第27話 サキュバスの誘惑、ハーレム村
俺たちは町長宅の応接間に通された。そこでは、白髪の老人である町長が頭を抱えていた。
「お恥ずかしい話だが、見ての通りでね……」
「カミラ、というのは?」
「西の方角に、半年ほど前から、巨大な城が出現したんだ。"紅蓮の薔薇園"と呼ばれる、薔薇の城だ」
町長は窓の外を指差した。地平線の彼方に、薄っすらと、何か巨大な影が見える。その周囲には薔薇のつたが絡んで生い茂り、不気味な様相を呈している。
「あの城から……サキュバスたちが現れ、近隣の村々を巡って男たちを誘惑している。一度誘惑された男は、毎晩、薔薇園に通うようになるんだ。そして、いずれ家を捨てて、城に住み着く」
「マジか……」
「うちの町でも、すでに半数以上の男が、夜中に荷物をまとめて出て行ってしまった。残っている男も、いつ取り込まれるかわからん。だから、女房たちが必死で監視しとるんだ」
どうりで、町中の男たちがホウキで叩かれたり、嫁さんに引きずられていたりするわけだ。
「カミラ……それが、西の魔王、というわけですわね」
アイリーンが頷く。
「そういうことだ。王都に向かう街道も、もう、ほとんど機能しとらん。街道沿いの村が全部、同じ状態だからな」
「……」
その時、町長宅の外で、悲鳴が上がった。
「町長! 来てくだせえ! また広場に、サキュバスが出ました!」
「なんだと!」
町長が慌てて立ち上がる。俺たちも、すぐに広場へ駆けつけた。
◇◇◇◇
広場の中央に、その女は立っていた。
露出度の高い、紫色の衣装。背中から伸びる小さな黒い翼。腰のあたりからは細い尻尾が揺れている。豊満な体に、長い黒髪。確かに、サキュバスだ。
彼女の周りには、町に残っていた数少ない男たちが、ふらふらと集まりかけていた。
「あらん♪ お兄さんたち、もっと近くで、お話しないこと?」
ハスキーな声。男たちの目が、たちまち虚ろになっていく。
「もっと、もっと、近くに……おいで♪」
サキュバスが指を差し招くと、男たちが一歩、また一歩と前に出る。
「うわぁ……」
俺は思わず見入ってしまった。あの、なんていうか、その、揺れ具合といい――肌の白さといい、ちょっと、これは。
パチィン!
「エッチ! スケベ! マイペット!」
その瞬間、アメリアがテンポ良くビンタ三連発!
「ぐぼっ! 俺、見ただけ! 見ただけだから!」
「あんたも危ないのよ、男なんだから!」
アメリアが顔を赤くして怒っている。心配半分、嫉妬半分。
横を見ると、アルテミスも、ぼーっとした顔でサキュバスに近寄ろうとしていた。
「あー、私も、ちょっと、行ってみようかな……」
「アルテミスさん、ダメですわ!」
アイリーンが、すかさず耳を引っ張る。
「いたっ! いたたた! すまない、つい!」
「もう、男の人って、本当に弱いんですわね……」
サキュバスがこちらに気づいた。
「あらん♪ なんですの、騒がしい方々ね♪」
彼女の視線が、俺で止まる。
「あら、可愛い顔の坊や♪ あたしのおもちゃに、ならない?」
「やめろぉぉぉ!」
俺は思わず叫んだ。
「お断りだ! 俺には大事な仲間がいるんだ!」
「あら、つれないこと♪ じゃあ、無理矢理にでも――」
サキュバスが、紫の煙を放とうとした、その瞬間。
「一段ッ!」
アメリアが地を蹴った。
「二段ッ!」
返す刀で第二撃。
「三段斬り!」
三撃目が、サキュバスの肩を捉えた。
「きゃあっ!」
サキュバスがよろめく。
「覚えてなさい、勇者ぁ! カミラ様の親衛隊に、報告するからねぇっ!」
彼女は紫の煙となり、空に消えていった。
集まっていた男たちが、ぽかんとした顔で立ち尽くしている。やがて、ハッと我に返ったかのように、それぞれ家に駆け戻っていった。
「……はぁ、助かりましたわ」
町長が、額の汗を拭った。
「勇者のみなさん、なにとぞ、我が町を救ってくだされ……!」
「ええ、もちろん」
俺は頷いた。
「タクヤ」
アメリアが、こっちを横目で見ながら、つーんと言った。
「……何ですか」
「あんた、さっきサキュバスに落とされそうになったでしょ。このスケベ!」
ほっぺをむにゅんとつねって、問い詰める。
「い、いや、あれは見ただけで、別に、その……」
「ふん」
アメリアは、つかつかと先を歩き出した。
俺は、後ろで頬をかきながら、ぼそりと心の中でつぶやく。
……まだ怒ってるみたいだ。
恐るべし、サキュバス。




