは……」
目の前には、こんこんと水をたたえる小さな泉。水面は鏡のように静かで、空の青を映している。周囲はやわらかな木々に取り囲まれ、その梢の向こうには、どこまでも澄んだ青空が広がっていた。
風がそよぎ、葉ずれの音がやけに優しく耳に届く。
「東タクヤ、25才、男性、職業ラノベ作家」
そのほとりに、一人の美しい女性が立っていた。肩まで伸びたブラウンの艶やかな髪の毛に、青く澄んだ瞳。年齢は20才くらいに見える。淡い水色のドレスをまとい、胸元にはくっきりと谷間が浮かんでいる。
――そして彼女は、俺の名前をなぜか呼んでいた。
「間違いなきですね」
「え……ええ。あなたは? ここは一体?」
「私の名前は、アイリーン。女神に仕える者」
女性はピシッと俺を指さして、毅然と言い放つ。
「そして、ここは"知恵の泉"です。あなたは、先ほど交通事故で命を落としました。ここは……あなたに新しい能力と、活躍の機会を与える場所」
「……え、ええ!?」
「もっと簡単に言うと……ラノベでよくある、異世界転生ってやつです!」
いきなり分かり易くなった!
「私の祖国は今、魔王軍の襲撃を受けて、危機的状況にあります。私は今、その救世主となる勇者を求めているのです!」
「は……はい」
「タクヤ殿! あなたは……いきなり命を奪われて、悔しいとは思いませんか!?」
「え……ええと……」
それ以前に、色んなコトが起きて、ちょっと整理がつかない……




